開催レポート

【開催報告レポート】ODS第12回研究会
「持続可能なまちづくりに貢献する脱炭素化の取り組み」
~SDGs未来都市における脱炭素化の取り組み事例とAI活用した脱炭素調達~

第12回研究会が東京ポートシティ竹芝オフィスタワーにて開催されました。イベント開催に先立ち、今期からODSの新事務局長に着任した池田昌人の挨拶で始まった。

「SDGsや社会貢献という言葉を聞いて、最初にイメージするのは環境や未来に対する取り組みです。我々は、皆様の交流の場となり、発展的な日本社会をつくれるような活動を強化していきます。今回は、脱炭素化に向けて内閣府・地方自治体・企業の皆様をお招きし、先進的な取り組みやポイントについて、それぞれの立場から説明して頂きます」と語った。

 

 

 

内閣府が経済・社会・環境の三側面から推進する地方創生

最初の特別講演は、内閣府地方創生推進事務局の田中一成参事官補佐が登壇。
「地方創生SDGs推進の目的とSDGs未来都市における脱炭素化の取組み」をテーマに、SDGs未来都市選定の最新状況や、脱炭素化に向けた政府の視点などを解説した。
SDGsを推進するには、国だけでなく、企業や市民といった、あらゆるステークホルダーが主体となって進めることが大切だ。この中には地方公共団体も含まれており、政府の政策・方針の位置づけとして、昨年12月に閣議決定された「デジタル田園都市国家構想総合戦略」の中で、地方創生SDGsが掲げられている。

田中氏は「地方創生SDGsでは、2024年までに60%の自治体がSDGsを取り組むようにKPIが盛り込まれました。年を追うごとに認知度も上がり、すでに2022年度の時点で57.2%まで達成し、目標に向かって順調に進んでいます。SDGsの考え方として重要なポイントは、経済・社会・環境という3つの側面からのバランス良く取り組み、持続可能なまちづくりを進めていくことです」と強調する。

 

この考え方を踏まえて、内閣府地方創生推進事務局では以下の政策に取り組んでいる。

①SDGs未来都市・モデル事業地方創生

SDGsで地域を活性化するロールモデルをつくり、普及・展開していくことを目的としており、毎年、全国からSDGs未来都市を選定し、2500万円まで補助金を支給。また、昨年度から始まった広域連携SDGsモデル事業は、活動のすそ野を広げるために、同じ課題を持つ小規模な自治体が連携して事業を行う取り組みであり、離れた地域での連携も可能だ。

▲地方創生推進事務局の政策その1。SDGs未来都市・自治体SDGsモデル事業、および広域連携SDGsモデル事業を選定し、その成功事例を広く流布していく。

たとえば、リサイクル率日本一の循環型の町として、収益金を奨学金などに生かした鹿児島県大崎町の未来都市の事例がある。
同町はユニ・チャームと手を組み、紙おむつのリサイクル実証実験を行っている。
また、グリーンスローモビリティやロボットを使って、脱炭素と高齢者の外出機会を創出している宮城県石巻市も選出されている。
同市は東日本大震災で大きな津波被害を受けたが、減損した地域コミュニティを活性化し、新産業の雇用創出を目指している。

②地方創生SDGs官民連携プラットフォーム

▲地方創生推進事務局の政策その2。地方創生SDGs官民連携プラットフォームを情報基盤とし、地方自治体の課題解決のために、官民連携のマッチングを支援。

本プラットフォームは、官民マッチングイベントや優良コンテストなどを開催することで、自治体の課題を解決していく政策である。
すでにプラットフォーム会員は約7200団体まで広がっている。最新の優良事例として「LABV」(Local Asset Backed Vehicle)を活用したまちづくりプロジェクトが山陽小野田市で展開中だ。
LABVは官民協働の開発事業体(自治体が公有地を現物出資し、その土地に相当する資金を民間事業者が出資して事業をつくる)が公共施設と民間収益施設を複合的に整備するものだ。
同市では、LABVにより地域の賑わいを創出する複合施設などを開発・運営している。

 

地方創生SDGs金融を通じた自律的好循環

「地方創生SDGs登録認定等制度ガイドライン」を制定し、SDGsに取り組む地域の事業者を可視化しながら、金融機関と自治体でタッグを組み、地元で利益が還流する仕組みづくりを応援していく政策だ。
内閣府特命大臣(地方創生)が自治体を表彰する取り組みも始め、ここで次セッションで紹介する鳥取県日南町が選ばれている。今年は福岡県北九州市や石川県七尾市なども表彰された。
田中氏は「こういったSDGsの取り組みにより、皆様が有益と感じて頂ける人づくりを積極的に進めたいと考えています。ぜひ未来都市事業などを活用して下さい」とまとめた。

地域金融機関と連携したJ-クレジットによる脱炭素化の成功事例(鳥取県日南町)

鳥取県日南町は、地域金融機関と連携した「J-クレジット」による脱炭素化の取り組みを全国でいち早く始め、多くの実績を積み重ねてきた。自立改革推進本部 主幹 荒金太郎氏が、その取り組みについて紹介した。

日南町は2019年度にSDGs未来都市に選定された。
同町は全国で最も高齢化が進む町で、高齢化率は53.1%に上る。3万4000ヘクタール(山手線の内回り半分)のうち9割が森林で占められ、そこに約4200名が住んでいる。同町では木材流通拠点を設置し、林業から林産業に転換して雇用を生み出したが、人手不足の問題が起きた。
そこで林野庁の協力を得て、担い手育成事業を5年前から始めたそうだ。
「たとえば国内初の町立学校として設立された“にちなん中国山地林業アカデミー”は即戦力の人材を育成しています。卒業後の就職先は地域を縛らずに、どこでも就業できるため、多くの若手が学びに来ます。また町全体で子供のころから一貫した森林教育も推進しており、赤ちゃんに木の玩具をプレゼントしたり、保育園・小学校・中学校から高校生、大人まで森林教育を実施したりしています」と荒金氏は語る。
先に触れたように、同町はJ-クレジットを2013年から導入してきた。これは温室効果ガスの排出権を取引する国の制度だ。具体的には、二酸化炭素の排出削減や吸収増加につなげるために、同町の森林を中心にCO2吸収量を設定して、その売買を行っている。同町のJ-クレジットを利用した販売促進スキームは以下の通りだ。

 

▲日南町におけるJ-クレジット販売促進スキーム。日南町がクレジット販売者だが、クレジットの地域コーディネータである山陰合同銀行などがスキームの要となる。

 

▲J-クレジットの実績は2021年度に103社で約2000トンと大きく伸び、約1500万円相当になった。この収益は森林保護や生態系保全の資金に使われ、日南町の循環型林業を実現。

荒金氏は「日南町がクレジット販売者となり、山陰合同銀行がクレジットの地域コーディネータとして、ESG経営を進める購入企業に成約後もサポートを続けています。このほか鳥取銀行や米子信用金庫、第一生命とも連携し、J-クレジットを販売してもらっています。J-クレジット販売実績は、SDGs未来都市に選定されてから大きく伸び、2021年度に103社で2000トン弱のJ-クレジット(約1500万円)を取引し、苗木の購入など森林保護の資金として循環型林業を実現しました」と、その成果を報告した。

日南町では、J-クレジットを通じて環境意識を高めるために、企業の社員を招いて森林保全活動の体験も支援している。ホットな話題は、森林を活用したSDGs修学・教育旅行により、1年間で500人の中高生が来訪していることだ。また廃材を使ったSDGsバッチをつくったり、日南町出身のサクラクレパス創業者の遺志を継いだオリジナル寄木細工ケースを販売したりするなど、森林のまちを積極的にPRしている。このケースはふるさと納税の返礼品にも活用する予定だ。

荒金氏は「わが町は中山間地域で人口もどんどん減少しています。これから自治体間格差がさらに広がっていくでしょう。しかしSDGsをキーワードに、官公庁の皆様から選ばれる自治体として、その運営から経営につながるように取り組んでいきます。林業だけでなく、オーガニック農業モデル事業や、DXを切り口にした医療介護福祉のヘルスケアプロジェクトも展開する予定です。今後も多くの取り組みによって、持続可能なまちづくりを実践していきます」と力強く語った。

ジオパークの特性を生かした小水力発電とウェルビーイング住宅の取り組み(富山県)

富山県 知事政策局次長・成長戦略室長の舟根秀也氏が「富山SDGs×水=Well-being」をテーマに、同県の取り組みについて発表した。

▲富山県 知事政策局次長・成長戦略室長 舟根秀也氏

富山県と言えば、3000mクラスの北アルプスから流れる急流な河川と扇状地、その先に広がる1000mを超える水深の富山湾が特徴だ。富山は水だけでなく、山も海もあるため、ジオパークを形成している。
舟根氏は「そこで我々は富山県をジオ・ストーリーとしてブランディング化しようと考えています。立山信仰は富山の文化ですが、それだけでなく扇状地の末端に水が涌く湧水文化も育まれてきました。豊富な湧き水を利用した多くの共同洗い場や、井戸水だけで生活する入善町(高瀬湧水の庭)もあります」と富山の特異な地形と文化について説明する。
昭和になってからは、7年をかけて黒部ダムが建設され、地下に建設した発電所で得られた電気を関西電力へ送電できるようになった。実は富山県は黒部ダムの貢献もあり、再生可能エネルギー由来の電力量が県内の電力消費量を上回っている(2021年度調べ)。再生可能エネルギーだけで県内の電力を賄える富山県は、発展の原動力である「水」をテーマとして、SDGs未来都市と自治体SDGsモデル事業の両方に選定されている。

また富山県はレジ袋の無料配布廃止も2008年から全国で先陣を切って始めており、マイバック持参率は95%(エコストアベース)に達している。このように以前から環境に対する意識が高かった富山県は、令和5年に「富山県カーボンニュートラル戦略」を策定し、温室ガスを2030年度に53%削減する目標(2013年度比)を掲げているという。

「この取り組みの一例として、北陸電力とタイアップし、県内に移転した事業所や移住者向けに低料金の電気料金メニュー“とやま未来創生でんき”を提供しています。県内の農業用水路を利用した小水力発電にも取り組み、民間参入による新規導入を進めようとしています。またゼロ・エネルギー・ハウスを目指して“富山型ウェルビーイング住宅”(仮称)を普及させようとしています」(舟根氏)。

▲とやま未来創生でんきのメニュー。 県内に移転した事業所向けの「とやま未来投資応援でんき」や、移住者・UIJターン向けの「とやま移住応援でんき」、県内企業向けの「とやま水の郷でんき」を用意。

 

 

▲富山県に多くある農業用水力発電所。最大出力が1000kW以下の、いわゆるマイクロ水力発電と呼ばれる装置だ。水力発電は環境に依存せず、安定した出力が得られる。

ウェルビーイング住宅については構想レベルだが、ヒートポンプや断熱材による省エネの徹底と、水力や太陽光といった再エネ導入によるオフ・マイクログリッドの構築、EVなどのモビリティ活用を行う住宅団地のような施策を官民連携で目指したいそうだ。富山県では成長戦略として「幸せ人口1000万~ウェルビーイング先進地域、富山~」を掲げ、独自のウェルビーイング指標を政策の羅針盤にしようとしている。

舟根氏は「富山SDGs×水=Well-beingとは、SDGsの視点でいえば現役世代から次世代へ良い贈り物を渡すことです。その使命のためには水が欠かせず、どうやって水を活用できるかという“創水”にかかっていると考えています。その結果として、県民や富山に関わる皆様のウェルビーイングを向上できる政策を進めていきます」と決意を表明した。

再生エネをワンストップで調達できる民間の電力オークションサービス(株式会社エナーバンク)

最後の事例はエナーバンク株式会社 代表取締役社長の村中健一氏が、「全国40以上のゼロカーボンシティで活用される『エネオク』とAI活用した共同調達による脱炭素の推進」をテーマに、再生可能エネルギーの調達をシンプルにする仕組みを解説した。

エナーバンク株式会社は、2018年に設立されたスタートアップである。いま同社が提供している電力リバースオークションサービスの「エネオク」は、全国40以上のゼロカーボンシティで活用されている。2020年の脱炭素宣言により、エネオクが自治体の再エネ入札に使える仕組みとして注目を浴びるようになったそうだ。
現在、新電力を含めて約705社の電力会社があり、自治体も脱炭素社会に向けて活動しているところだが、電力価格の変動が大きいという課題がある。エネオクの顧客となる企業や自治体が、電力や再生可能エネルギーの調達条件(再エネ比率など)を入力すると、信頼性の高い電力サプライヤーが入札し、需要家の電気料金を最適化できる。

▲リバースオークション方式を採用したエネオクで、需要家は最安値の電力を調達。一方で小売電力事業者は他社の入札価格を見ながら自社のオファーを検討でき、従来と異なる顧客接点の開拓も可能。

 

村中氏は「エネオクの大きな特徴は、他社の入札価格を見ながら、一定期間に何度でも再入札が可能なリバースオークション方式(競り下げ方式)を採用している点です。需要家にとって少ない比較検討コストで最安値の電力を調達できます」と強調する。

またエネオクは多店舗・グループ企業など、複数社によるオークションも可能だ。需要家はスケールメリットが得られ、業務の効率化や属人化も抑制できる。売手側の電力事業者は自社の電力調達カーブにフィットする複数顧客を一度に獲得できる機会を得られる。

リリースから約4年のエネオクの実績は、総オークション数が6551施設、再エネ条件が5032施設となり、総取引額も387億円に上り、再エネ調達とコスト抑制の両立というジレンマにも寄与している。直近では予定価格より13%の削減が提案された。エナーバンク側はマッチング契約が成立した場合に、同一の紹介料を事業者から得るというビジネスモデルで収益を得ている。同社では自治体との連携も東京、神奈川、さいたま市、大阪府などで実績があり、地域間連携協定を結びながら、民間事業への共同調達への波及を狙っている。

さらに同社では、再エネ電力調達だけでなく、太陽光発電設備の調達を可能にする「ソラレコ」(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000038798.html)のβ版もリリース。太陽光発電設備の導入を希望する需要家と、設備を提供するサプライヤーをマッチングするサービスだ。これも共同調達のスキームに取り入れていくという。

▲AIを活用した脱炭素の取り組み。異なる発電事業者と需要家の電力ニーズをAIで合成して最適なカーブを生成し、共同調達で再エネに利用する仕組みを提供する。

「我々はAIを活用した共同調達による脱炭素の取り組みも推進しています。単一オークションの実績はありましたが、今後はAIを活用した共同オークションに進化させようとしています。たとえば病院や工場や学校など、電力使用時間帯が異なるパターンから最適な合成需要カーブをAIで生成し、需要家の電力ニーズをまとめて再エネに利用する仕組みを提供します」(村中氏)

これからエネルギー調達を30分同時・同量でマッチングしなければならない状況のなか、人間の手ですべてを処理するには限界が出てくる。そこでAIによって発電パターンからプランに応じた組み合わせを行い、小売電力会社の最適な時間帯別プランを提供して、需要家とマッチングさせていくわけだ。

最後に村中氏は「このような施策に興味のある地域事業者や自治体の皆様は、ぜひエナーバンクにお声がけ下さい。そして再エネが浸透する仕組みを、ぜひ我々と一緒に作りましょう!」とアピールした。

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資料1
資料2

エナーバンク株式会社からのお知らせ

ゼロカーボンシティを推進させる無料の再エネ調達サービス。
再エネの専門チームが伴走してサポートさせていただきますのでぜひお問い合わせください。

【お問合せ先】
https://enerbank.co.jp/zero-carbon-city/

(取材・文 井上猛雄)