開催レポート

開催報告 ODS第1回情報共有会
「日本のデジタル化を推進するデータ戦略」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる8月4日に会員限定の第1回情報共有会「日本のデジタル化を推進するデータ戦略」と題してオンライン講演会を開催しました。そのご講演内容をご紹介します。

 

「日本のデジタル化を推進するデータ戦略」
内閣官房 情報通信技術(IT)総合戦略室 参事官 田邊 光男 様

本日は、日本のデータ戦略についてご説明したいと思います。まず、データの重要性について、それから海外の国々がどのようなデータ戦略を設けているのかをご紹介したうえで、我が国がデータ戦略としてどういうことを考えてきたのかをご説明いたします。

データの重要性について

まず、データの重要性については、安倍総理が平成31年(2019年)の世界経済フォーラムで言及し、更にその年のG20大阪トラックでDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)という概念を提唱し、G20の各国からコンセンサスを得ました。

■第3次AIブームとデータ流通量

データの重要性を新たな側面から見てみると、今迎えている第3次AIブームでは、機械学習、ディープラーニングと言われる、AI自らが分類方法あるいは特徴量を学習する点が特徴となっています。AI自らいろんなものを学習できるようになってきていて、そのためのデータの流通量、AIに与える教師データといったものの重要性がどんどん増えてきています。

海外の状況について

■各国・海外の状況

海外のデータ戦略についてですが、この1~2年で、欧州、アメリカ、英国等々で、データ戦略が立ち上がってきています。EUは2020年の2月、米国、これは連邦政府ですけれども、2019年の6月、英国は2020年の9月ということです。

EUについては、後程もう少し詳しく見ますけれども、米国についてはデータの価値向上と公共利用を進める文化を構築しようということで、米国の連邦政府のそれぞれの役所に対して、あなたの政策課題を解決するにはどういうデータが必要で、そのデータをあなたは持っているんですか、持っていないとすればどうやって入手ができるんですか、というような問いかけをする。あるいは、ある政策決定をしたときに、それをデータの観点で説明できるんですか、というような問いかけをすることで、データを活用する文化、あるいは意識の醸成をしようとしているところに特徴があります。英国については、データの価値を開放して、成長志向かつ信頼性のあるデータレジームをやっていこうということです。

毛色が変わっているのは中国ですけれども、中国では国家レベルで情報化発展戦略というものをやってきており、その特徴は、国家主導によるデジタル社会基盤の発展、トップダウンによるいろいろなサービスの提供、その中には広範な個人情報の収集等々も含まれていますが、そういった社会管理システムを新興国にも輸出するという構想を描いているということです。

■EUデータ戦略

先ほど申しましたEUでは、既に様々な法的な枠組みがあります。データアクセス、再利用のための分野横断的な措置、そういうプロジェクトに対する予算的な手当て(投資)、中小企業を含む能力開発、そして戦略的な個別分野でのデータスペースの構築、といったものが戦略としてあげられています。例えば、個別分野では、製造業、グリーン、交通、健康、金融、エネルギー、農業、行政等々といった分野のデータスペースを構築していこうということです。

■GIGA-Xプロジェクト

国レベルではありませんが、欧州では、更にGAIA-Xと呼ばれるプロジェクトがございます。これは2019年の10月、ドイツのドルトムントで開催されたデジタルサミットで発案された欧州クラウド/データインフラ構想ということでございます。欧州のエコシステムの成長の源泉となる、使いやすく競争力のある連合データインフラを整備していきたいということで、既に300社以上の企業が参加をしているということです。

■データ取引市場

また海外では、データ取引市場というようなものも、事例として出てきています。一つは、中国「北京国際ビッグデータ取引所」で、データセットや分析結果などが売買されています。またデータの収集代行、加工、品質評価、API (Application Programming Interface)などのサービスも提供されています。その他では、世界経済フォーラムが推進するDCPI(Data for Common Purpose Initiative)というデータ取引市場に関するプロジェクト。これをコロンビア等々の国でやっていこうということが4月に発表されています。

日本の状況について

我が国の状況ということですが、これは言わずもがなかと思いますけれど、新型コロナによってデジタル化への課題が、非常に大きくなりました。わかりやすい例では、働き方におけるテレワークです。最初の緊急事態宣言が出たときには、テレワークをするにあたって上長の許可をとるためにハンコをつくなど、オンラインが前提となっていない仕組みになっていました。

教育についても、GIGAスクール構想ということでタブレット端末を配っているわけですが、そもそも教育の仕方として、オンラインではなく対面でやることを前提に教育の中身が作られているというようなこともあるのではないかと思います。

行政ということでは、様々な給付金・助成金がありますが、オンライン手続きの不具合や、同じような申請を何度も書かなければいけないというような、様々な課題が浮き彫りになってきています。こういったことを解決していくためには、システムの形をいじるだけではなく、システムが扱うデータ、そのデータの在り方も前提として考え、そのシステムの上にあるような業務フロー、こういうものを併せて変えていかないと難しいのではないかと、そういう問題意識で、データ戦略を作っていくべきではないかというような議論がございます。

■データ戦略検討体制

データ戦略の検討体制としては、まずIT総合戦略本部が置かれ、その下にデジタル・ガバメント閣僚会議、さらにその下に3つのワーキンググループを設けて、去年の9月から様々な側面でデジタル社会の在り方を検討してきました。ワーキンググループの一つはマイナンバー制度と国・地方のデジタル基盤について、もう一つはデジタル改革関連法案について、さらにもう一つがデータ戦略タスクフォースです。
データ戦略については10月から検討を開始し、かなり短い間に濃密な議論をいただいて、12月の終わりに、第一次のとりまとめを出しております。

■データ戦略タスクフォース第一次とりまとめ

第一次とりまとめは、10月から検討を開始し12月21日にとりまとめという短い期間でしたので、課題あるいは施策の抽出にとどまっておりますが、ここでデータ戦略のアーキテクチャをはっきりさせ、このアーキテクチャに従って、これからどの分野で何をすべきなのかということを明確にしたということに意義があると思っております。アーキテクチャの構成は、インフラ、利活用環境、データ、連携基盤、ルール、組織、戦略となっています。

■包括的データ戦略

年末には、課題の洗い出しをしましたが、その後、それぞれについて実装するためのイメージを明確にし、包括的データ戦略ということで6月に閣議決定をしております。

以降、包括的データ戦略についてご説明いたします。

■データ戦略の基本的な考え方

データ戦略の基本的な考え方ですが、データ戦略が目指すものとして、行動指針やビジョン、理念などを明確にしたうえで、特にコロナの状況の中で、行政のデジタル化の遅れが一番顕著だったのではないかという反省のもと、行政におけるデータ行動原則ということを定めてはどうかということを言っています。

米国の連邦政府のデータ戦略にも近い考え方でありますが、データに基づく行政をやっていこうと、あるいはデータエコシステムを構築しようということです。そして、そういったエコシステムを構築するためのデータの在り方が決まってきたら、オープンデータを更に推進していこうということを言っております。

■トラストサービスとは

世の中にはいろいろなトラストサービスがございます。このスライドの左側に4つの図がありますが、まず、左上の青枠になっているもの。これは自然人の意思を確認するもので、既に国の制度として電子署名法というものがあります。

その右側、制度なしと書いてありますが、これは組織が発行する文書。例えば、法人等々であれば商業登記がありますけれども、ある会社がいろいろな売買等々をするときに必ずその法人の社長名でやるかというとそうではなく、営業部長名であることもあります。法人の中のある組織が発行する文書、その文書の起源を確認するものとして、eシールと呼ばれているもの、こういうものも必要になってきますが、これは我が国ではまだ制度がありません。

そしてその下ですが、現在のIoT時代において、IoTデバイスから様々なデータが吐き出されますが、そのデータの送信元がちゃんとしているのかという正当性も確認しないといけないわけですが、ここについても制度がないという状況です。左下のオレンジの枠になっているところですが、データをしっかり信頼できるようにするためには、データの出所を突き止めるということの他に、あるデータが一定の時刻において確かに存在して、更にその後、改ざんをされていないということが担保できなければなりません。そのためのタイムスタンプというサービスです。これはもう既にいくつか民間の認定スキームがあります。こういった民間の認定スキームについて、4月に総務省で告示を改正し格上げしました。

海外では、EUにおいて、eIDASという規則があります。これは今申し上げたような電子署名のみならずeシール等々も含めてトラストサービスに関して包括的に規定をしていると認めていこうというものです。それをトラステッドリストというものに載せて、そういうサービスに一定の信頼性を付与しているというものです。我が国でも、こういったものを横串で刺すような、何らかの認定スキームというようなものが必要なんじゃないかということでございます。

■トラストの基盤の構築

認定スキームを作るためには、様々な論点があり、特に認定の基準をどうするのかとか、あるいは基準をクリアしたそういったサービスについての認定の効果みたいなものを今後引き続き考えていきたいと思います。検討にあたってはやはりそのトラストサービスを利用される様々な事業者の方の声を、極力広く吸い上げる必要があり、それをどうするか検討している状況でございます。

■プラットフォームとは

データ戦略でいうプラットフォームというのは、そのデータのやり取りをするためのルールとツールを提供する基盤であると考えております。ではその基盤というのは何が必要なのかというと、データが探せること、探したデータが取得できること、そして、取得したデータがつながること、この3要素です。

■プラットフォーム検討の全体像

プラットフォーム検討の全体像ですが、プラットフォームというのは様々な分野で立ち上がってくると思われますが、まずは個別分野でのプラットフォームを作っていくということだと思っております。その際、このデータ戦略の中では、プラットフォームの検討手順というのを明確にしております。具体的には1)から7)までありますが、やはり何を置いても一番大事なのは、プラットフォームのステークホルダーが誰で、そのステークホルダーのニーズは何で、彼らにどんな付加価値を提供するのかということです。

その上で、プラットフォームの全体のアーキテクチャを設計し、今までの業務プロセスを変えていくという、そういう手順から入っていくべきではないかと思います。その上で、分野間でのプラットフォームも作っていこうということです。そのために、一般社団法人データ社会推進協議会というものが立ち上がっており、そのサービスとして、DETA-EXの運用が開始されています。

この後、それぞれの分野のプラットフォームのイメージを、参考例としていくつかあげたいと思います。

<参考例> 健康・医療・介護のプラットフォーム

健康・医療・介護について言えば、オンライン資格確認のシステムをベースに、マイナポータル等々と患者個人の様々な情報を連携し、これを個人が取得できるような仕組みを作っていこうということがあります。まずは対象となる保健医療情報をリッチにするということと、このオンライン資格確認をベースにした自分の情報を自ら確認できるというのはどうあるべきなのかということ、そして、それを外部の例えば民間のPHR(Personal Health Record)事業者等々と連携するためにはどういったものが必要なのかいうことを言っております。

<参考例> 教育プラットフォーム

教育については、教育デジタルコンテンツプラットフォームということで、様々な学校教育および学校教育外のデータをまずこのプラットフォームに乗せられるようにしますが、そのためにはデータのフォーマットを標準化することが必要になってきます。さらにこのプラットフォームの在り方としてどういう流通・蓄積の方法があるのか、規模はどうするのか等々を考えていく必要があります。

<参考例> 防災プラットフォーム

防災プラットフォームについては、現在の防災の場面では、自治体は自治体、自衛隊は自衛隊、警察は警察、消防は消防で、それぞれのデータをそれぞれの形式で持っていましたので、一つの地図上にそれをプロットするというのは不可能でした。そこで、防災プラットフォームの検討の方向性として、SIP 4D( Shared Information Platform for Disaster management)というデータの形式を整えて、ある一つのデジタル地図の上にマッピングできるようにしましょうという取り組みがございます。そういうことができると、それぞれが持っている情報の共有がやりやすくなり、それによって、効果的な救助にあたれたり、避難経路の指示が出せたりすることが考えられます。

あるいは既に内閣府で持っている防災総合情報システムというものがありますが、その役割を整理したうえで、防災プラットフォームというような基盤を作っていこうと考えています。その際に具体的な論点としては、EEI(Essential Elements of Information)ということで、どんな災害であっても共有すべき基本情報が決められていることや、防災業務標準ルールが決められていること、また個人情報の扱い、不確かな情報が流れることをどうするのかということ、そして最後はこのプラットフォームのシステムの在り方としてどういう風にするのかというようなことが論点となっています。

■ベース・レジストリとは

次はベースレジストリ―についてですが、これは公的機関で登録・公開されて、様々な場面で参照される社会の基本データということです。年末は重点整備の対象候補というカテゴリーを示したにすぎませんでしたが、6月のタイミングでは、これを精緻に検討しまして、それぞれのカテゴリーの中から、具体的に整備をしていかなければならないデータということで、何々省が持っているこの帳簿の中のデータというところまで示したのがこの全体像です。

ベースレジストリでは、例えば法人であれば法人3情報、決算情報、事業所情報のようなもの、土地であれば、町・字・地番というアドレスとか不動産の登記情報というようなものということです。この図の赤枠のものと緑枠のものとの違いですが、緑は既に一定程度省庁で整備がされてオープンになっているもの、赤はこういうものがあると望ましいだろうが、そもそもデータベースがないとか諸々の制度改正が必要であるといった課題があるものです。こういった課題をクリアしながらやっていこうと考えています。

■デジタルインフラ/人材・組織

次に、デジタルインフラというところですが、通常この分野でインフラと言いますと、通信インフラのことを言うわけですが、ことデータということについて言えば、通信インフラだけではなくて、計算インフラあるいはデータの取り扱いルールの実装、先ほどのGAIA-Xみたいな考え方ですね、こういうものもやっていかないといけないだろうということで、例えばネットワーク層で言えば日本のBeyond 5G readyな環境、データ保有あるいは処理をするところでは半導体基盤の強化、あるいは富岳等のハイパフォーマンスコンピューティングリソースの民間活用というようなことをうたっております。

■国際連携

最後に、国際連携でありますけれども、冒頭で申し上げましたDFFTの推進、これを具体化する必要があります。今後の国際連携の方向性としては、貿易、プライバシー、セキュリティ、トラスト、データの利活用、インフラといったものも含めて検討する必要があるだろう。その検討の仕方としては、理念を共有する国々との連携をまず図りつつ、G7、OECDなどの様々なフォーラムを使い分けてDFFTの具体化を図っていきたいと思っています。

こういうことで、我々、データ戦略ということで検討を進めてきたわけですけれども、方向感のイメージはつかめるものの、まだまだ実装に向けて詰めていかなければいけないところがあります。特に、プラットフォームやベースレジストリといったものについては、それを実際に使う側のニーズをきちんと把握してからやっていかないと意味がありませんので、ぜひ皆さまのご指導ご協力をいただければと思っております。