開催報告 ODS第7回研究会 開催報告(後編)
「地域がこんなに変わる! 2つの地域の成功事例から見るワーケーションの可能性」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(Organization of SDGs Digital Society、略称:ODS)は7月8日、第7回研究会「テレワーク、ワーケーションを活用した地域の活性化~移住、定住、関係人口の増加を目指した自治体の取組みを探る~」をオンラインとリアルのハイブリッドで開催した。後編では、地域でのワーケーションの成功事例として、長崎県の五島市による「ちょうどいい生産性の追求~五島市が取組むワーケーション施策」と、和歌山県南紀白浜町による「和歌山ほんまもんワーケーション~稼げる地域づくりと真の働き方改革へ」の2講演についてご紹介したい。これからワーケーションを導入しようとしている自治体、あるいは企業は大いに参考になるだろう。

「ちょうどいい生産性の追求 ~五島市が取組むワーケーション施策」
長崎県五島市 地域振興部地域協働課
課長 庄司 透 様

 

ワーケーションに注目、 100名以上の社会増で注目を浴びる五島市

五島市は、長崎県から約100km離れた五島列島の南西部にある。11の有人島と52の無人島で構成され、総面積は横浜市と同じぐらいだ。人口は2020年時点で3万4391人だが、40年後には1万人まで減少すると予測され、高齢化率も全国平均と比べて約41%と高く、日本の課題先進地域と言える。

そんな五島市は地域を活性化することで人口減少に歯止めをかけようとしている。世界遺産や日本遺産、日本ジオパークにも認定され、来年には活動拠点となる施設もオープンする予定だ。また特産品の椿油は全国の生産量の4割を占めている。

よく話題に上がるのはマグロの養殖だ。出荷量は約2000トンに上る。最近では日本初の海洋再生可能エネルギーの促進地区にも指定され、洋上風力発電で2年後に島の電力の8割を賄う計画だ。さらに「ゼロカーボンシティ」を宣言し、五島版RE100に取り組む。同市の施策の結果が出始めたのはコロナ前の3年前からだ。

「交流人口と雇用が増えて、転出者が抑制され転入者が増えた結果、2019年と2020年を合わせると100名以上の社会増となりました。日本西端の島のレアケースとして、いま五島市は大きな注目を浴びています」と語るのは、長崎県五島市 地域振興部の庄司 透 氏だ。

いま五島市が注力しているのがワーケーションだ。移住・定住人口につながる関係人口の創出策として期待をかけている。2019年の「五島列島リモートワーク実証実験」を皮切りに「五島ワーケーション・チャレンジ2020」といった施策を打ち出してきた【図1】。

【図1】コロナ前の2019年からスタートした五島市のワーケーション施策。昨年はコロナ禍で中止されたが、ここまで相当な効果があり、移住・定住人口へつながる関係人口が創出された。

2019年の実証実験では、応募枠30名を大きく上回る150名の希望者が殺到。参加者の満足度は9割を超え、ワーケーションを体験した人の反応は良好だった。本実証を契機に参加者の6名が地元で起業し、参加者や協賛企業の社員がプライベートで再訪。広告換算で2000万円以上の効果が出たという。

続く2020年は、オフシーズン対策と関係人口の創出を狙った。時期は冬だったが、62名が来訪し、7割以上が再訪を希望した。同市は閑散期対策の施策として手ごたえを感じ、民間も長期滞在型リモートワーク施設や、空き店舗を利用したコワーキングスペースの整備を進めた。なお、昨年はコロナで中止となったが約150名の応募があり、3割が移住希望というから相当の反響といえるだろう。

「このような成果を踏まえ、サテライトオフィスとしても利用可能な滞在型施設が8月に、廃校を活用した芸術家の拠点も今秋オープンします。また市内のほぼ全域に光回線が敷設され、ワーケーション環境も充実してきました」(庄司氏)。

偶発性が生まれる余白を埋め込むワーケーションを「KMI」で可視化!?

五島市では、ワーケーションはあくまで手段と考えている。本来の目的は「市民のために、まちを元気にすること」。そのために重視する点は「心かようワーケーション」だ。20年先の日本の課題を体感してもらい、ビジネススキルや企業の事業に役立ち、関わり合いを継続できる仕組みを作ろうとしている。

具体的には、都市圏の参加者のQoLを向上する知的刺激や、ソフト面の充実、親がラクで子供が楽しめるコンテンツ設計、市内事業者への経済効果、そして偶発性が生まれる「余地」を埋め込むことで、他の自治体との差別化を図ろうとしているという。

今年度は「余白と戯れるワーケーションin 五島列島」と銘打って夏、秋、冬の3回開催。仕事と生産性のバランスをゼロベースで見直し、仕事の生産性だけでなく、自分が最もやりたい仕事にチャレンジしてもらう企画を考えた。

「忙殺されて手を付けられなかった仕事や、新規事業など未来のネタの探求を勧めていますが、そのためには長期滞在が望ましいです。住民との交流には最低でも1週間はかかるからです。仕事の合間の余白をどう過ごすかは、個人でも異なりますが、釣りをしたり、サイクリングをしたり、新鮮な地元食材で自炊したり、地域の手伝いをしたりと、さまざまなことが考えられるでしょう」と庄司氏は語る。

この施策が面白い点は、余白を楽しむために、KPIならぬ「KMI」を五島市が導入した点だ。これは「Key MUDA Indicator」の略。いかに無駄な余白を楽しめたか、数値で可視化する試みだ。初級編、中級編、上級編を設け「時間がもったいない」「効率的じゃない」「もっとラクな方法がある」と切り捨ててしまいがちな「無駄」な行動をとらせて余白エリートを目指す仕組みとなっている。

【図2】空き店舗や古民家などを活用したコワーキングスペースだけでなく、サテライトオフィスとしても利用できる大型の滞在型施設や、芸術家の拠点なども続々オープン。

五島市はワーケーション施策で大きな成果を上げてきたが、さらに一歩踏み込んで移住・定住化への取り組みも推進中だ。もともと同市は2007年から定年退職者のセカンドライフを目的に受け入れを開始したが、2015年からは若い世代や子育て世代の移住にも力を入れ始めた。現在は4年連続で200人以上の移住者の受け入れに成功しているから驚きだ。

移住者の内訳は30代以下が約75%、29歳未満が約25%と期待通りの結果。UIターンの状況は長崎・福岡など、九州県内が半数ほどだ。首都圏も多いが、海外から28名も来ている点は見逃せない【図3】。

【図3】平成29年度から令和3年度までの移住(UIターン)状況。移住者は984人。そのうち20代未満が半数を占め、30代も含めると約75%、4人に3人が若い層だ。まさに五島市の狙いどおりになった。

庄司氏は「移住者は、ちょうどよい生産性を求めています。一方で我々は”顔の見える関係を大切にする”をコンセプトに、移住者の定着に努力しています。市内には空き家が4分の1を占めていますが、改修すれば利用できる家屋をランク別に分け、空き家バンクとして登録し、移住希望者へ紹介しています。すでに成約件数は200軒に上り、定着率も過去5年間で83.2%(817名/982名)と高い結果です」と自信を見せる。

同市では人手不足や移動手段などの課題を解決し、住民の暮らしを豊かにする先端技術の実証実験にも積極的だ。オンライン診療やドローンによる薬の配送実験なども実施し、「スマートアイランド構想」を計画している。今秋にはNHKの連続テレビ小説の舞台として放映されるため、五島列島ブームが起きるかもしれない。

「和歌山ほんまもんワーケーション ~稼げる地域づくりと真の働き方改革へ」
株式会社南紀白浜エアポート 誘客・地域活性化室
室長 森重 良太 様

 

ワーケーション推進は、補助金だけに頼らない自走体制の構築が重要

和歌山県南紀白浜は、2017年に国内初となるワーケーションイベントを開催して「発祥の地・聖地」の名を全国に広めた。この5年間で100社・1000件以上のコーディネートをこなした南紀白浜エアポートの森重良太氏は、観光とは異なるワーケーション特有の誘客体制を整備し、フルオーダーメイドでご当地プログラムを企画。お客様からのワーケーションニーズ1000本ノックを受けながら実践を通じてノウハウを蓄積してきたという。

森重氏は、ワーケーションの総合コンシェルジュという立ち位置で、自治体や官公庁・業界団体・首都圏企業などと連携した数々のツアーやイベントの開催、企業・個人のワーケーションニーズにマッチした独自のご当地体験プログラムの造成や地域の宿泊・飲食・交通・体験・ワーキングスペースの現地手配および受入体制の整備などをワンストップで行ってきた。

「とはいえ、まだまだ和歌山も決して成功モデルではなく、今でも地域一体で日々ワーケーション誘致を進めている途中です。我々の活動の特徴は、行政予算にはほぼ頼らず、誘致担当者の知恵と汗と思いで官民一体となって取り組んできたこと。補助金を活用してワーキングスペースの整備やモニターツアーを開催しただけでは、持続的なリピート獲得にはつながりません」と語る。

行政が主体となって助成金活用や旗振りを行っても、公平性の観点から合意形成に時間を要したり、予算の切れ目や担当者の定期異動で、活動が立ち消れてしまうことが多々あるからだ。そこで、まずは民間ベースで自走できる仕組みをつくったうえで、さらに行政が大きく後押しながら官民一体連携で進めるのが望ましい。

森重氏は「ワーケーションというと一般的にはテレワーク+観光と捉えられがちです。しかし、実際にワーケーションで訪れる人々のニーズは、観光だけでなく、地域との接点づくりや関わり合いを求めていることが圧倒的に多いです。つまり単なる観光とは異なる新たな地域コンテンツの拡充が必要です。売るものは地域の観光資源だけではなく、地域の課題などの弱みも含めたソフト面でのコンテンツであり、地域の歴史・文化やそこで生活している人に深く関わってもらうことが重要になります」と強調する。

また、地域事業者が個々にワーケーションの受け入れに注力しても、ワーケーション全体の体験価値が上がらないと満足度向上やリピートには繋がらない。地域全体として有機的に連携し、ワンチームで受入体制を整備することも重要なポイントだ。

企業向けに尖った解決型プログラムを売り込む! ほんまもんのワーケーション

和歌山がワーケーション地として選ばれるのは、交通の便、テレワーク環境、地域ならではの非日常的なご当地体験ができる点だ。特に白浜町は毎年340万人もの観光客が訪れる関東で言えば熱海のような温泉ビーチリゾートだ。しかし、町の人口は約2万人と減少しており、観光客も約7割が関西から夏季や週末を中心に訪れ、約4割が日帰りをしてしまう。そのため地域全体の消費や稼ぎ方に偏りがあり、関西の一大リゾート地でありながら平均所得も高くないといった地域課題を抱えている。

そこで移住・定住に繋がる関係人口を増やしながら平日需要の底上げと地域の稼ぐ力を高める手段としてワーケーションに目を付けた。この4年間、森重氏らが誘客の仕組みから地域の磨き上げまで多くの施策を打った結果、関東圏からの新しいビジネス客層の掘り起こしや、平日需要の底上げ、何度もリピートする関係人口の拡大など、さまざまな地域経済への波及効果が現れた。和歌山が他の地域と比べて特に秀でている点はソフト面の充実だ。専門コーディネータが都市部のビジネス目線で地域資源とのマッチングを的確に行い、専用のご当地コンテンツを豊富に提案している。

森重氏によれば、和歌山にワーケーションに来る人の目的は5つに分類できるという【図4】。個人事業主やノマドワーカーが地域でテレワークを行う個人型、家族で旅行を楽しみながら仕事と家庭の両立を図る親子型、企業がプロジェクト合宿など目的を持って団体で来訪するグループ合宿型、都市部では得られない学びや成長を目的とした人事研修型、社員のリトリートやパフォーマンス向上を目的とする健康経営型だ。

【図4】和歌山ワーケーションの5本柱。訪れる人は、個人型、親子型、グループ合宿型、人事研修型、健康経営型に分類される。目的別にどんなご当地コンテンツを提供できるかがカギだ。

「企業を誘致する際に最も重要な点は、なぜその地域か? なぜそれにお金を払うのか?に答えられるかです。ワーケーションの導入や体験をする際に企業の社内決裁を通すためにもこの2点を明確にしておく必要があります。企業のニーズや課題をしっかりとヒアリングし、和歌山ならではの地域資源でその企業の課題解決や価値向上をいかに実現するか、という提案の意識が何より大事になります」と森重氏は強調する。

和歌山では企業向けに尖った課題解決型プログラムを毎回オーダーメイドで造成して提案型で売り込んできた。地域ならではの人や歴史・文化を売り、地域課題に関わってもらい、訪問するほど地域とのが深まる「第二の故郷化」を創出して、圧倒的なリピート獲得を実現している。ご当地プログラムは地域課題解決型のほか企業が抱えるニーズに応じて、ダイバーシティ型、SDGs型、DX型、キャリア型、健康経営型など、地域の生きた素材を活用して都市では解決しにくい企業課題の解決をコンテンツ化している【図5】。

【図5】「地域の素材」×「ビジネス目線のキーワード」で提供するご当地プログラム。人や歴史・文化に着目し、地域課題に関わって訪問するほど、つながりが深まる「第二の故郷化」を創出。

最も大事な点は、顧客ニーズ目線で地域関係者が有機的に一体となった受入体制づくり

では、和歌山のように他の地域でもワーケーション誘致を成功させるには一体どうすればよいのだろうか。森重氏はHowの部分も解説した。

最初に着手すべきは「必要な時に、必要な人が、必要な形でつながる」という地域での有機的なネットワークの構築だ。和歌山県が取りまとめ役となってワーケーションネットワークスという緩いネットワークを構築して、ワーケーションの受入を行う事業者やコンシェルジュを体系化して、民間ベースでの機動的な連携を可能にしている。【図6】。

【図6】旅行・観光業界は事業者目線で見ると縦割り。お客様満足を最大化するには各事業者がニーズ目線で横連携して旅行バリューチェーン全体を最適化することが重要になる。

和歌山県のWebサイトでは「和歌山ワーケーションプロジェクト」(WWP)として、イメージモデルを掲載しているので、まずはこういった受入体制づくりから始めてみると良いだろう。

森重氏は「リピートを獲得するには、とにかく地域が有機的に連携してワーケーション全体の体験価値を高めることが重要です。プロモーションは自治体・観光協会が総花的にプロダクトアウトで発信、旅行プランは大手旅行代理店が送客しやすく稼げる部分ばかりを選んでパッケージ化、宿泊・交通・飲食などは各事業者が独自のサービス基準で個々に提供、といった旧来の縦割り型の観光誘致では効果的なワーケーション誘致はできません。地域全体がワンチームとなってワーケーション体験価値が最大化されるように連携をしないと満足度が上がらずリピートも難しいです」と実情を吐露する【図6】。

たとえば、南紀白浜では1室2名以上・1泊2食付き・1万円以上の宿泊プランが多い中で、1室1名・素泊まり・1万円以内で滞在ができる宿泊プランを地道な交渉を重ねて造成している。また、ワーケーションは会議室に籠る場合も多いが食事手配も通常では唐揚げ弁当やハンバーグ弁当などの一般的な弁当メニューが多い中で、旬な和歌山の食材のみを使用した独自のご当地弁当やケータリングまでもプロデュースしている。空港からの二次交通も一人乗りEV車やオンデマンドタクシーを用意したりと、コーディネータが顧客ニーズに基づいて一気通貫の目線でワーケーションの体験価値が最大化されるよう受入体制のアップデートを行っている。

森重氏のような地域コーディネータは、ワーケーションに来る人と地域の持続可能な接点を創出する中間人材の役割を果たす。都市×地域と観光×ビジネスと2つの両利き目線がポイントだが、具体的なマッチング方法としては結局は「飲み会」が開けるかどうか。意外に単純な方法だが、外部から来た人と地元の面白い人がつながると、リピート率が高くなり、勝手にワーケーションも続いていく。結局は人同士のつながりになるわけだ。

最後に同氏は「ワーケーションなど新しいテーマでのリアルな地域や組織の動かし方のポイントは、民間ビジネスが主体となり、民間では費用対効果の取れないプロモーションなどの行政のバックアップを受けながら、小さなアクションや成功体験を積み上げて機運を醸成することです。また合意形成においては目前の利益よりも、長期的な地域や企業の将来像やビジョンを共有して、大きな視点で物事の判断を捉えていくことも大切です。当事者意識のない人はブレインストーミングなどを通じて思考の言語化や見える化を強制的に行うことで次第に自分事化させていくことも可能」と自身の現場最前線での経験を踏まえてアドバイスした。

(取材・文 井上猛雄)