開催報告 「デジタルの日」協賛デジタル社会特別講演会
シニアが期待するデジタル社会の未来とは
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる10月6日に「デジタルの日」協賛デジタル社会特別講演会「シニアが期待する デジタル社会の未来とは」と題してオンライン講演会を開催しました。そのご講演内容をご紹介します。
「シニアが期待するデジタル社会の未来とは」
デジタル庁「デジタル社会構想会議」構成員
ブロードバンドスクール協会理事
世界最高齢プログラマー 若宮 正子 様
私は1935年生まれですから、物心ついたころから戦争一色で、6歳にして軍事教育を受けていました。その頃は、女の子らしい服装はさせてもらえず、いつでも空襲から逃げられるような恰好で夜も寝ていました。それが私たちの時代でした。
また、私は最後の学童疎開世代でもあり、幼少期は長野県の鹿教湯温泉という温泉場に学童疎開し、戦後、世の中落ち着くと、学校を卒業し、銀行に勤めはじめました。当時1954年頃は、既に工場とかは機械化されていたのですが、オフィスワークは江戸時代と変わりませんでした。計算はそろばんでやって、お札は指で数えて、お客様の通帳に名前を書くときはインクツボにペン先を付けてそれで一字一字書く、そういう時代でした。私はそれほど器用ではなくて、いつも先輩からまだ終わらないのと叱られていましたね。
ただ、アメリカから電気計算機、のちに、コンピューターも入ってきて、単純反復作業は機械がやってくれるようになり、私は、叱られなくて済むようになりました。どんなに器用な人でも機械より早くお金を数えられませんので、私は機械とかコンピューターが自分を助けてくれた存在と考えていて、今でも親近感をもっていますし、パソコンが自分たちでも買えるようになった時に、すぐに購入したという経緯があります。
現在の活動については、メロウ倶楽部副会長、熱中小学校教諭、NPOブロードバンドスクール協会理事、デジタル庁・デジタル社会構想会議メンバー(デジタル大臣直轄のアドバイザリー)に加え、個人的な創作活動や、広い意味での学習、情報発信などをしています。
情報発信については、講演会とかライブ、本を書いていますが、それらに力を入れる理由として、私が2017年に一つのアプリを作ったことで、世界的に有名人になってしまったことがあります。有名人になったということで、結構大変なこともあるのですが、それだけではなくて、普段誰もが簡単に行けないところに行けたり、めったにお会いできない方とお会いできたり、好奇心旺盛な私にとっては、非常に良い経験になっており、そこで色々得た情報を皆さんと共有させていただければということで、情報発信にも力を入れてきました。
いま関わらせていただいていること
■メロウ倶楽部
メロウ倶楽部というのは、「高齢者の積極的社会参加を情報化の支援によって促進し、豊かな活力に溢れた21世紀の長寿社会を目指します」という目的を掲げている、インターネット上の老人クラブです。設立以来、22年ほど政府にも企業にも頼らない自主運営をしていて、費用は会費で賄っています。
20年前にスタートした時からすべての活動をオンライン上でやっているため、コロナ禍や自粛などの影響を受けず、むしろ、コロナ以降、シニアの精神的な居場所ということで再評価されています。
会員は高齢の人が多く、90代でもアクティブな方がおられますし、80代後半が一番アクティブですね。70代は若手といわれています。インターネット上で、俳句の会や挿し木の講習会をやったり、色々な活動を行っていますが、いまZoomで様々な教養講座(源氏物語など)の他、コロナとかワクチンについてハイシニアの立場からのいろいろな副作用についても情報交換をしています。今はオフ会をやったり懇親会をやったりすることはできないのですが、オンラインで楽しんでいます。
モットーは「年寄りだってやればできる」ということで、実際かなり体現できている自信がありますね。
■熱中小学校
熱中小学校は、政府の補助金をいただいて全国的に展開しています。全国の過疎地の中でも特に過疎化が進んでいる地域を対象に、地方創生と大人の再教育をしましょうということで、自治体と組んで一緒に活動しています。これまで自治体毎に生涯学習センターといった形はありましたが、もっと実態に沿った“切った張った”の現代社会、そして先端技術を知るという内容で、寿大学ではなく、もう一度7歳の目で、小学生になったつもりで勉強しようということをテーマにしています。
活動は、月1回各地に足を運び、新鮮な情報を提供する授業を、廃校になった小学校などで行っています。
具体的には、単なる勉強ではなく、共同で「熱中ブランド」という通販サイトを作る等の多彩な授業に加え、仲間・人脈作りによって全国でノウハウを共有していく取り組みとなっています。
授業科目では、畜産、水産、農業に加え、他にも様々なジャンル、観光開発、お祭り学といったような、要するにわが町の宣伝を自分たちで効率的にやるというのが勉強の重要な科目になっています。
■デジタル庁デジタル社会構想会議構成員
デジタル庁のデジタル社会構想会議の構成員としての活動では、大臣の直轄で宿題が出され、それについて自分がレポートするという形をとっています。
最初の集まりでは、偉い方がたくさん出て来られて少しおたおたしてしまったのですが、楽天の三木谷さん、Zホールディングスの川邊さんなんかもメンバーに入っています。
10月10日がデジタルの日で、この講演会もデジタルの日協賛でやっていただいているんですが、当日は、色々協賛企業さんたちが大売出しなどやってくださると聞いています。
「誰ひとり取り残さないデジタル改革」を目指して
■日本のIT化の遅れをどう取り戻すか
「誰ひとり取り残さないデジタル改革」を目指して、ということで、こちらが本題なのですが、日本のIT化が遅れてしまっている、これはもう誰もが知っていることで、では、なぜIT化が必要なのか、現状はどうなのかというお話をさせていただきたいと思います。
■なぜ、IT化が必要なのか
なぜ、IT化、デジタル化を急がなくてはいけないか、というのはコロナ禍で、かなり課題が表面化しています。未だに電話とFAXを使用した連絡網、手続きにひと月かかる「持続化給付金」の支給、オンラインでワクチンの予約ができないと市役所に人が詰めかける、企業はテレワークが進まない、学校はオンライン授業がスムーズにいかないといったことです。その他、ビジネス、行政、その他の分野においても、このコロナ禍でまざまざと遅れを見せつけられています。
■世界における日本の状況
現状はどうなのかといいますと、日本のインターネット普及率は91%で、この表でいうと27番目ということで、そんなに悪い数字じゃないのです。そして、どういう国がインターネットの普及率が高いかというと、バーレーンとかクウェートとかアラブ首長国連邦などの中近東が、今一番進んでいます。
また、日本の場合、スマートフォンを含めて利用率90%を超えているのですが、何に使っているかという点では、他の36か国と比べ使いこなしていないということが分かります。特に、ネットバンキングは36か国中36位です。
■いわゆるIT先進国の状況
いわゆるIT先進国の実情についてですが、2018年に私が北京の朝市に行ったときは、おばあさんが手づかみでお客さん持参の鍋に豆腐をじゃぼんと入れているような小さな屋台ですら、支払いはQRコードでしていました。
また、10年前に行ったソウルにでは、高齢者が必死になってコンピューターの勉強をしているわけです。実は、韓国は行政からIT化が始まっていて、例えば、市役所の窓口を減らそうということで、9つある窓口が7つで済むように、市役所の続きをインターネットでやってくださいということにしたのですね。
ちなみに、市役所の窓口が減れば、2人失業するのではないか、という心配が最初あったそうですが、窓口の方が高齢者のコンピューター教室の先生になったり、誰も失業することなく済んだそうです。
■エストニアで見た「すでにはじまっている未来」
エストニアには、電子政府で有名ということを聞き行ってきました。きっかけは、アメリカのマイアミでMastercardが主催したInnovation Forumに呼んでいただいた際に、エストニアの元大統領ヘンドリックさんが、「電子国家になった成功のカギは何ですか」と聞かれて「銀行と連携したことです。」と答えたのを聞いたことです。私はその時に、どうしてそれで電子政府ができるのかよくわからなかったので、これは行ってみるしかないと思い、高齢者の本音を聞くために行ってきました。
エストニアは日本の100分の1くらいの人口の小さな国で、元はロシアの占領下にあったのですが、今はすべてのことがインターネット上でできる、結婚と離婚と不動産売買以外は全部オンラインでできるという国になっています。
エストニアには日本の方もたくさんいらっしゃって、斎藤・アレックス・鋼太さんという現地の日本企業の進出などを支援している方にシニアへのアンケートをご協力いただくことができました。現地のサイトで募集したところ、統計学的に意義のある100件以上の回答を得られました。
その結果、電子サービスを全部自分で扱えると回答した人が84%いました。それ以外の方は、家族などに手伝ってもらっているということでした。一番驚いたのは、デジタル化によって暮らしの幸福度(ウェルビーイング)が向上したかという問いに、93%の人がYESと答えたことです。顧客満足度93%の電子政府をつくったということは結構すごいことだと思います。
次に、電子サービスを何に使っているかという問いでは、1位はe-Banking、2位は確定申告、3位は本人確認、4位は選挙、5位は健康保険関係という結果になりました。そして私、その時にヘンドリックさんが言っていたこと、なぜ銀行が1番かということが初めて分かったのです。ユーザーの立場からすると、確定申告や選挙などは年1回程度やればいいのでそのためにコンピューターの勉強なんかしないけれど、銀行取引というのは私たちも結構使いますし、1年に1回とかではなくて月に2、3回は必ず確認しますよね。そういった事情が電子サービス普及、成功の鍵ではないかと思ったのです。
また、任意記述欄で日本の高齢者へのメッセージを聞いたところ、「一度試してみて、きっと好きになると思うわよ」や「心配する必要はない」、「学ぶのに遅すぎることはありません」とか「はやくやれよ(ジャストドゥイット)」というのもあって、でも、何で私たちは外国の人たちにこんなこと言われなければいけないでしょうか、とちょっと情けない気がしてきました。
■日本のIT化が後れた原因
日本がIT化に後れてしまっている理由についてはいくつかあると思うのですが、日本ではどうしても各界ともにリーダー格の人が他国に比べ高齢化していることが挙げられますね。
例えば学校ですと外国は38歳の校長先生がいるわけです。ですが、日本だと校長先生はしかるべくお年を召した方ばかり。その他には、IT社会というのは「冷たい」というイメージが払しょくできない、昔の成功体験とかいろいろあると思っています。
その遅れに対して、これからの取り組みとしてデジタル庁が設置され、「人にやさしいデジタル改革」ということを掲げています。ただし、私が見たところ現状は非常に厳しく、荒波に小舟で乗りだすような状況で、私も自分ができることで頑張ることで、バックアップしていきたいと思っています。
■理想的なデジタル社会とは
デジタル社会は「冷たい」と言われますが、決してそんなことはないです。デジタル社会は人にやさしい、デジタルは使い方によって、あなたの命も守ります。例えば、災害時の避難指示などにおいて、現在は、スマートフォンやガラケーには連絡が来ますが、昔ながらの固定電話には指示が来ない、つまり一番早く避難してほしい、固定電話しかもっていない人達に情報が届かないようになっています。
私が将来的に考えるデジタル社会においては、避難指示を出す際に「該当地域に住む・75歳以上の・独居シニア・建物の1階に住んでいる」といった情報が全部でてくることで、その人達に「〇〇さん、避難指示が出ていますがあなたはどうしますか」「私は避難所に行きます」というやり取りをすることができます。
その後も、具体的な避難経路や避難に必要な物資の情報を的確に案内したり、避難所でも高齢者が避難中ということが分かることで、市役所やボランティアの方も的確なサポートができるので、これまで人手をかけていた時より、より迅速によりきめ細かく寄り添うことができると思います。
ですから、決して冷たくない、もっともっと温かいサポートができると思っています。
それから、シニアのデジタルの活用として、老いてこそネットショッピングを活用すべきだと思っています。私も例えば、ほくほく系のやきいもが好きでネットで購入していますし、もっと高齢の人はガーゼの寝間着が欲しいとか、ハイシニアのニーズにも応えられるのはネットショッピングです。
また、理想的なデジタル社会というのは、電気や水道のようにデジタルというのが社会的なインフラにならないといけないと思います。例えば、テレビのように誰でも簡単に使える、そして、使えるものになっていること。ゆくゆくは、教室やサポートセンターが不要な世の中にならないといけないと思うのです。そういった社会的なインフラになるように、デジタル庁は“お助けマン”をつくることだけでなく、デジタルを水道や水のように使える、そういう世の中にしていくことが大事だと思います。
人生100年時代をどう生きるか
人生100年時代をどう生きるかということについて話したいと思います。キーワードは、「クリエイティブ(創造的)」に生きることです。これからは、ロボットができることはやってくれるため、自分たちはクリエイティブに生きる、それから生涯学習を続ける、そして新しい友達を作るということが大事だと思っています。
■創造的に生きる
創造的に生きるということでは、私は81歳の時に「ひなだん」というアプリを開発したんですが、そのことがApple社CEOのティム・クックさんとの出会いに繋がりました。きっかけとなったアプリですが、特徴としていわゆるゲームアプリの枠を超えている、つまり、本来ゲームが早さ等を競うものといった既存のコンセプトをぶち破ったということがあります。「ななくさ」の場合も、ゲームというよりは、日本の七草粥について知ってほしいという想いから制作しました。
そして、シリコンバレーに行ってクックさんとお会いした際は「高齢者は指が乾燥していて、スライドやスワイプが苦手だからタップしか使っていない」といったアプリに関する極めて具体的な話を熱心に聞いていただきました。最後はハグして、あなたは私を“stimulate(刺激)”してくれたと言ってくださいました。
このように、アプリにおいて「動く」とか「スピード」といった要素を無視したり、ひな壇という日本的なテーマを選んで、画像・効果音も和楽器の音を使い、ナレーションには優雅な言葉を使うといった、ゲームの固定概念を破ったという意味ではクリエイティブなことだったと思います。
■生涯、学習を続ける
そして、これからすごく大事なのは生涯、学習を続けよう、ということです。これからの世の中は、絶えず変化し進歩し続ける。ですから一生勉強しなきゃいけない。
今のこどもたちは100歳まで生きるとなると、ずっと勉強し続けなくちゃいけませんから、どうか子どもたちには、学ぶことの楽しさ素晴らしさを教えてあげてください。志望校に入れるかとか現時点の成績とか、そんなのはどうでもいいんです。人生100年時代ですからそれよりも勉強アレルギーにならないようにすることが一番大事だと思います。勉強嫌いにさせてしまうことが一番悪いことだと思います。
また、年を重ねていくということも憂鬱になる必要はありません。インターネットから得られる知識に、年齢を重ねる中で様々な体験を組み合わせて、それを消化して、発酵させて、熟成させて、そこから出てくるものが、叡智とか智慧とかいうものだと思います。叡智とか智慧というものこそが、コロナとかAIと共存するキーワードだと私は思います。
■フォルダ型人間からハッシュタグ型人間へ
人生100年時代を生きるうえで、友の輪・人の輪を広げるということも重要です。その点で、“フォルダー型人間”から“ハッシュタグ型人間”に変わらなければならないと思います。
例えばある人は、大企業株式会社の中規模都市支店の営業統括部の第一課というように、フォルダの中のサブフォルダの中のサブフォルダの中のサブフォルダ・・といった組織のフォルダー型の人間関係を築き、定年したらそれらがリセットされてしまう、ということがあります。
これからは、そういった繋がりだけではなくて、“ハッシュタグ型人間”ということで、例えば、アラビア語の看板ぐらいなら読める、ピザ作りが好きで窯を据えちゃったとか、書道の段を持っているとか、ひょっとこ踊りができる、というように何でもいいから豊富に趣味や特技、興味を広げ、“ハッシュタグ型人間”になりましょう。そうすることでたくさんの交友関係が増えていきます。同時に、自分も楽しいし、もしかすると将来の就活に結び付くかもしれない。また、年代の違った人たちとも対等に付き合って情報交換をしていきましょう。
■未来志向で未来を先取りする
そして、人生100年時代で大切なこととして、未来志向で常に未来を先取りしましょう。いつもやっとのことで未来に追いついて息を切らしているのではなくて、どんどん自分から「多分こうなるだろう」という風に未来を先取りしていくことが大事です。
未来を先取りするには、たくさん勉強したり、志の高い友達と語り合ったり、そういうところから叡智が生まれてきて、未来を想像していくのが良いかなと思います。
すごく偉そうなことを言って恥ずかしいのですが、私も勉強していろいろなことがわかるようになったのは、80歳を過ぎてからだと思うのですね。今は、四捨五入すると90歳になりますが、でも、ノーベル賞の先生も90歳であれだけ前向きに、元気にやってらっしゃる。まだまだ90代は伸び盛り。ですから、これからも大いに学んで成長していきたいと思います。
今後、私もまた成長してもっと色々なお話しができるようになったら、また改めて勉強会をさせていただければと思います。本日は私の拙い話を最後まで聞いていただきありがとうございました。