開催報告 ODS第5回研究会 講演①
「子育て中の新しい働き方 日進市ショートタイムテレワークの取り組み事例」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる2月2日に第5回研究会「多様な方が地域で働ける仕組みづくりを考える ~自治体と地域企業とで取り組むショートタイムテレワーク~」をオンライン開催しました。この研究会では2名の方に講演をいただきました。本稿では講演①、日進市産業政策部 産業振興課 商工新ビジネス係長 中根太地様のご講演内容をご紹介します。

「子育て中の新しい働き方 日進市ショートタイムテレワークの取り組み事例」
日進市産業政策部 産業振興課 商工新ビジネス係長 中根 太地 様

日進市の概要とショートタイムテレワーク

日進市は愛知県のほぼ中央に位置し、西は名古屋市、東は豊田市といった都市部に囲まれる緑の多い住環境都市です。写真は市役所周辺を撮影したものとなりますが、市街地の中にも多くの緑が残っています。

日進市の人口は約93,000人。土地区画整理事業を中心に街づくりにより、平成6年10月1日の市制施行から、現在にいたるまで約4万人の人口増加となっています。特に子育て世代を中心とした人口の増加が著しく非常に活気のあるまちです。

まちづくりの一環として、資料に記載のあるとおり、多くの企業とも包括連携協定等を締結しています。
今回ご紹介するショートタイムテレワーク事業についても、持続可能なまちづくりと地域活性化に関する連携協定および子育て支援等の事業連携に関する協定を締結しているソフトバンク株式会社様から事業提案をいただき、本市で検討しているものとなります。


ショートタイムテレワーク事業につきましては、育児や介護などを理由に、働く意欲や能力があっても長時間勤務や通勤が困難な人が、ICTを活用して自宅などで短時間就労できる新しい働き方、いわゆる自宅でICTを活用したテレワーク事業と捉えていただければと思います。日進市では本事業の実施を子育て世代を中心として事業化を進めているところです。

日進市における女性の労働課題

女性の労働課題としては、年代別の労働力や就労状況において、いわゆるM字カーブといわれる子育て世代の就労率の低下が全国的な課題となっています。日進市においては、当数値が国や愛知県の平均値より若干低く、当数値の改善が課題として挙げられています。
また、日進市男女平等市民意識調査(令和元年実施)では、「働きたいけれども働くことができなかった経験がある」と回答した女性が約4割いることが分かりました。特に子育て世代である30代から40代の女性では4割以上回答があり、こうした経緯からショートタイムテレワーク事業の実施を検討いたしました。

日進市におけるショートタイムテレワークの事業設計


それでは、日進市におけるショートタイムテレワーク事業の事業設計について説明をいたします。
先に結論をお伝えいたしますと、いきなりの本実施ではなく、ある程度の事前検証を行うものといたしました。検証事項としては大きく3点となります。

まず1点目として、本事業にご協力いただく実施企業側の事項となります。業務の棚卸やICT機器を使ったテレワークなどの業務体制に加え、生産性が向上するメリットのある事業にできるかということ。子育て世代特有の突発的な休暇等も考えられることから、一定の雇用理解が得られる事業なのかということ。また、企業側が本事業に対しどう期待され、どの程度需要があるのかといった事項が未知数でした。
2点目として、本事業に参加いただくワーカー側の事項となります。本事業に参加したい方がどの程度いるのか、どのような人材が日進市に眠っているのかが未知数でした。
3点目として、最も重要視した事項となりますが、子育ての実情を踏まえ、どういったところが配慮しなければいけない課題なのかを実の声として把握しておきたいという考えがありました。
こうした事項を踏まえ、日進市では昨年10月から6ヶ月の期間でトライアル事業を行うことといたしました。

実施企業については、子育てに理解のある企業でないと難しいと考え、市内中小企業1社とし、ワーカーについては、ある程度ワーカー同士の連携を取った方がいいと考え、子育て世代を対象に3名といたしました。
また、勤務時間については、子育てに無理のない就労形態として週8時間程度とし、ソフトバンク様から貸与いただいたiPadを活用し、自宅でのテレワークとして設計しています。

実施企業の選考につきましては、女性雇用や子育て雇用に対し理解のある企業が望ましいことから、愛知県で女性の活躍促進プロジェクト関連の事業に取り組んでいる市内企業様に声がけをさせていただきました。最終的にご協力いただけた企業は、市内で総合建設業を営む幸村建設株式会社様となり、「あいち女性輝きカンパニー」の認証を取得され、代表も女性ということから理解も得られやすいということでお願いをさせていただきました。

3名のワーカー選考につきましては、どのような経歴やスキルを持つ方が日進市にお見えになるかが未知数でしたので、職歴などについてはあまり制限をせずに募集をいたしました。条件としては、市内在住の子育て中の方で、パソコンの基本操作ができ、自宅にインターネット環境が整っている方といたしました。

募集結果につきましては、女性にはあまり馴染みのない総合建設業ということで、当初は応募が少ないのではないかと心配しておりましたが、3名の募集に対して24名の応募をいただき、多くの問い合わせもいただきました。
選考については、応募いただいた全ての方と市担当同席により面接を計2日間に渡り実施いたしました。応募された方の職歴等については、大手企業に務められていた方、銀行員、出版社、放送局、工務店、システムエンジニアなど多様でしたが、離職理由についての多くは子育てを理由とするものでした。また、働き甲斐を求めて応募した方が24名中24名と全員となり、やりがいや生きがいを理由とする応募が多くみられました。

職歴や子育て事情等を踏まえ、多様な3名の方を選考いたしました。
まず、Aさんはお子様が2人いる30代の女性で、大手企業に勤務されていました。ご主人が海外に単身赴任をされることになり、子育てを理由に離職された方となります。
Bさんはお子様が2人いる30代の女性で、出版社に勤務されていました。結婚を機に愛知県に移住し、出産を機に離職をされ、約8年のブランクがあります。
Cさんはお子様が1人する40代の女性で、システム会社に勤務されていました。子育てに加えた親族の介護負担を理由に離職をされ、約10年のブランクがあります。

トライアル事業の実施にあたり、日進市と実施企業、ワーカーの3者間で約束事項を3つ設定いたしました。
まず1点目として「スタッフの一員としてのテレワーク」です。テレワークというと、いわゆる業務発注型で請負に近いような形になりがちですが、顔の見える関係を大切にして、チームの一員という意識で実施するものといたしました。
次に2点目として、「子育てに無理のない就労」です。やはり子育て世代ですので、お子さんの病気や突発的な事情で休みや勤務日の変更等が想定されます。子育てに支障がないようノルマがこなせない等で時間外に勤務をするというがないよう取り決めをいたしました。
最後に3点目として、「個々のスキルの活用」です。さまざまな職歴やスキルをお持ちですので、事務作業のみでなく、スキルを活かした企画業務的なものに取り組んでみることといたしました。
こうした3つの事項を意識して、日進市ではトライアル事業を実施しています。

ショートタイムテレワークの具体的な実施内容

ここからは、日進市におけるトライアル事業の実施形態を中心に説明いたします。
まず、本事業については、2つのICT機器を活用しながら実施しています。
1つ目の機器としては、「スマートリンクワーク」として、実施企業とワーカー3名とで連絡・連携をとるための機器となります。常時顔が見える関係で接続をしながら、デスクを隣に並べているような感覚で勤務するイメージとなります。
2つ目の機器としては、作業用PCとなります。当初は実施企業側の負担を考慮しワーカー所有のPCを使用してスタートしましたが、専門的な業務も増えてきましたので、実施企業から昨年12月に業務用PCを支給し作業いただく方式に変更いたしました。


スマートリンクワークによる就労は、実施企業と3名のワーカーがiPadを活用(FaceTime)し、就労時間中に常時接続をした形で行っています。顔の見える関係を大切にして、始業時と休憩時と終了時には必ず会話をするルールとしており、就労中は基本的にミュートで作業し、必要時にミュートを解除して質問等を行う形としています。


作業報告としてはシンプルで、基本的にメールで送付できるものについては成果物を終了後に送付することとしています。現在は業務が少し専門的になってきた関係で、昨年12月から自社クラウドの活用も検討しており、報告方法や作業方法も少しずつ変化しています。
また、本資料は作業例として、作成途中の職員向け事故防止対策マニュアルとなります。元々あったシートへの入力ではなく、ワーカーで実際の事故の概要や事例などをインターネット上で収集し、どういった対策が必要かを整理し、それを啓発するための画像等を個々で収集し、職員啓発用のマニュアルを作成しました。
データ入力作業や情報収集に長けているワーカーを活用することで、実施企業で従来取り組みたかった業務が、効果的に実施できているとの報告をいただいています。


実施企業とワーカーとの雇用関係で重要な部分が就業管理です。子育て世代のワーカーは、就労日時や急な振替勤務への対応など、各自の予定が共有できていないとなかなか上手くいきません。これらを可視化するため、就業管理の共有シートを作成し、お互いの就労予定日時などを常に確認できる状況を作っています。
入力方法については、各ワーカーがそれぞれのシートに勤務希望日時を入力し、それを実施企業が内容確認をして就労可能であれば着色(黄色)をします。ワーカーは就労後に実績として、勤務日時を確認し着色(青色)をし、勤務確認表としています。
共有シートを作成することで、振替勤務日を他ワーカーの勤務予定日に合わせることも可能となり、企業側の負担を軽減できる効果もあります。子育てに無理のない就業形態だけでなく、実施企業側の負担も考慮するなど工夫しています。


月次定例会も開催し、日進市と実施企業、ワーカーの3者で、それぞれの状況や課題共有のほか、忌憚のない意見交換の場として実施しています。
これは1月の定例会の様子ですが、コロナ禍でお子様が自宅にいる方も増えていることから、望ましい勤務形態を実施企業とワーカーが意見を出し合い、状況に応じた就労を検討しました。
本日も午前中に会議を行い、愛知県もかなりオミクロン株の感染が広がっているということから、週8時間という勤務ができないような方も出てきています。その辺りについても、子育てをまず優先に考え、無理をせず臨機応変に対応して行くことといたしました。
また、定例会から反映された主な意見としては、スケジュール管理シートの活用・共有や、突発的な休暇対応に関するルール決め、連携機器(iPad)の追加要望などがありました。関係者間の意思疎通を図る上で非常に重要な位置付けとしています。

実施から4カ月を経過して(ワーカーの感想)

トライアル事業を開始して4ヶ月を経過し、ワーカー・実施企業から出た主な意見を紹介します。
まず、ワーカーにとっての生活の変化ですが、充実しているという意見が多く、週8時間程度の勤務が子育てとの両立においてバランスが良い時間だと全員が仰っていました。
また、週8時間がなかなか取れない場合でも、実施企業の理解で受け入れていただきありがたいといった意見もありました。ブランクが8年、10年と長い方からは、最初は不慣れな点があってナーバスになった時期もありましたが、仕事感も戻ってきて今は楽しくやれているっていう感想もいただいております。
当初のイメージと違いについても、事務作業に加えて経験やスキルを活かした働き方ができ、ハリがあるという意見が多かったです。他にも、役に立てて嬉しい、8時間は余裕だと思っていたが意外とそれ以は難しく、8時間がちょうど良かったなどのご意見をいただきました。


スマートリンクについては、iPadサイズがちょうど良いという意見を多くいただきました。常時接続については、常に見られているという捉え方をすると少し否定的な考え方になりがちですが、常に繋がっているという捉え方をすると、安心感が生まれ受け入れやすいという意見をいただいています。
またワーカー3名を極力同じ勤務日としていることから、ワーカー同士が繋がることで仲間意識が生まれ、業務連携が非常に取りやすいといった意見もいただきました。顔が見られていることで安心感がある、一人ではなく皆で仕事をしている感じがいい、請負型での一人勤務とは違うメリットを感じているようです。勤務時間等が共有できていることも、日程調整もしやすいという意見もありました。
子育てとの両立という点では、振替勤務ができるのはありがたいという意見が多いです。また、非常に参考になった意見として、昼をまたいだ勤務をされる場合において、休憩時間に洗濯物を取り込むなどの家事を行い多様な働き方ができており、就労に対する家族の理解も増したといった意見もいただいています。

実施から4カ月を経過して(実施企業の感想)


実施企業の意見としては、多様な職歴やスキルを持つ方に就労いだいたことで、あらたな視点での企画や業務改善等に取り組めていることが非常に良いとのことでした。幸村建設様では、ワーカー3名を代表直下の企画編集部として設置しており、これまで手の付けられずにいた業務を企画することで、社員の意識改革にも大きくつながっているという意見をいただいています。
導入のメリットとしては、生産性が期待以上に上がったという意見や、コミュニケーションの取り方がうまくいって、仕事の進め方の計画性についても向上したという意見をいただきました。週8時間程度という短時間就労ですが、望んでいた成果以上のものが出ているとの意見をいただきました。
他事業者様が実施をされる時にどういった点をお勧めしたいかお聞きしたところ、多様な人材が雇用できる点や、意外と短い単位で業務依頼ができる有効性、コスト削減にも繋がるという点を挙げられ、デジタル化の促進にも取り組めることを挙げられました。

今後の事業展開に向けて


多様な人材を雇用しようとすると、多様な働き口が必要となってきます。そうなると職種や企業規模、地域など、様々なタイプの雇用創出に取り組んでいかないと多様なマッチングすることは難しいと考えています。
そのため、企業側への需要リサーチやノウハウ支援、雇用支援などの取り組みを進めていく必要があると捉えています。また、ワーカーには前向きな意見を多くいただいたことで一定の手ごたえはありますが、この働き方の良さを就労支援と併せ周知していきたいと考えています。
また、関係機関へのアプローチとして、日進市とソフトバンク様で協力して事業を進めているところですが、多様な関係機関と連携を深めながら、よりよい事業となるよう検討していきたいと考えています。
以上、簡単ではございますが日進市における事例発表とさせていだきます。