開催レポート

開催報告 ODS第4回研究会 講演②
「市民と『ともに創る』持続可能なまちづくり」(茨城県つくば市)

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構は2022年1月20日に、第4回研究会「持続可能なまちづくりを目指すSDGs未来都市に選定された自治体の取り組み」を開催しました。本稿ではつくば市様のお取組みについてご紹介いたします。

 

「市民と「ともに創る」持続可能なまちづくり」
つくば市 政策イノベーション部持続可能都市戦略室 室長 吉岡 直人 様

 

つくば市の特色

まず、皆様につくば市について知っていただければと思っております。つくば市といいますと、まず科学の街・筑波研究学園都市があるということでご存知なのかと思います。政府系の機関を含む官民研究機関数は約150あり、ここに研究者の方が約20,000人従事されています。そして約8,000人の博士号をお持ちの方が居住していらっしゃいます。市長がこういうご説明の機会には、大変申し訳ないですが、よく「石を投げれば博士に当たる」などというご紹介をしております。確か市長も博士だったかと思いますので、「市長にも石が当たってしまうのかな?」なんて思いながら、いつも聞いているところです。

1985年には「つくば科学万博」が開催されました。2005年には「つくばエクスプレス」が開通しました。現在は1日32万人以上の乗降客があり、つくば~秋葉原間を45分という短い時間で結んでおり、東京に行きやすくなりました。また、このエクスプレスの開業に伴いまして、沿線で住宅開発がどんどん進み、今現在でも人口が増えているといった恵まれた状況にあります。

筑波研究学園都市として集積された最先端の科学技術を、身近な市民生活に実装しながら社会課題の解決に繋げて、市民の皆様にも科学技術の恩恵を感じてもらいながら、国内はもちろん世界に向けて成果を発信して行くことがつくば市の責務ではないかと考え日頃から業務を進めているところです。

つくば市の課題

先ほど人口は増加傾向にあるというお話をしましたが、将来的にはこのSDGsの目標年にあたる2030年をピークとして、生産年齢人口が減少に転じてしまいます。自治体としては、こういった働く年代の税金を納めていただける方が減少していくということになると、都市として持続可能性という面では非常に危機的な状況になっていくと考えます。今から対策を取らないと、あっという間に2030年が来てしまいます。

少子高齢化を見ていきます。つくばエクスプレス(TX)が開通したということで、沿線地区については出生率は2.24と高く、高齢化率は4.4%と非常に低い数字で、TX沿線にどんどん若い方が居住いただいていることがこの結果につながっています。一方で茎崎地区は出生率は0.90、高齢化率は37.9%と、出生率が低くて高齢化率が非常に高いという形でTX沿線地区と周辺地区とで少子高齢化の波に大きな差が出てしまっています。

この影響が大きく出ているのが学校の関係です。TX沿線地区はどんどん子ども達が増えていますので、教室も足りなくなって学校も新設しているという状況にあります。一方で、北の方の筑波地区ではいくつも小中学校があったのですが、そちらは小中一貫校1つに統合しました。それほど大きくない自治体の中で、学校新設と統合が一緒に起きてしまうというのはなかなか無いことなのかと危機感をつのらせています。

また子どもの貧困も課題です。市内に小中学生約21,000人がいますが、その中で就学支援を受けている子供たちが全体の約7%にあたる1,500人程おり、この数字が年々増えているという状況です。


こういった貧困の子供たちの数字は他の自治体に比べて高いわけではありません。つくば市として子どもの貧困に対して様々な支援をしてきましたが、なかなか深く認識されていない状況でした。五十嵐市長が就任当初から、子どもの貧困に対しては包摂の精神のもとに対策を積極的に取り組んでいく、貧困の連鎖を断ち切るということを課題として、しっかり取り上げようということがあります。

つくば市のSDGsへの取り組み

これら課題を一つひとつていねいに取り上げ、持続可能都市という大きな目標に向けて各担当部署でその解決のために様々な取り組みを始めています。SDGsという17のゴール、言い換えれば17の課題であり、目標、解決しなければいけない課題とらえ、こういったものを一つ一つ解決することで世界のすべての人たちが幸せに暮らせる社会を実現することに繋がると考えています。つくば市が少しずつ持続可能な都市に近づいていけば、それは日本、ひいては世界の持続可能性につながると考えSDGsに取り組んでいます。

さきほど、つくば市では集積された最先端の科学技術を身近な市民生活に実装しながら社会課題の解決に繋げていくことが使命であるというお話をしました。市長が「世界のあしたが見えるまち」というヴィジョンを打ち出していますが、そういった解決モデルをこのSDGsを通して世界に発信していくということがヴィジョンの実現に向かうのではないかと考えています。

そして、本講演のテーマである「ともに創る」というところですが、こうしたSDGsを展開していくには行政だけではなく市民の力を借りながら進めていかなくてはいけない、市民が一丸となってこの持続可能都市を実現していく「市民協働」による展開を考えています。

こういったコンセプトで進めているつくば市のSDGsの取り組みですが、これまでの取り組みについて順番に説明します。

まずは始まりのところですが、市内在住のSDGs専門家の方を講師そして職員向けの研修会を行いました。有識者や専門家が数多く住まわれているという恵まれた地域のおかげです。研修会を何度も開催するうちに、職員だけではなく議員の皆様にもSDGsを知っていただいた上で、これはぜひ市民の方々にも伝えるべきものではないかということで、2018年の2月に「つくばSDGsフォーラム」を開催いたしました。

このフォーラムの中で、つくば市がどのように持続可能な街づくりを進めていくかという指針「持続可能都市ヴィジョン」を公表しました。またその後、つくば市のSDGsの取り組みを本格的に進めていくにあたり、国に対してもその取り組みを認めていただきたいと考えSDGs未来都市の公募に応募し、採択していただきました。

そこから3カ月後の9月には、つくば市がSDGs未来都市として進めていく取り組みをまとめた「つくば市SDGs未来都市計画」を策定しています。その中心になる、市民が一丸となって取り組んでいく組織として「つくばSDGsパートナーズ」を2019年4月に設立しています。このSDGsパートナーズの会員向けとして、2019年10月に「SDGs TRY」という事業を開始しました。これは、ワークショップを通じて市の課題などを話し合ってもらい、市民で解決を実践に移してみるといった事業です。課題解決に直接、市民が動くことを目指したものになります。さらに2020年3月にはつくば市の最上位計画である「つくば市未来構想」が改訂のタイミングになったので、そこでSDGsの理念をつくば市未来構想に反映することとし、その際に「持続可能都市宣言」を発表させていただきました。

「持続可能都市ヴィジョン」は4つの柱があります。つくばに集う全ての人を「誰一人取り残さない」包摂性。持続可能なまちづくりを進めていくには、人材の育成が欠かせないということで人材育成。そして、つくばに集積された最先端の科学技術を市民の皆様の生活にも貢献していくという科学技術都市。そして最後に、市民の皆様と一丸となってまちづくりを進めていく共創都市。この4つを柱に持続可能なまちづくりを進めていくという方針を打ち出しました。

ヴィジョンから2年後に発表した「持続可能都市宣言」は先程の4つの柱を引き継いだものになります。未来構想改訂の際に、ヴィジョンをもとに市民の皆様からも意見を取り入れ、2030年に目指すまちの姿という新しい形で作った4項目になります。「魅力をみんなで創るまち」は共創都市を目指したものです。「誰もが自分らしく生きるまち」は包摂性になります。「未来をつくる人が育つまち」はまさに人材育成になります。「市民のために科学技術をいかすまち」は科学技術を活かすということで、この4つを2030年のSDGsの達成年度に目指す宣言として、あらたに発表させていただきました。

SDGs未来都市は2018年に採択されまして、2018年9月に「SDGs未来都市計画」を作成しました。すでに2018年から3カ年の計画が終わりまして、現在では2期目の計画に入っております。その中でも重点事業として(1)から(4)の4つの重点事業を行っていますが、順にご説明いたします。

SDGs未来都市としての重点事業

まず1つ目は「周辺市街地の振興」です。先ほど課題のところでご説明した、TX沿線地域と周辺地域で少子高齢化に非常に差が出てしまっていることを改善するための取り組みです。つくば市というのは、じつは6町村が合併してできた市になります。合併前の旧6町村には、それまで市街地として発展していた8カ所の地域があり、こちらをリージョン・エイト=R8(アール・エイト)と呼んで、その周辺地域の振興を進めていくというのがこの事業になります。各地域に住民主体の組織を作りながら、地域診断とかコンペティションなどを実施し、色々な施策に取り組んできました。現状ではチャレンジショップなど、経済的な活性化を目指した取り組みも進めています。

2つ目が「つくばこどもの青い羽根基金」です。先ほど、子どもの貧困対策に積極的に取り組むと申し上げたものに対応する事業です。赤い羽根というのはご存知と思いますが、赤い羽根のような形で募金をいただいた方に青い羽根をお渡ししています。皆様からの募金は子どもの未来支援事業として、例えば「つくばこどもの青い羽根学習会」「学習塾代助成」「子ども食堂支援事業補助金」に活用し、この事業を通して子どもの貧困の連鎖をなんとか止めていきたいという内容になっています。

3つ目は「つくばSociety5.0社会実装トライアル支援事業」です。最先端の科学技術の実証の場をつくばにということで、全国から様々な社会課題を解決するような最先端技術を募集し、つくば市をフィールドとして提供させていただき実証実験をしていただくというものです。

それによって、市民の皆様にはこういった最先端の技術があるのかということを身近に感じてもらうとともに、それを社会実装していただくための足がかりにしていただきたいと考えています。市はフィールドを提供するだけではなく、少ない金額ではありますが資金的な支援も行っています。まさにこちらの事業を進めることによって、先ほどの課題の解決モデルをつくば市から世界に発信していきたい、「世界のあしたが見えるまち」の実現につなげたいという事業になります。

4つ目は「つくばSDGsパートナーズ」です。こちらはつくば市のSDGs推進の要になる事業だと考えています。2019年4月に発足した組織ですが、現在では個人会員が約380名、団体会員が108団体と、徐々に会員を増やしてきました。個人会員についてはSDGsパートナー講座を受講いただいて基本的な知識をご理解いただいた方々が会員になっています。団体会員については、つくば市内で取り組みを既に行っている企業とか、これから取り組みを計画しているような企業に登録をいただいています。

個人会員向けに社会課題解決型ワークショップ「SDGs TRY」という、市民が自ら社会課題について考え、実践をめざしていくといった事業を行っています。団体会員向けには会員間の交流会を実施しています。こういった取り組みにつきましては、市の専用のSDGsポータルサイトを設け、情報を発信しています。

つくば市におけるSDGsと市民協働

つくば市SDGsパートナーズは市民とともにSDGsの取り組みをして持続可能な都市を実現していくための中心的な組織です。SDGs未来都市計画は、1期では市の最上位計画である「つくば市未来構想」にSDGsの理念を反映したり持続可能都市宣言などを行うなど、行政主体の取り組みをしていくことをメインの目標として掲げていました。2期の計画では、それを行政主体から市民中心の行動に移し、終了したこの2つの目標に代えて、「市民のSDGsの認知度」の向上と「SDGsパートナーズの会員が社会課題の解決に関する活動に参加している割合」という2つの目標に変更しました。これをターゲットにすることによって、より行政中心から市民の協働中心の計画にしたいと考えて、こういった目標を打ち出しました。

実際にこの目標値がどういった形で推移しているかということをご説明したいと思います。まず、1つ目の「市民のSDGsの認知度」に関しましては、市民意識調査という2年に1回の調査で調べており、結果の「よく知っている」「少し知っている」「名前だけは知っている」という合計の値を数値としています。令和元年度は34.9%でしたが、令和3年度には72.8%と、世の中でSDGsという言葉が急速に広まっていった影響はもちろんありますが、市の様々な取り組みの効果もあったのかと認識しています。

2つ目の「SDGsパートナーズの会員が社会課題の解決に関する活動に参加する割合」は、毎年1回パートナーズの会員アンケートの中で調査している項目になります。令和元年度は38.1%でした。令和2年度は35.9%と実は若干低下したのですが、令和3年度には58.6%というふうにだいぶ上昇してきました。社会課題の解決に直接かかわる会員向けのワークショップ「SDGs TRY」を行ってきた中で様々な交流が生まれ、あらたにボランティア活動などを始めた会員も多くいることから、そういった影響がこの数字の上昇に繋がったと考えています。

「つくばSDGsパートナー講座」は、パートナーズという組織が設立される少し前から始まっています。2021年11月に第15回の講座を実施し、本年2月には第16回を予定しています。こうした講座を年に3~4回程度実施していますが、講座を引き続き進めることで市民のSDGsの認知度向上に繋がっていると考えています。

現在はコロナ禍ですのでこちらの写真にあるようなオンラインで実施しており、毎回40~50人程の方に参加いただいています。こちらに新規で受講された方がつくばSDGsパートナーズの個人会員になるという制度になっています。

 

この講座は筑波大学と共同で実施しており、市と大学で共同で講師を選定し、募集については市の広報紙を使っています。当初は大学の先生を中心に講師をしていただきましたが、その後は団体会員になっていただいたNPOの方とか、学校の教員の方などにも講師をお願いする形で継続的に実施をしています。

 

社会課題解決型ワークショップ「SDGsTRY」はパートナーズの会員向けのワークショップです。市民が自ら地域の社会問題について考え、その解決方法を話し合って提案するというのが一般的なワークショップですが、それをさらに事業を実践するところまで目指せないかということで、年に3回から4回のワークショップとその間に自主的な活動などを通して、さまざまな取り組みを進めています。

こちらの方もこのコロナ禍の中でワークショップはオンラインということで、活動自体も具体的に実施することがなかなか困難な状況になっています。そういったこともあり、今年度からは個人会員だけではなかなか難しいため、企業などの団体会員の方にも加わっていただき、解決に向けた活動へさらにサポート体制を強化しています。

なかなか活動は難しい状況ではありますが、子どもたちのつくば市に対する知識の向上などを目的にした「つくば検定」とか、生ごみの堆肥化のための「ダンボールコンポスト講座」など、市民の皆様が自ら実践するという形で、いくつかの活動が始まっています。

この「つくばSDGsパートナーズ」は、目的として「共感」「共創」「共鳴」という3つのステージを進めていくことで持続可能なまちを目指しています。特に「SDGs TRY」では、この3つを一つひとつ全て実践する形の取り組みとなっています。

まずワークショップの中でまちの課題を共有して実感するという「共感」のステージがあり、それを実際にチームを作って何か取り組んでいく「共創」のステージ、そして取り組みが行われることで「共鳴」のステージになるとパートナーズはもとより市民に「自分たちでもできるんじゃないか」といった思いが生まれて波及効果でどんどん広がっていきます。そうした「共鳴」のステージを最終的に目指しながら、この活動を進めています。

また、こうした波及効果の取り組みだけではなかなか進みませんので、この「SDGs TRY」のワークショップの中で会員交流会も実施しています。ワークショップ終わった後に会員が交流をしていくことで、よりこの波及効果の流れを促進したいと考えています。

SDGs TRYによる市民協働

つくば市のSDGsの取り組みの中心になる「SDGsパートナーズ」はまさに市民が一丸となって進めていく象徴的な組織です。この個人会員が対象になっている「SDGs TRY」は、まさに市民が自ら課題を解決していくための第一歩です。昨今はコロナ禍で具体的な活動をしていくことが難しい状況ですが、こういった一歩踏み出すことによって市民が自分たちでSDGs向き合い、社会課題を解決して持続可能な都市が作れるのではないでしょうか。そうしたことを考えていただくきっかけになり、「共鳴」のステージの波及効果につなげることで社会課題の解決を進めています。

さきほど説明した目標の中でSDGsの認知度や、社会活動にSDGsパートナーズの会員の方々が参加している割合などをKPIにしていましたが、これを今はまずパートナーズの中でこういったものに参加している割合を増やしていった上で、将来はこれをもっと市民レベルで増やしていく、市民を対象としてこうした目標を掲げられるようになればいいなと考えています。

また波及効果として「共鳴」することのほかにも、「SDGs TRY」の中で参加者の方にはぜひ将来的にNPOや市民団体、あるいはソーシャルセクターの企業などを創業していただくような人材に育っていただくことも成果として考えられると思っています。

持続可能都市宣言の中で、包摂都市、共創都市、科学技術都市、人材育成都市という4つの柱をお話しました。なかでも共創都市、市民の皆様と一丸となってやっていくということを中心にご説明しました。「持続可能都市宣言」の中で人材都市として「未来をつくる人が育つまち」を掲げてており、これがまさに人材育成の一番重要な部分だと考えています。こうしたところを目指して市民の皆様一丸となって持続可能なまちづくりを進めて行きたいと考えております。