開催報告 ODS第8回研究会 開催報告(前編)
「自治体のDX推進に向けた意識改革と人材育成~自治体職員のDXリテラシーをどう高めていくか~」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(Organization of SDGs Digital Society、略称:ODS)は7月22日、第8回研究会「自治体のDX推進に向けた意識改革と人材育成~自治体職員のDXリテラシーをどう高めていくか~」をオンラインとリアルのハイブリッドで開催しました。前編では課題提起としてご登壇いただいた武蔵大学社会学部メディア社会学科教授の庄司昌彦氏による「自治体における意識改革とDX人材育成の必要性について」と、自治体側の視点から京都府木津川市マチオモイ部デジタル戦略室長(CIO補佐官)阿部一成氏による「基礎自治体におけるDXの取組みの現状と課題」の2講演について、ご紹介します。

「自治体における意識改革とDX人材育成の必要性について」
武蔵大学社会学部メディア社会学科教授
庄司 昌彦 様

 

 

武蔵大学の庄司と申します。私は技術というよりは社会学や政策研究の立場で、自治体や国の行政、地域社会のデジタル化について研究をしています。デジタル庁の仕事や総務省のDX検討会の座長、また、自治体の様々な会議のメンバーやアドバイザーも務めています。今日はそのような立場から課題提起ということでお話ししていきます。

 

 

デジタルトランスフォーメーションが目指す姿

今日はDX人材育成がテーマですが、まずはデジタルトランスフォーメーションとは何か、についてお話ししたいと思います。トランスフォーム、トランスフォーメーションという言葉は、「すっかり形が変わる」という意味をもっています。そして、その変え方については「少しでも良くするように変えていくこと、変え続けていくこと」がポイントです。デジタルはその手段でしかありません。

経産省の「DXを推進するためのガイドライン」では「製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革する」という定義がありますが、まさに組織の内部までがらりと変えることが重要なポイントです。

デジタルトランスフォーメーションの事例としては、例えば航空業界は対面での手続きがほとんどなくなっています。それどころか飛行機の操縦も今はほとんど自動で行っているそうです。それにより、私たちの体験は低下したかというと、そんなことはありません。サービスを省力化した格安航空会社もあれば、人による手厚いサービスが受けられる高級なものもあり、選択肢の幅が広がり体験の価値は高まりました。

銀行の窓口も参考になると思います。一昔前は、何でも判子と通帳を持って銀行の窓口に行かなければなりませんでした。それが、ATMが増え、パソコン・スマホから手続きができるようになり、毎回銀行に行かなくてもよくなりました。しかし、私たちはサービスが低下したとは全然感じていません。窓口は残っており必要があれば利用できるので、むしろ本当に便利になったと思っています。【図1】

【図1】銀行窓口の変化により、サービスの利便性や質が向上している。

これは自治体の窓口にもなぞらえられると思います。現状は「窓口が開いている時間に、都合を合わせて来てください」と言っているわけですが、本当に全員来ていただく必要があるでしょうか?セルフサービスでもよいという人には、オンラインで自分の都合の良いときに、都合の良い場所で手続きができれば、むしろお互いにとって良いのではないかと思います。

また、近い将来には2040年問題も迫っています。人口ピラミッドが逆三角形になり、生産年齢人口が減るなか、自治体でも半分の職員で仕事を回せるようにしなければなりません。そうなると、共同化できるところは共同化し、人でなくてもできる仕事は機械にやってもらう、ということになります。

自治体DXに必要な人材とは

自治体におけるDXでは、システムの標準化・共通化・オンライン化ということが重要になってきます。国は「自治体DX推進計画」を策定して自治体にDX化をお願いしていますが、それだけでなく自治体でも自主的に進めてくださいということで、「自治体DX推進手順書」も作りました。【図2】

【図2】自治体のDX推進では、それぞれが考え、変えていく”自主的DX“も求められている。

自治体が自主的に推進する場合、国が何を言っているか、他の自治体が何を行っているかを見ているだけではだめで、それぞれの自治体で何が課題かを自ら考えて変えていくことが必要になります。したがって、自治体のDX化に必要なのは、プログラミングができるとかブロックチェーンに詳しいといったことではなく、今行っている仕事の仕方の中で課題をきちんと発見し、指摘できる人材です。【図3】

【図3】自治体DXには、自ら課題を発見・指摘し“アナログの改革”を推進できる人材が必要となる。

必要なのは、いわゆる「デザイン思考」と言われるような考え方ができる人です。【図4】

今の方法をより良い方法に変えていこうと試行錯誤すること、まさにデザイナー的に、本当に効果が出るように行ってみて、使ってみて、観察し、評価し、また改善するというように、失敗・学習しながらアジャイルに考えることが必要となります。

今、「失敗しながら」と言いましたが、これが行政の現場では、新しい取り組みをする際の障害になることが考えられます。失敗をある程度許容し、失敗をしたときには、それを学習して次により良くするような仕組みを入れながら、進めていく必要があります。

【図4】自治体DX推進に求められるデザイン思考。新しい取り組みを進めるうえである程度「失敗」を許容して、改善していけるかがカギとなる。

データでみる自治体DXの現状

最後に、現在の自治体DXの状況をデータで見てみます。こちら【図5】は総務省のデータですが、DX推進のために全庁的・横断的な推進体制を構築している自治体は、27.6%と全体の約4分の1に留まっています。

【図5】DX推進のための全庁的・横断的な推進体制を構築している市区町村は、27.6%と全体の約4分の1に留まっている。

その他のデータでも、以下のような数値となっており、このままでは全ての自治体にとって2040年問題が非常に厳しいものになることが予想できます。

・CIO・CIO補佐官を任命している自治体は半数以上だが、外部の人材を入れているのは10%未満。外部の人材の活用を検討中の自治体も13.7%に留まっている。
・DX推進のための職員育成については、取り組みを行っていない自治体が約4割(38.6%)に達する。
・テレワークを導入している自治体は5割未満(49.3%)に留まる。

自治体の方は、「対面でなければできない仕事がたくさんある」とよくおっしゃいますが、企業もそう言いながら対応していますし、私たち大学も完全にオンライン化しています。それは大変な苦労をしてそうしているわけで、行政は甘えている部分もあると言わざるを得ません。

こうした課題意識を持っていますが、本日はこの後、職員のDXリテラシーを高めDXを推進していく上で、自治体側の視点から現状や課題を(本編)、また国の考え方やそれに対する民間企業側のソリューションなどについて(後編)、話題を展開していきます。

庄司昌彦様のご講演スライドをダウンロード

 

「基礎自治体におけるDXの取組みの現状と課題」
京都府木津川市 マチオモイ部デジタル戦略室長(CIO補佐官)
阿部 一成 様

 

 

京都府木津川市役所でCIO補佐官を務め、今年4月から新設のデジタル戦略室長も兼務する阿部一成と申します。
民間企業から自治体の外部人材として、CIO補佐官に転身した自身の経験から、自治体DXの現状と課題、民間企業との違いについてお話しします。

 

 

 

自己紹介

私が民間企業から自治体に入って、今年でちょうど10年目になります。いろいろ幸運なこともあり、これまで3つの自治体を経験しています。

年齢は1960年生まれの62歳。岩手県釜石市の出身です。大学卒業後、日鐵商事(現、日鉄物産)に入社し、情報システム部門に配属されました。文系の出身でしたが、プログラミングを含むシステム設計を学び、プロジェクトマネージャーも務めました。分社化された情報システム子会社に出向した際にも、様々な経験を積みました。そしてその後、2013年に青森県庁の公募により、外部人材のCIO補佐官(IT専門官)として採用になりました。

きっかけは、2010年に情報処理技術者試験のITストラテジストに合格したことです。「CIOになりたい」と思い立ち、この資格を取るために様々な勉強をしました。ITストラテジストは論文の試験があり、この試験のために理論的に文章を書く訓練をかなりしましたが、行政ではいろいろな文書を書きますので、そのベースとなっています。その後、ITコーディネーターという資格も取りました。

もともとは、こういった資格を取って定年後に、中小企業の支援ができたらと思っていましたが、出身地で東日本大震災が起き、その1カ月後に現地に行く機会があったことから、そこで行政に興味を持つこととなりました。

地方公共団体における外部人材の起用状況

庄司先生からもお話がありましたが、CIO・CIO補佐官の任用状況について調べてみました【図6】。特に見ていただきたいのは、令和3年から都道府県、市区町村ともに増えていることです。特に市区町村では、令和元年には1名だったCIOが、翌年の令和2年には2名、そして令和3年は24名と急激に増加しています。これは国の方で費用を担保しているということもあります。令和4年はもっと増えるでしょう。

【図6】地方公共団体のCIO・CIO補佐官の推移。令和3年には急増するなど、増加傾向となっている。

CIO・CIO補佐官に求められる業務の変化

外部人材の任用の増加とともに、CIO・CIO補佐官の業務は、私が青森県庁にいた10年前と比べて、変化してきていると感じます。例えば、これまでのCIO・CIO補佐官の業務は、情報システムの最適化計画の策定、情報システム関連の費用削減、情報システム導入時の調達に対する助言・指導、情報システムの業務効率化、職員等への研修といったものでした。自治体内部の業務が中心で、コストの抑制が求められていました。当時、パソコンやサーバーの値段がどんどん下がっていましたので、コスト削減はそれほど苦労をしなくてもできたと思います。

しかし、現在はどうでしょうか。「DXの推進をするため」と明確に書いている自治体もありますが、デジタル技術を活用した住民サービスの向上など、住民の利便性向上につながる業務が求められます。コスト抑制ではなく、必要な投資の実施をしていくことにもなるでしょう。このように、これからは過去と違う、ということをよく理解しておかなければ苦労すると思います。

私は民間企業にいて、自治体のことを知らないままCIO補佐官になってしまったのですが、民間企業との文化の違いを感じました。自治体では行う仕事が決められているので、どうしても進んで業務改善をする、という文化がありません。民間と違い倒産もありませんし、賃料を払うこともない。そういったことが、コスト意識の違いにもつながっています。

そのような環境の中でDXを推進するために、組織・体制づくりだけでなく、職員を動かすための動機付け・根回しなども求められます。そうなると、プログラムコードが書けるとか、技術的なことを知っているというだけでは少しつらい、ハードルの高い状況になってきていると思います。令和3年度から多くの外部人材が自治体に入るようになっていますが、ここが踏ん張りどころ・過渡期かもしれません。

自治体DXにおける意識改革の重要性

次に、自治体DXにおける意識改革の重要性について触れたいと思います。以下に自治体職員の特徴と意識改革に必要なことをまとめてみました。【図7】

【図7】自治体DXに向けては、職員の意識改革も重要となる。

意識改革で特に重要なのは、DXの取り組みは自分自身のことであり、自分の子どもや次の世代にも必要なことだと考えること、そして何よりも、そういった取り組みを楽しみながら行うことです。失敗してもそれを許す風土や、楽しみながら行うための環境づくりが、必要だと思っています。
下の図は、昨年4月に木津川市の職員になり、木津川市の中でどのように自治体DXを推進しようかと考え、作成したものです。【図8】

【図8】阿部氏が作成した自治体DX推進イメージ(木津川市町内説明資料より)

下の方では、デジタル化の波が来ている中、アナログ的な仕事のやり方を今まで通り行っていたら、デジタル化の波にのまれてしまい、取り残されてしまう、ということを書いています。

上の方は列車のイメージです。例えば課題が見えたら解決に向かって、まずは列車に乗って考えます。隣の車両(部署)に行ったり、新幹線に乗り換えたり、また普通列車に戻ったり、同じ方向に向かって乗りながら考える。DXの推進に後戻りはない、というイメージで書きました。

DX人材不足の課題

CIO補佐官10年目の私から見た、自治体におけるDX人材不足の課題についてまとめてみました。【図9】

【図9】自治体におけるDX人材不足について、外部人材と自治体職員それぞれの面で課題を抱えている。

まず、外部人材の課題として、転職による年収ダウン、基本3年最長5年と言う任期、単身赴任の可能性など、いろいろリスクがあります。また、自治体側がいろいろなスキルを持ったスーパーマンのような人材を求めがちということもあります。人材不足解消には、こういったことを検討していく必要があると思われます。

自治体職員に関しても、DX関連のスキルを身に付けるための学習カリキュラムが整備されていない、スキル習得には、業務外の時間を割いて勉強しなければ難しいにもかかわらず、その努力が人事評価と連携していない。また学習のための費用・環境・時間の確保できていない、そもそものITリテラシーの底上げが必要といった課題があります。

自治体職員全体のデジタルリテラシーを高める必要があるという観点から、大切な点を2点だけ申し上げます。やはり学ぶことを楽しめる環境整備が必要でしょう。それからもう1つは、学んだことを教え合う機会の提供が必要になると感じています。

今後への期待

自治体DX推進について、いろいろ課題を述べてきましたが、今後への期待もあります。新型コロナウイルス感染症対策において「デジタル敗戦」という話もありますが、短期間に知恵を絞りながら、いろいろなことをしなければならないという状況があり、そこでは実践的な経験を積んだ職員が増えています。

自治体は縦割りと言いますが、新型コロナウイルス感染の対策・対応においては横串を刺して人が知恵を絞りながら行ってきており、全国どこの自治体でも同じようなことが行われているはずです。これが業務改善という形での職員の意識改革にもなっていると思いますので、この流れをうまく利用しながら、既存の業務の見直しにつながればと期待をしています。

阿部一成様のご講演スライドをダウンロード

 

(取材・文 株式会社アネティ)