開催レポート

開催報告 ODS第2回情報共有会
総務省「自治体DX推進手順書」の概要とその考え方

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる8月25日に会員限定の第2回情報共有会「総務省『自治体DX推進手順書』の概要とその考え方」と題してオンライン講演会を開催しました。そのご講演内容をご紹介します。

 

総務省「自治体DX推進手順書」の概要とその考え方
武蔵大学社会学部メディア社会学科 教授
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構 理事 庄司 昌彦 様

なぜデジタル改革をやるのか

日本には、世界に冠たるデジタル通信網があるはずですが、新型コロナという事態でうまく使いきれませんでした。コロナ対応だけではありません。デジタル敗戦という言葉があるように、20年間、日本のデジタル改革はうまくいってきませんでした。

デジタル改革の遅れは、企業と政府だけの問題ではなく、地域社会全体の問題でもあります。

2018年の情報通信白書のデータで、町内会・自治会、PTA、農協、労働組合、消費者団体、ボランティア団体等々、各地縁コミュニティのソーシャルメディア活用について聞いたものがありますが、日本、アメリカ、ドイツ、イギリスの4ヶ国の比較で、全ての項目で日本が最下位でした。

さらに残念なのは、20年前の2001年3月のe-Japan重点計画というものを見ますと、「すべての国民がITのメリットを享受できる社会を目指し、実質的にすべての行政手続の電子化等を行う」「業務改革、省庁横断的な類似業務・事務の整理、制度・法令等の見直し等を実施する」とあります。今、デジタル庁が言っていることと、ほぼ同じです。

同時に政府はIT戦略本部というものを設置しました。省庁の縦割りを排して省庁横断的な課題について、積極的に横串を通して司令塔的機能を発揮するというものなのですが、これも今のデジタル庁と非常によく似ています。

それから、2013年6月、8年前の「世界最先端IT国家創造宣言」いわゆる政府のIT戦略では、「利用者ニーズを十分把握せず、組織を超えた業務改革(BPR)を行わなかったことで、ITの利便性や効率性が発揮できないものとなってしまいました。各省がバラバラにIT投資、施策を推進し、重複投資や施策効果が発揮できない状況を生み出しました。そしてその結果、ICT世界競争力ランキングにおいて、多くの国の後塵を拝している。」と言っています。デジタル敗戦だということを、8年前に既に言っていました。

つまり20年前から、「すべての国民を対象にする」、「全行政手続きを電子化する」ということは、言っていました。やろうとしていました。それから8年前には、業務改革がうまくいっていないということを反省して、デジタル敗戦から立ち直ろうと、横断的な改革をやろうとしていたわけです。

どうして、前からやろうとしていることが、できていないのか。目標に掲げ、計画を作り、閣議決定や、政府の戦略とされたものが、どうして実現されてこなかったのでしょう。どうして同じ失敗を繰り返しているのでしょう。少し行政の方には厳しい言い方かもしれませんが、行政は、決まったことはやるはずです。どうしてやっていないのでしょうか。この反省に立っていかなければならないと思います。もうさすがに、これ以上の停滞は、許されない状況だと思います。

内部の改革を自分たちで考えることが重要

デジタル化の話をすると、行政の方から、「現場は負担増だといって反対すると思いますよ」と、よく言われます。なぜ、デジタル化すると負担増になるのか疑問だったのですが、こういうことなのではないかと思います。

デジタル改革というと、「市民・住民の皆さんがいろいろ便利になります」というところに、光が当たりがちです。「パソコンでできます」「スマホでできます」「窓口ももちろん残します」「みんなに優しい」ということになりがちなのですが、ただ、行政の中の業務形態は変わっておらず、オンラインで入ってきたものをハンコで承認したり、紙で確認しているとか、紙でファイリングしているとか、アナログに戻す作業がどこかで残っていたりします。このアナログ作業を見直さないと、確かに中の人が大変になるだけなのです。

ですから、大事なのは行政の中の業務形態だと思います。事務のあり方を変える業務改革が必要だと思います。総務や経理に関するルールや、情報管理、文書管理のルールを統括・担当している部署をきちんと巻き込んで、全体的に仕事のやり方、事務のあり方を変える必要があるのだと思います。

誰ひとりとり残さないデジタル社会に向けて

誰ひとり取り残さないデジタル社会とは、どういうものでしょうか。

20年前にIT 基本法ができたころは、インターネットや携帯が出てき始めた状況で、IT基本法は、「使える人はどんどん使っていってもいいですよ。」「使える人はOK」という考え方で、新しいものを広げていこうという位置づけでした。

20年経ち、IT 基本法は、デジタル社会形成基本法という法律に変わりますが、この法律では、ITインターネットの位置づけが、全員に必要なものというように、前提が変わったのだと思います。コロナ対策を考えると、理解しやすいと思います。

例えば、義務教育をオンライン化するということは、全ての子供が対象となります。それから行政や福祉も、対面を避ける必要がでてきます。移動困難な高齢者にも、対応する必要があります。行政サービスは全ての人が対象ですから、全ての人がオンラインで可能なようにしておかなければいけないわけです。それだけではなく、公務員の方も、できるだけ家から仕事できるようにする必要があります。IT が全員に必要なものに、位置づけが変わったということだと思います。

では、IT が全員に必要だとして、ITを誰でも活用できるようになるためには、何が必要かという点ですが、「インフラ」「端末」「リテラシー」「相手」の4つに分けて考えています。

まず「インフラ」です。携帯電話は日本の津々浦々だいたい繋がるようになりましたし、高速ブロードバンドも、だいたいどこにいっても使えるわけですけれども、動画視聴やWeb 会議がどこでも快適にできるかというと、まだそうでもない場所があります。回線がいっているかという問題だけでなく、一度に皆使ったらどうなるか、ということも問題になるわけです。一度に皆が使える回線かという点でも、インフラを再度見なおさなければいけないと思います。

それから「端末」についてですが、大学でも、オンライン授業をやるにあたって、学生がパソコンを持っているのか、スマホしかもっていないのかを調べて、ないという学生には貸し出したりしました。パソコンがあると言っても、古いパソコンで、動画やWEB会議を繋ぎながらですと、他の作業ができないという学生もいます。ですので、みんなに必要な生活の基本の道具ですから、端末がきちんと機能して問題なく使える性能か、ということが大事です。

それから「リテラシー」です。全ての人がオンラインで、買い物ができたり、行政手続きができたりしなければいけないわけですから、あるいはフェイクニュースに騙されないなども含めて、全ての人にリテラシーを身に付ける機会を作っていかなければいけないだろうと思います。

そして「相手」です。デジタル社会において、人と繋がっていること、コミュニティに所属していること、あるいは支援してくれる人と繋がることというのは、すごく大事です。インフラあります、端末あります、リテラシー教育の機会を提供しました、だけですと若干足りないと思います。繋がりを作っていくということも、テーマに入れておくべきではないかと思います。

特に高齢者の方に関して、例えば、おじいちゃんとおばあちゃんが協力して、スマホで連絡ができるようにできないか、オンラインで買い物ができるようにできないか、あるいは、使い方などが分からない時に、誰かがサポートできるようにできないか、と考えたとき、「相手」というものが大事になってくると思います。それは、孤独対策にも繋がるのではないかと思います。

デジタルは「冷たい」ですとか「効率至上主義」などと言われますが、そうではない面もあるわけです。人にやさしくデジタルを使うということです。無駄な人海戦術を禁止して人を楽にするというデジタルの使い方ができると思いますし、例えば、拡大したり、読み上げたり、好きなところだけ印刷したり、何か繰り返してあげたり、あるいは、利用者の癖を学習してあげたり、人に優しい使い方がいろいろできると思います。こういうように、柔軟に人に合わせられるのもデジタルの良いところです。

それから支える人を支えることにも、デジタルは活用できます。おじいちゃんおばあちゃんや子供たち、障害を持った方など、そういった支えが必要な方達を支える仕事をされている、教員や介護職の方々が、非効率な仕事の仕方をしている状況があります。非効率的な窓口業務など、公務員もそうです。

そういった方たちの仕事の仕方にテコ入れしていき、エンパワー、デジタル武装を支えていくと、例えば病院や介護で働く人たちなどが、もっと人に向き合えるようになるわけです。支える人を支えるということも、人にやさしいデジタルの、一つのやり方だと思います。

どのような「IT 人材」が必要になるか

自治体のDXという観点で、IT人材が必要だということが、よく言われます。「自治体のDXには、どういう人が必要ですか」とよくきかれますが、私は、あえて変な言い方をすると、デジタル改革に必要なのは、アナログの改革だと思います。つまり、仕事の仕方を見て、「もう少し何とかできるんじゃないか」「おかしいな」「もったいないな」と問題を発見できる、従来の仕事の仕方を、批判的な目線で見られるということが大事だと思います。それぞれの現場で自分がやっていること、あるいは自分の組織のことにきちんと向き合って、理解して、問題を探して、もっと良くできないか、何か違うやり方がないかと考えることがすごく大事だと思います。その上で、ここを直そう、これを見直したいとなったときに、デジタルの力を十分に引き出す、新しい仕事の仕方を設計するということです。

DXをやるにあたって、すごいスーパーマンみたいな人材を東京から連れてくるとか、大企業から連れてくるということをしても、それだけではなかなか動かないと思います。それよりも、あちこちで「これを何とかできないかな」という批判的な目線が生まれ、もっと良くしようという議論が生まれていくということの方が、むしろ大事だと思います。

自治体DX推進手順書について

ここから、自治体DX推進手順書等々の話に入っていきます。

デジタルガバメントをやるうえで根本になるような、デジタルガバメント実行計画という政府の計画があるのですが、去年の12月にその計画の見直しがあり、その見直しの中で、国・地方デジタル化指針という指針が出ています。さらに、自治体DX推進計画という計画が去年の12月にでき、これは、令和7年度末までの5年間を対象としたものです。その計画の一環として、これからお話しする「自治体DX推進手順書」というものを政府は、今年の7月に出しました。

この手順書は、4つの冊子からなっています。ひとつが「自治体DX推進手順書」、「全体手順書」といわれるものです。それから、「自治体情報システムの標準化・共通化に関する手順書」、「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書」。それから「参考事例集」となっています。

とくに重要なのは、「自治体情報システムの標準化・共通化に関する手順書」と「自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書」の二つです。この二つの手順書は、APPLICの吉本明平さんの言葉を借りると、法定DXというもので、国が自治体に、必ずこれはやってくださいと決めたものです。

自治体情報システムの標準化・共通化に関する手順書

ここでやることは、地方自治体の主要17業務のシステムの統一・標準化です。仕様は、デジタル庁の基本方針によるものを、関係府省で作成しています。総務省や、厚生労働省、内閣府などで、今作成しています。そして、標準仕様に準拠して各事業者が作ったシステムを、地方公共団体が利用する、いわゆるSaaS型をイメージしています。法律は、21年に通常国会で成立しました。

それから、財源について。国は財源面を含め主導的な支援を行います。より具体的には、必要となる準備経費(現行システム概要調査、移行計画策定等)や移行経費(接続、データ移行、文字の標準化、契約変更等に伴う追加的経費=違約金、等)に対する補助についても出しますということです。目標時期は、25年度です。多様な実情・進捗をきめ細かく把握し、丁寧に意見を聞いて進めていこうとなっています。

私が関わっている住民記録システムや、地方税のシステムの仕様書についても、自治体の皆様に意見照会して、地方税については、数万件のご意見が届いて大変なのですが、本当に細かいところまで検討しています。それから手順書なども作ります。

自治体情報システムの標準化をなぜやるのか、ということも確認しておきたいのですが、実は標準化については、コロナ前から取り組みが進んでいました。自治体情報システムの標準化の目的は、いわゆる2040年問題に対応することです。

2040年問題を説明しますと、高齢者人口のピークが2040年以降にきます。しかも人口がピークなだけでなく、人口ピラミッドが逆三角形になります。団塊の世代も一番上にいるでしょうし、団塊ジュニアも高齢者に入ります。上が、頭が重たいわけです。上がすごく重くて、下の人が本当にかわいそうな状況になるわけです。行政ニーズは高齢者が多くなるため多い。職員はどう考えても少ない。こういう状況の中で行政を適切に回し続けていかなければいけないとなると、人がやらなくていい仕事は、AIもロボットも使い、共通化できることは共通化して、どんどん軽くしていく必要があるということです。

標準化共通化の意義と効果についてですが、皆で同じものを使えるわけですから、割り勘で物を使うということで、コスト削減が図れるはずです。コスト3割減を目指しています。乗り換えもできるようになるので、ベンダーロックインも解消していきます。それから、人が楽になれば、職員でなければできないような業務に人を振り向けられますし、新しいデータを作りやすくなるなどの効率化も図れると考えています。

ガバメントクラウドというものがあります。ガバメントクラウドの上に、それぞれ住基とか地方税とかのアプリケーションがベンダーごとに乗っかっているというのが目指されている姿です。ガバメントクラウドについては、先行事業のようなものが今始まりつつありますけれども、単独のAWSではなく、ある基準を満たした複数のクラウドサービスの利用環境、複数のクラウドサービスの総称となるようです。この部分はやや検討が遅れていて、私も情報が足りない状況です。今見えてきているのはこういうものです。基本的には政府が使うものですが、そこに地方公共団体も準公共分野も乗りましょうということになっています。

標準化共通化のスケジュールです。

第1グループ、第2グループと17業務が2つのグループに分かれています。まず、パイロットとしてやってきたのが住民記録です。そして地方税、それから、就学、介護保険、障害者福祉、これら第一グループが、2021年夏に、仕様書が公開になります。8月末から9月頭には仕様書が一旦、公開されると思います。第2グループは、来年夏に仕様書公開の予定となっています。

自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書

行政手続きのオンライン化については、マイナンバーカードの普及を前提に、マイナンバーカードの使い道を増やしていこうということです。

今、マイナンバーカードの交付率は、34%まできています。交付が進んでいる加賀市では、66.8%まで進んでいます。30何パーセントということは、パスポートよりは普及している、免許証ほどではない、という状況です。普及していく際、ラガードと言われる最後までなかなか乗ってくれない人に、どうアプローチするかというのは大きな課題です。解決策として、スマホに搭載することができるようにする、免許証との一体化や、健康保険証にもできるなど、マイナンバーカードの使い道を増やしていくことを、目指しています。

それから、普及状況ということでいうと、小学生になったら一回普及率がへこんでいて、30代~40代で1回へこんでいます。恐らくこういった年齢層の人がマイナンバーカードを受け取りに行きにくいのだと思います。こういう状況を細かく見て、普及を進めていく必要があると思います。

ユーザー体験について、交付手続で待たされているという不満がTwitterなどで見られます。UX、ユーザー体験をよくしていく必要があると感じます。

マイナンバーカードの使い道について、ここにある31手続き、子育て関係、介護関係が多いですが、こういったものが優先的にオンライン化を推進すべき手続きとして、選定されています。

最後に

デジタル敗戦、デジタル化の遅れというのは重たい社会課題の原因にもなっているのではないでしょうか。

デジタル改革に何度も失敗してきたということは、反省しなければならないと思います。失敗はもう繰り返せません。2040年問題もありますが、将来に対して、ここからさらに10年先送りして、10年後もまだハンコを押している状況というのは、もうあり得ないと思います。将来の世代に対する責任としても、今回こそは、やり遂げないといけないと思います。表面的に、ただスマホからできる新しいサービスが増えました、ということではなく、本質として、きちんと仕事の仕方の改革、アナログの改革をする必要があると思います。

組織の在り方をすっかり変えて、人々の生活をよい方向に変化させるということです。行政が変わることが、社会全体の DX を進めます。誰ひとり、とり残さない、人にやさしいデジタル改革を実現しましょう。人材としては、「課題を発見し指摘できる人」、「デジタルの力を引き出す『仕事の仕方』を設計できる人」 が求められます。

国の「自治体 DX 推進計画」の重要取組事項は、標準化共通化、手続きオンライン化、マイナンバーカード普及、AI/RPA、テレワーク、セキュリティの6項目です。国がこういうことをやりますと、デジタル改革を法定で進めるたけでなく、「仕事の仕方」を自ら見直す、地域社会全体の、アナログ改革を進めていただくことが必要だと思います。