開催報告 ODS第7回研究会 開催報告(前編)
「ワーケーションで選ばれる地域を目指すには ~クリエティブ・ローカルでのワーケーションは“マツタケの育成”と同じノンスケーラビリティの発想で!」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(Organization of SDGs Digital Society、略称:ODS)は7月8日、第7回研究会「テレワーク、ワーケーションを活用した地域の活性化~移住、定住、関係人口の増加を目指した自治体の取組みを探る~」をオンラインとリアルのハイブリッドで開催した。前編では関西大学社会学部の松下慶太氏の基調講演をご紹介する。松下氏は「ワーケーション企画入門」(学芸出版社刊)の筆者として知られており、「柔軟な働き方が拓くクリエイティブ・ローカルの可能性」を主題に、ワーケーションで選ばれる地域になるためのヒントを解説した。


「柔軟な働き方が拓くクリエイティブ・ローカルの可能性 ~ワーケーションで選ばれる地域を目指すには~」
関西大学社会学部 教授 松下 慶太 様

 

欧米型と日本型ワーケーションの違いと、企業側から見たアプローチ

近年、よく耳にするようになったワーケーション。その定義はいろいろあるが、松下氏は「仕事と休暇を重ねることで可能になったり、価値を生み出したりするワークスタイル、およびライフスタイル」と定義している。では、先行している海外と日本では、ワーケーションに何か違いがあるのだろうか。

松下氏は「欧米型ワーケーションはデジタルノマドが自発的に活動するワークスタイル、あるいはライフスタイルとも言えるかもしれません。一方で、日本型ワーケーションは企業や地域が制度として推進し、Well-Beingや社会課題への取り組みを意識しています」と、その違いを指摘する。

そのような視点で、日本型ワーケーションをどう進めていけばよいのか。企業側からみると、福利厚生面や投資面でのアプローチがあるだろう。福利厚生の観点では「会議をオンラインにして参加すれば、1週間の長期滞在が可能になる」といった休暇スタイルが提案できる。そのためには、印鑑など煩雑な処理を不要にするなど、業務ワークフローのDX化が必要だ。また訪れたい地域の滞在施設をDXに対応するように整備する必要もあるだろう。

一方で、投資の観点では「温泉地のコワーキングスペースで仕事をすると、社員の生産性が向上する」といったお題目が成立する。しかし、ワーケーションを誰もが認めてくれる社内風土や、その地域に行く理由も求められるだろう。実際にワーケーションを導入するには、具体的に何をするのか、目的別に捉えて日常と非日常、個人とチーム・組織の2軸で考えると分かりやすい【図1】。

【図1】ワーケーション導入時の目的別マップ。日常と非日常、個人とチーム・組織の2軸で目的を捉えると分かりやすい。

「たとえば、非日常型ならば、オフィスではできないこと、社会課題・社会活動やイノベーションのネタなどを考える場合に向いているでしょう。逆に日常型では、オフィスと同じ業務を行っても、異なる環境に身を置くことでルーチンワークが捗ると思います」と松下氏は説明する。

地域から都市へ働きかけ、地域型ワーケーターになってもらう

これまでのワーケーションの変遷をみていきたい。2020年にGoToトラベルキャンペーンのなかで取り上げられたワーケーションは「Workation 1.0」と位置付けられる。そこでは、ワーカーが生産性や効率化を図るために、地域としては観光客として単発・短期間で訪れる体験型だった。それをより地域との関係性に踏み込んだものが「Workation 2.0」である。それは創造性や刺激のためにワーカーが継続的に来訪・滞在するようになり、地域のパートナーとして関係人口を作り出すコラボレーション型と言える。さらに「Workation 3.0」も想定でき、そこでは長期滞在や移住で地域と融合し、住民という立ち位置になってくる【図2】。

【図2】Workaction 1.0から同3.0までの変遷。まだ企業側は1.0の考え方が多い。まずは2.0への取り組みを目指すことが重要になるだろう。

したがって松下氏は「地域と企業が、どのようなワーケーションを望んでいるのかを明確にして、双方のズレがないようにマッチさせることがワーケーションを成功させるポイントになります。特にワーケーションを企画して受け入れる地域・行政側が、どれくらい都市部の新しいワークスタイルを理解しているかという点が大事です」と力説する。

では、最近の新しいワークスタイルには、どのような背景があるのか。松下氏は「テクノロジーや社会課題を背景にしたときに、天・地・人という観点でみると理解しやすいでしょう」と説明する【図3】。

【図3】新しいワークスタイルの大きな背景を3つに分類。DX化による「天」、地球の環境経営にまつわる「地」、Well-Being、Diversityなどの「人」で分けられる。

まず天とは、メタバースやAI、ロボットなど、デジタル化などによるDXだ。地とは、環境経営やカーボンニュートラル、SDGsといった地域や地球への働きかけだ。そして人とは、Well-Being、Diversityの確立、自律型人材などの人材確保・育成だ。これら昨今の動きの中で、企業のワークスタイルにも場所と時間の柔軟性が求められるようになってきた。場所という点では、Yahoo!のように居住地制限を撤廃し、ハイブリッドワークを進める企業も現れた。一方で時間と言う点でも、週休3日制や副業・複業を解禁する企業も増加している。

松下氏は「ワークスタイルの変化が都市部や大企業に限られているから、地域には関係ないという話ではありません。むしろワーケーションを用意する地域側が、新しいワークスタイルを理解し、それに合うように対応していくことが大切です。逆に、こういったワークスタイルが広がるように、都市部や大企業に対して働きかけることが、周り巡ってワーケーションを成功させる要因になるでしょう」と強調する。

現状、ワーケーションを実施する人々(ワーケーター)の類型は、都市に在住し、ワーケーションのために地方を訪れる「都市型ワーケーター」、都市や地方に軸足を置きつつ多拠点を移動するアドレスホッパーとしての「移動型ワーケーター」、基本的に地方にいて会議や重要案件のときに都市へ戻る「地域型ワーケーター」が考えられる【図4】。

【図4】ワーケーターの類型には「都市型」「移動型」「地域型」が考えられる。ターン思考でなく、連続的に移動する「サークル思考」で考えることが、関係人口をつくるうえで重要。

松下氏は「地域にとっては、地域型ワーケーターとして移住してもらうことが望ましいのですが、いきなりシフトすることは難しいので、それぞれのスタイルを尊重し、徐々に地方移住に寄せていく施策を打つことが大切です。別の表現をすると、ターン思考でなく、連続的に移動するサークル思考で考えることが、ワーケーションや関係人口をつくるうえで重要になります」と力説する。

テクノロジーを活用した天の働き方には、アバターやロボットをインターフェースとした新しい働き方も考えられる。これらのインフラや環境整備は都市部だけでなく、地域が積極的に進めることで、ワーケーションや移住を促進する手段になり得るかもしれない。

ワーケーションを軸にクリエティブ・ローカルをつくろう!

いま松下氏は、ワーケーションを軸にして「クリエティブ・ローカル」をつくることを提案している。仕事に求められる能力は、時代やテクノロジーと共に変化していく。いまは「注意深さ」「ノーミス」「責任感・真面目さ」が重視されているが、30年後の将来は「問題発見能力」「的確な予測」「革新性」が求められるようになるという調査もある。

松下氏は「企業は人に投資せず、個人も学習や自己啓発をしない現状で、ワーケーションは学ぶ機会をつくり、人材投資を進めるうえでも効果があります。そこで出てくる考え方がクリエティブ・ローカルです。その定義は<外部人材が地域で活動・滞在することで、仕事やキャリアに対して、住民や来訪者がとも誇り、愛着を持って前向きになれる地域のこと>です」と説明する。

企業にとって、クリエイティブ・ローカルを取り入れる意義は、ビジネスを見直し、新たな学びの機会や発見を得られることにある。たとえば、優れた起業家に共通する思考プロセスや行動からビジネス創出のヒントを得る「エフェクチュエーション」や、仕事量自体を適量にする「Slow Productivity」などの取り組みも同様だ。またFoof LossとFood Wastと同様の考え方をワークにも適用できる。つまり、仕事の前後で発生する時間ロスや、業務そのものが不要な場合も存在するからだ。これらはワーケーションに直接結びつかないが、それによって別の角度から見ると、従来の常識が当たり前でないことが分かるという【図5】。

【図5】松下氏が提唱する「クリエティブ・ローカル」によって、エフェクチューションなどの思考から、あらたにビジネスにおけるワークを見直し、学びの機会を得られる可能性がある。

「不便益と全体ネットワークという観点でもワーケーションからの学びがあります。そもそも不便益とは、特定タスクに必要な労力が多くかかることです。一見、非効率で不便に見えても、全体ネットワークの関係性で見ると、意味や価値を見出せることがあります。そのコンテキストでワーケーションを考えると、わざわざ遠い場所に行くことに目の前の仕事という意味では価値がないように思えても、価値観の変容や新たな可能性を引き出せることもあるわけです。こういう事例をローカル側で見出して、言語化することが大事になります」(松下氏)。

クリエティブローカルでのワーケーションの経験と活動は「マツタケの育成」と同じ!?

松下氏は、地方をクリエィティブ・ローカルにするために必要なことは「Henjin(変人)」「Hack」「Hospitality」という3Hであると主張する【図6】。Henjinとは、地域や組織で少し異端な人材のこと。またテクノロジーを利活用するのがHackだ。ドローンなども地方では都市より使える可能性がある。Hospitalityは他人を受け入れることで、自分自身も変わっていくことだ。つまり都市の人材と一緒になって地域を変えることである。

【図6】クリエィティブ・シティの概念では3つのTが求められたが、クリエィティブローカルでは「Henjin(変人)」「Hack」「Hospitality」の3つのHが必要だという。

さらにワーケーションを施策に落とし込むときに地域・企業・ワーカーにとって「Story」「Stimulate」「Susutainable」3つのS+1Sが必要だという。最初のStoryとは「なぜ、その地域で企業がワーケションを行うのか?」という物語性だ。2つ目のStimulateは「企業やワーカーや地域が変われる刺激があるか?」、3つ目のSustainableは「ワーケーションをビジネスとして続けられる持続性があるか?」ということ。これらに加えてStarとなる人材、つまり「ワーケーション推進役の人や、企業と地方の間に入れるコンシュルジェやコーディネータ」が求められる。

松下氏は「実は、クリエティブ・ローカルでのワーケーションの経験と活動は“マツタケの育成”と似ているのです。プランテーションには、規格や構造を変えずに規模を拡大できるスケーラビリティ(規格不変性)がありますが、マツタケ栽培は、多様性と不確定性が高いため、人工的に作り出すことが難しく、同じ方法で育成規模を大きくできないというノンスケーラビリティ(規格不能性)だからです」と意外な類似性を指摘する。

このマツタケ育成をワーケーションに置き換えてみると、ワーケーションを成功させる定石はなく、多様な要素が複雑にからみあうため、ある地域で成功している方法が別の地域で成功するとは限らない。そこで、対象が誰か、ワーケーションが求められる理由、普及させる方法を、各地域の活動や課題に置き換えて考える必要がある。

松下氏の表現でいえば「したがって、マツタケ的なデザインが重要になります。いまはワーケーションをスケラービティに落とし込んで考えようとする傾向がありますが、そうなると過当競争に入って、ほとんどの地域が負けてしまい全体としてみると地盤沈下になります。したがってワーケーションもマツタケ的なノンスケーラビリティで考えなければいけません」と、マツタケのアナロジーでアドバイスを送った【図7】。

【図7】クリエティブ・ローカルでのワーケーションの経験と活動が、ノンスケーラビリティという点で「マツタケの育成」と類似しているというユニークな発想が印象的だ。

さらに中長期的な視点では、国内ワーカ―のみならず、海外のデジタルノマドも視野に入ってくる。彼らが求めるものは、コミュニティや空間(箱もの)、身体性と自然、メンタルや文化・伝統が魅力的な要件だ。これらを地域に置き換えてみるとヒントになるだろう。デジタルノマドに対応し、彼らを地方にどう取り込めるかという点も大切になるという。

(取材・文 井上 猛雄)