開催レポート

開催報告 ODS第4回情報共有会
「地方創生SDGs推進に関する政府への予算要求と、先進的なSDGs未来都市の事例を紹介!」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(Organization of SDGs Digital Society、略称:ODS)は10月5日、第4回情報共有会「SDGs未来都市選定自治体の取組事例①」をオンライン開催した。SDGs未来都市は、SDGsの達成に向けて優れた取り組みを行う地方公共団体を内閣府が選定するもので、2018年度から始まった。本年度もSDGs未来都市が30都市選定され、その中から自治体SDGsモデル事業が10案件選ばれている。今回の情報共有会では、SDGsの予算に関わる政府の動向と、自治体によるSDGs未来都市に関する2つの事例として、2022年度にSDGs未来都市に採択された千葉県松戸市と、2021年度SDGs未来都市選定自治体で、ジャパンSDGsアワードの「SDGs推進副本部長賞」(内閣官房長官賞)も受賞している北海道上士幌町の先進的な取り組みが紹介された。

「地方創生SDGsの取り組みが加速! 内閣府SDGs予算概算要も増額方向に」
内閣府 地方創生推進事務局 参事官補佐
田中 一成 様

 

 

いま日本では国を挙げてSDGsを推進している。2024年までに政府は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」において、地方創生SDGs達成に取り組む地方自治体を60%にする目標を掲げている。年を追うごとにSDGsの認知が広がり、現在は目標値も52.1%まで高まっている状況だ。

内閣府 地方創生推進事務局 参事官補佐 田中一成氏は「地方創生に向けたSDGs推進事業での詳細な予算をみると、SDGs未来都市・モデル事業関連の補助金に3.5億円(広域連携も含む)、地方創生SDGs推進・普及ための委託費(国際フォーラムや地方創生SDGs官民連携プラットフォーム)に3億4600万円、一般事務費に700万円を求めています。デジタル庁一括計上予算(Webプラットフォームなどの改修費)も増額を希望しています。まだ財務省の査定が終わらない段階ですが、できるだけ目標額に近づきたい」と期待を込めた【図1】。

この今年6月には岸田内閣が「デジタル田園都市国家構想」の基本方針を閣議決定した。来年度(令和5年)のデジタル田園都市国家構想・地方創生予算は1270億円だが、このうち地方創生SDGsに関係する「魅力的な地域づくりの推進」のため予算要求は21.1億円ほど。また地方創生に向けたSDGs推進事業の来年度の予算は7億円を要求する方針だ。

<図1>地方創生に向けたSDGs推進事業における来年度の予算要求は約7億円。本年度より3億円アップを求めている。

地方創生SDGsの柱! SDGs未来都市・モデル事業と地方創生SDGsプラットフォームとは?

次に田中氏は、前出の地方創生SDGsの柱となるSDGs未来都市・モデル事業と地方創生SDGsプラットフォームについても説明した。SDGs未来都市は、地方公共団体が「経済・社会・環境」の統合的な取り組みによってSDSsを推進する都市を対象に選定されるものだ。

「毎年、全国から30都市が選ばれますが、そのうち先導的な10都市がモデル事業として補助金の対象になります。1都市につき2500万円、普及・啓発では1500万円、システム開発などの工事費・外注費では補助率50%で1000万円まで補助されます。さらに小規模自治体のSDGsを後押しするために広域連携SDGsモデル事業も始まっています。この場合は複数の市町村であれば1件2000万円、都道府県が間に入る場合は3000万円の補助金(補助率50%)が支給されます」(田中氏)【図2】。

<図2>SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業では、経済・環境・社会を両立して統合する施策を打つことが大前提。小規模自治体のSDGsも推進する広域連携SDGsモデル事業も始まった。

田中氏は、SDGs未来都市に選ばれた都市の事例として、森林の多い村として知られる岡山県・西粟倉村の事例にも触れた。

「地域の森林資源で収益を上げる仕組みづくりを図るため、西粟倉村では、金融機関と共に森林を管理するスキームを導入しました。その収益から再投資の仕組みをつくり、森林の価値を高めています。また広域連携モデル事業で、この西粟倉村に加え、岡山の真庭市・岡山市・倉敷市の未来都市が、脱炭素や森林を中心にした岡山版SDGs体験ツアーを実施しています」(田中氏)。

もう1つの柱となる地方創生SDGsプラットフォームは、自治体が抱える地域課題を、民間の持つノウハウやソリューションと結び付けて解決するための基盤である【図3】。いま6700団体が参加している。また地方創生SDGs金融を通じた自律的な好循環も狙っている。これは地方事業者を金融面で支援し、得られた収益を地域内で再投資してもらう施策だ。

<図3>幅広いステークホルダーとのパートナーシップを深める官民連携のバイとしての地方創生SDGsプラットフォーム。主にマッチング支援、分科会の開催、普及促進活動を実施。

「自治体向けに地方創生SDGs登録認証制度を制定し、そのガイドラインもリバイズしています。この制度に登録された都市の中で、地方創生SDGs金融を通じて自律的好循環を生み出した都市には表彰を行っていますが、すでに横浜市、静岡県御前崎市、鳥取県・日南町、長崎県などが表彰されました」(田中氏)。

このように、いま内閣府では自治体に寄り添った支援を実現するために、地方創生SDGs関連予算の増額を求めているところだ。

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「Z世代を起爆剤に地域リ・ブランディング!~SDGs未来都市・松戸市の例」
千葉県・松戸市 総合政策部 政策推進課 市政総合研究室 室長
中平 治 様

 

 

続いて千葉県・松戸市 総合政策部 政策推進課 市政総合研究室 室長 中平 治氏が、2022年SDGs未来都市と自治体モデル事業に採択された経緯や裏話について披露した。

松戸市は、東京都と埼玉県に隣接するが、全国市町村で36番目の人口49万7631名を擁し、一般市では最大の規模を誇っている。産業構造は第三次産業が多く、「共働き子育てしやすい街ランキング」で連続2年首位だ。

そんな同市のSDGsの取り組みは令和2年から始まった。同市は前出の「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」に入会し、市のSDGsに関するWeb開設や、職員向け研修を実施。そして、日経新聞のSDGs先進度調査で県内2位(全国59位)になった。

令和3年には、SDGs推進体制の検討を本格化し、SDGs推進本部をつくり事務局会議を設置。SDGsのステップとして、SDGsコンパス(SDGsの行動指針)をベースに、独自のスキームを構築し、①SDGsの理解、②方向性と優先課題の探索、③ステークホルダーとの連携、④アクションという段階を踏んでいくことにしたという【図4】。

<図4>2022年SDGs未来都市と自治体モデル事業に採択された松戸市のスキーム。SDGsの実践に向けて、4つのステップを踏んで着実に推進していった。

中平氏は「第1段階で職員向けSDGs研修を行いました。地方創生カードゲームを中心に約200名が受講しています。第2段階で人と環境にやさしいまちづくりを基本目標の1つに掲げ、総合計画の政策体系とSDGsのゴールを紐づけました。第3段階は千葉銀行、損保4社、イトーヨーカ堂などの民間企業と地方創生SDGsに関する包括連携協定を締結しました。第4段階で市長メッセージの発信と、市内大学生によるSDGsフォーラムの開催、ちばSDGsパートナー登録制度、さらにSDGs未来都市への申請準備も進めました」と、同市の取り組みを示した。

松戸市がSDGs未来都市に選ばれるまでの具体的な道のりとは?

中平氏は松戸市のようにSDGs未来都市採択を目指す自治体の参考となるように、採択前の準備から採択後の取り組みの流れを示した。

同市は、その準備として、まずSDGs未来都市の全体計画と自治体SDGsモデル事業に分けて申請書を作成したという。最初に同市の地方創生SGDs推進本部で制度を説明したうえで、全体計画を並行して進めた。

「一方、問題になったのは自治体SDGsモデル事業でした。新規事業なので新しいものにしなければなりません。そこで庁内で募集をかけ、新規性の評価を加味し、バックキャスティング思考で未来のゴールから逆算する形で事業を考えました」と中平氏は振り返る。

もともと松戸市は、都心へのアクセスが良く、豊かな自然を兼ね備えた住宅都市だ。人口も多く、子ども・子育て支援が重点施策だったが、課題としてURなどの大規模団地の老朽化に伴う更新時期が来ており、若者の市内定着も5%に満たなかった。それらを踏まえ、Z世代と大規模な常盤平団地を掛け合わせた新規事業を考えたそうだ。

同市は「まつどSDGs×産官民連携窓口」「まつど地方創生SDGsプラットフォーム」「まつどSDGsプロジェクト」の3つを統合的に組み合わせ、Z世代のアイデアと市内外のリソースが好循環する持続可能なモデルを目指している。

「多様な主体と行政をつなぐ窓口、地域資源を見える化し、Z世代とのつながりや民間同士の連携を促進するプラットフォームを構築していきます。さらに地域課題とリソースをマッチングさせ、Z世代を中心とした課題解決や新ビジネスの創出をつなぐ場として、常盤平団地エリアをモデル地区にしたSDGsプロジェクトを推進する計画です」(中平氏)。

このSDGsプロジェクト(まつどSDGsキャラバン)では、SDGsキャラバン推進会議を設置し、Z世代による地域課題の基礎調査と、リ・ブランディングプランによるビジョン策定、SNS発信、常盤平団地のグリーンインフラを活用したウェルネストラック設置、住民参加型イベントなども予定しているという【図5】。

<図5>松戸市の令和4年度の具体的な取り組み。産学官民連携窓口の設置とまつど地方創生SDGsプラットフォームの構築に続き、現在はまつどSDGsキャラバンを推進中。Z世代の活躍に期待。

中平氏は今後の課題について「産学官民連携窓口に届けられるアイデアを上手く事業マッチングさせ、まつど地方創生SDGsプラットフォームの構築に向けて、登録認証制度のメリットを訴求していくことです。最も注力するSDGsキャラバンでは、具体的な実装体制やステークホルダーとの合意形成が重要になります。地域課題を自分ごと化し、市民を巻き込む体制強化も考える必要があります。予算は初年度のみしか取れないため、持続可能な取り組みが求められています」とまとめた。
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「デジタル活用と持続可能な街づくりを実現にした北海道・上士幌町の例」
北海道上士幌町 デジタル推進課 課長
梶 達 様

 

 

上士幌町は、北海道十勝地方の北部にあり、東京23区より少し広い地域に5000人の住民を抱えている。森林の割合が約8割を占め、人口の8倍もの牛を飼育している。そこで家畜の糞尿を発酵させたバイオガスの発電ビジネスを開始し、地産地消の再生エネルギーを実現。こういった取り組みが評価され、ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞を受賞したり、SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業にも選定された【図6】。

<図6>上士幌町は、環境と調和した持続可能な農業とエネルギーの地産地消を実現。家畜の糞尿を発酵させたバイオガス発電のビジネスなどが評価され、ジャパンSDGsアワード内閣官房長官賞も受賞。

上士幌町では、首都圏との格差を是正するために、2000年前後からICTの推進に取り組み始め、さまざまな施策を打ってきた。ECサイトに早く着手したこともあり、現在でも多くのふるさと納税の寄付を集めている。直近では、2022年にデジタル推進課も新設したという。

同町の人口分布は市街地に4000人が集中し、町役場1㎞圏内に商店や病院などの公共施設が集約されており、「上士幌セントラルベルト構想」を進めている。一方、農村3地域は人口が少なく、交通の便を改善するために、無料で乗れる高齢者等福祉バスを走らせている。町の予算における公共交通コストの割合が高いため、ICTを利用した効率的な公共交通の取り組みが課題になっていた。

「そこで利用頻度の低い福祉バスの二路線をデマンド化し、家の前まで来てくれるデマンド型の実証実験を行いました。町が高齢者にタブレットを配布し、直感的かつ分かりやすいUIで予約ができるようにしました。現在は農村三路線すべてに対応し、乗車30分前まで予約可能です。これで稼働時間と運行回数が大幅に削減でき、脱炭素にも貢献して、利用人数も増えたのです」と語るのは、同町 デジタル推進課 課長 梶 達氏だ【図7】。

<図7>高齢者福祉バスのオンデマンド化実証実験の事例。現在は農村三路線すべてに対応し、乗車30分前まで予約可能。ユーザーインタフェースが簡単なので、お年寄りでもWebから予約できる。

次に同町では福祉バスの空き時間を可視化することで、その有効活用も考えた。これにより運行を効率化し、スーパーの貨物配送を実施できるようになった。福祉バスの予約が入っていない時間帯に貨物を運ぶ実証実験を実施。また逆に物流業者による客貨物混載の実験も行った。これは日本郵政の協力を得ており、タブレットから予約して郵便ポストの前から人をピックアップしてもらう取り組みだ。

オンデマンドバスから、ついに自動運転バスの取り組みまで!

さらに上士幌町では自動運転バスの実証実験も2017年から始めている。ついに2019年には公道を走れるようになり、雪道での運行も試して問題なく走れたそうだ【図8】。

<図8>上士幌町では5年前から自動運転バスの実証を始めているが、さまざまな利用シーンと効率的な運航を考えながら、実用的な運用を進めてきた。昨年は雪道での実験も行われた。

「令和4年度の国交省の実証事業にも採択され、既存交通の補完としての運行から、交通網への拡充や、2024年に向けての持続可能な公共交通提供へとステップを進めていく予定です。まず2022年度は自動走行ルートのマッピングを中心に進め、日本で最も密度の高いルート・バス停数を目指します」(梶氏)。

また同町では自動運転バスだけでなく、ドローンの利活用にも積極的に取り組んでいる。たとえば同町ではドローンを使い、「ロボットによる山岳遭難救助コンテスト」の開催を支援しており、人が捜索できない夜間帯での活用も目指している。2021年には民間企業が「クリスマスドローンショー」を開催。ドローン編隊をQRコードで表現し、企業広告に活用することも期待されている。

梶氏は「ドローン配送の実証実験も行いました。タブレットでモノをオーダーし、自宅前までドローンでモノを配送し、高齢者や買い物弱者の支援や、デリバリー拡大を目指します。最終的には、かみしほろヒト・モノMaaSプロジェクトにより、陸送とドローンのハイブリット型で、ポツンと一軒家の農村地域の配送を効率化し、市街地ではトラック配送による陸送の効率化を考えています。現在スマートストアを構築中で、ドローンとの連携により、店舗経営の改善や廃棄ロスの削減も視野に入れています」と説明する。

そのほか今年度は、農業分野で牛の受精卵をドローンで配送や医薬品の配送、逆に残薬回収などの実証実験も行う。最終的にドローンと自動運転バスの連携により、人とモノの移動を最適化していく意向だ。自分たちでモデルをつくったあと、他の自治体と横展開をすることでコスト削減をしたい意向だ。
同街の取り組みは地方創生SDGsの中でも先端の取り組みであり、かなり参考になるだろう。

(取材・文 井上猛雄)