開催報告 ODS第3回研究会「自動運転技術による地方公共交通の課題解決 ~自動運転バスの定期運行実証事業を行う茨城県境町より~」
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる11月5日に茨城県境町にて第3回研究会「自動運転技術による地方公共交通の課題解決~自動運転バスの定期運行実証事業を行う茨城県境町より~」をオンライン併催講演会として開催しました。
地方における共通の課題として必ず挙がるのが、地域内の移動のための交通手段についてです。地方は交通弱者と呼ばれる方々が多く、その方たちの移動手段をどう確保していくかが大きな課題となっています。その解決手段は自治体によってまちまちですが、境町では自動運転バスを導入することでその解決を目指し、昨年の11月から定常運行させています。
研究会では、自動運転バス導入の背景と現況について境町役場地方創生課課長・川上透様より、また自動運転の技術部分についてBOLDLY株式会社執行役員・田口貴之様より、それぞれご講演いただきました。その内容をご紹介します。
「境町における自動運転バスを活用したまちづくりについて」
茨城県境町役場 企画部地方創生課 課長 川上 透 様
境町役場企画部地方創生課の川上と申します。予定では町長の橋本がお話しさせていただくことになっていましたが、私が代わりましてご説明差し上げたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。本日は、オンラインでご参加の半分ぐらいが自治体の皆さまのご出席とのことですので、冒頭で町の政策や施設の概要などをご説明した後、本題の自動運転バスの説明に入りたいと思います。
堺町は圏央道の境古河インターチェンジができたことにより、羽田空港や成田空港、そして都内にも1時間で行けるようになり、大変交通の便がよくなっています。そして、境町の取り組みにつきましては、約7年前に町長が就任以来、「財政再建」、「人口増加政策」、「ひとの創生」、この3つを軸に町政に励んでいるところです。
財政再建と資金確保
まず、境町町長が取り組んだのは財政再建です。町長就任以前の平成25年度の将来負担比率は184.1%と県内ワースト1位、実質公債費比率は16.2%で県内ワースト2位という非常に厳しい状況でした。そこで、境町は新たな財政改善・資金確保として、職員の給与削減など歳出を減らすのではなく、新たな収入を増やす施策を展開しました。
新しい財源として、ふるさと納税や企業版ふるさと納税の寄付金をはじめ、地方創生関連交付金のような国や県からの補助金、そして太陽光発電の売電収入などにより収入増につなげています。そして特筆すべきは新財源のふるさと納税です。平成27年度には8億円、平成30年度には60億円と、寄付額を伸ばしていきました。茨城では27年度から6年連続1位となっています。
このような取り組みにより、平成25年に比べ、借金である地方債残高については約20億4,000万円の削減。そして、貯金についても32.5億円の増加と、一連の財政再建の効果が現れてきました。
地方創生の取り組み
続きまして、境町における地方創生に向けた取り組みについてご説明したいと思います。
境町では、少子高齢化に歯止めをかけることを目的に、国より地方創生関連交付金を活用させていただいており、この5年間で30以上もの施設を建設しました。しかし、施設を何カ所も建てると維持管理にお金がかかり、将来の負担になるのではないかという疑問が生まれてくるかと思います。
この状況を打破するために、境町は独自の工夫で町負担を減らし、維持管理0円で公共施設維持を行う境町モデルを確立しました。施設運営を事業者に0円で委託する代わりに、光熱水費などの運営コストは事業者が負担することで、これまで町の負担であった維持管理費は0円となります。
また、補助金等を活用して町が建設したPR施設を兼ねたカフェは、事業者から毎年施設の利用料をもらい受けることで施設への投資を回収し、その後は町の収入とすることで、町の負担を減らすことなく稼げる仕組みを確立しました。
また、当町では、国立競技場を手掛けた隈研吾氏が設計した6つの建築物を中心とした境町と人をつなげる地方創生プロジェクトとしてS-projectを推進しています。観光客が隈研吾氏の施設を回遊して見て歩くようなネットワーク型のまちづくりを推進しており、それによって、商店街が再びにぎわって、さらなる活気を創出していけたらと考えています。
他にも、スポーツ施設を核としたまちづくりを推進しています。東京五輪のアルゼンチン代表や、日本女子ホッケーチームのさくらジャパンが合宿に使った「境町ホッケーフィールド」や「SAKAI-Tennis court 2020」、 BMXやスケートボード、インラインスケートの国際大会が開催できる「境町アーバンスポーツパーク」と町内に3つの施設があり、これらの管理を併せて委託することによって、特定の施設のマイナス部分を補っています。現在は、ホッケー場が人気となるなど、予想以上に活性化や経済効果につながっているのではないかと思います。
NAVYA ARMAを活用したまちづくり
それでは本題の自動運転バスを活用したまちづくりについてご説明したいと思います。境町では、NAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ)という自動運転バスを活用しております。導入の大きな背景として、境町には、「電車の駅」がありません。
そのため、町民が都内へ電車で行くときは、隣の古河市や、埼玉県の東武動物公園駅を使っています。駅がない、公共交通が弱い、高齢化率が上がっているということから、バスが必要でした。しかし、バスを運行するためにはベテラン運転手が求められますが免許取得者は少なく、バス運転手が増えることが期待できないという背景があり、自動運転バスが必要ということになりました。
そこで、ついに新たなチャレンジとして、全国で初めてNAVYA ARMAを3台導入し、5年間の運行を決定しました。予算は5年間で5.2億円。今年の実証実験の成果が認められ、令和3年度からは地方創生推進交付金で事業費の2分の1が交付されました。
導入の経緯を時系列で追っていきます。
きっかけは、橋本町長が2019年11月に、東北で自動運転のバスを走らせているというヤフーの記事を発見したことで、翌月12月26日にSBドライブ(現BOLDLY)の佐治社長との面談が実現しました。このとき、橋本町長から佐治社長に、「自動運転バスを本当に走らせることができるのか」と尋ねたところ、「3年間で100カ所以上の実証実験を重ねており、今すぐにでも定時運行できます」と即座に答えたそうです。そして、年が明けた2020年1月9日には臨時議会にて予算承認されるという、非常にスピード感のある決定となりました。
これが1月15日に行われた町民試乗会の様子です。乗ってもらっていろいろな意見を聞きました。
その後、2020年4月から運行開始の予定で準備を進めていましたが、2月中旬に新型コロナウイルスがまん延し始めたため延期を挟み、2020年11月26日から町内での定時運行開始となりました。これが2020年11月25日に行われた出発式の様子です。
第1ルートは始発のシンパシーホールから、終点の河岸の駅さかいを結ぶ往復5.2キロのコースでした。なぜこのルートが選ばれたかというと、町の旧商店街ということで、沿道に銀行、郵便局、病院、スーパーなど、主要な施設が存在すること、そして法定速度が30キロ制限であり、低速車中心であることが理由です。
これが公道の様子です。これを見て、研修に来た方は非常に驚くのですが、専用レーンもなく、どこにでもある普通の田舎の道路を走っております。このように、どこにでもある道路で自動運転バスが走行できるということは、他の地域でも走行できるということでもあります。
2020年11月16日には、梶山経済産業大臣に自動運転バスの走行に関する要望を提出しました。梶山経済産業大臣は茨城県出身の方で、当初、補助金の要望かと思っていたため、要望の内容に少し驚いたそうです。
2021年2月18日には新たにバス停を6個追加。バス停の設置にあたっては、地元住民に協力をいただき、快く敷地の一角を無料で貸していただきました。2021年2月22日、24日には、小学生の通学利用実証を行いました。実証の感想として、面白かった、乗り心地がよかったなどの声が聞かれました。
2021年4月7日には、境町の実証実験が安全に行われているという実績が認められ、規制の緩和に繋がりました。以前は、保安要員とオペレーターが2人乗車する必要がありましたが、規制緩和後は、保安要員が撤廃となり、オペレーター1人の乗車となっています。実は、全世界で200台ぐらいのARMAが走行しているなか、一番走行し、データを送っているのが境町といわれています。
2021年7月1日には、高速バス「境町-東京駅線」が運行を開始しました。8往復16便の運航となり、通勤や学校の1限目に間に合うような時間帯とも重なることから、非常に便利になりました。片道1,500円ですので、ぜひ境町にお越しになる方は利用していただければ幸いです。
2021年8月2日には第2ルートを運行開始しました。これは、道の駅さかいや、干し芋カフェなどの隈研吾氏の施設を結ぶルートの延伸、高速バスターミナルに繋がるルートです。バス停は8カ所追加し、要望の多かった土日の運行も開始しました。
自動運転バスの第2ルートにより、東京から来たお客さんを街中まで呼び込み、隈研吾氏施設巡りをして、帰りには道の駅さかいでお土産を買って帰っていただく、というようなこともできるようになりました。
自動運転バスの利用数は、10月29日時点での累積乗車人数は4,511人。累積走行便数は4,195便となっています。
境町と自動運転バスの未来像
これからの境町の未来像として、朝のスクールバス、買い物、病院も、自分で車を運転せずに行ける時代がそう遠くないと考えています。そのため、この自動運転バスの取り組みは境町のチャレンジであるとともに、日本の自動運転のチャレンジであると思っています。
また町民の皆さまには、自動運転バスに乗るというよりも、もっと気軽に「横に動くエレベーター」という感覚で、どんどん利用していただければと思います。そのため、運行ルートに関しても、町民ニーズに合わせて順次延伸していきますが、予定よりもかなり早いスピードでルートが延伸できているように感じております。
また、今後、MaaSアプリによるオンデマンド運行を開始したり、さらには、顔認証システムの導入や、カーシェアやシェアサイクルとの連動を検討しています。境町内の移動について、MaaSアプリで決済・予約・利用等が一括で可能になることで、既存の公共交通サービスをつなぎ、さらに拡張するといったことまでできるようになります。
今後も自動運転バスについては、特にご高齢の住民の方々や、町民のみならず町外から訪れる方々にも横に動くエレベーターとしてご活用いただき、5年後には誰もが生活の足に困らない町を目指していきたいと思っています。
私からの説明は以上です。長時間のご清聴ありがとうございました。
「自動運転の技術と境町での実用化の取り組みについて」
BOLDLY株式会社 執行役員 田口 貴之 様
BOLDLY(ボードリー)田口です。よろしくお願いいたします。
まず、BOLDLYは何者なのかというところを簡単にご説明させていただいてから、弊社の取り組みと、境町での自動運転の取り組みについてご説明したいと思っています。
BOLDLY概要
まず、弊社の名前ですが、もともとはSBドライブ、これはソフトバンク100パーセントの子会社で、今でもその立場は変わらないのですが、私たちのチャレンジ・挑戦をより明確にするために2020年に社名を変えました。太くくっきりとした交通網をつくる。また、大胆にチャレンジするという思いを込めてBOLDLYという社名に変更しています。
私たちのミッションは、単純に道路を太くしたり乗り物を大きくしたりということではなく、頻度を高くするということが、太くする、もしくはくっきりさせるということだと認識しています。高頻度な循環の交通をつくっていくということが私たちのミッションだと捉えています。
そういった中で、事業ドメインはどこなのかということですが、私たちは車そのものの開発は行っていません。自動運転車を使ったビジネスモデルの構築を行っています。右側はフリートマネジメントシステムといって、無人運転時代に、車の中に運転手がいなくなっても車内のお客さまの安全を見守るというシステムですが、こういったシステムを準備して提供していくことが、私たちのビジネスモデルだと考えています。
また、私たちの取り組み姿勢です。
左側は技術水準です。時間軸を横軸にして縦軸を技術水準とすると、時間が経てば経つほど必ずいいものが出てきます。また、価格も、台数が増えれば価格も下がりますから、いつかもっと安くなるかもしれません。ですが、私たちの取り組みスタンスは、何も待たずにあるもので実用化を目指すというところがポイントです。この技術は、こうすればもう少しよくなるかもしれないということには依存せずに、今あるものを今使えるところでやっていくという方針です。
次に、私たちの言う実用化は何かということですが、生活の役に立つこと、また、持続可能であること、この2つが実用化を定義する要素であると考えています。日本でいろいろな方にお話を聞いたのですが、実用化とは何かという定義を聞いても、正直明確なものがありませんでした。ですから、私たちが実用化にとって必要なものは何かと考えて、この2つを定義しています。繰り返しになりますが、現在の技術、法律、資金、環境、で可能なことに今すぐチャレンジしていくということが私たちの取り組み姿勢です。
これまでの歩み
境町に至るまでの過去のチャレンジをご紹介させていただければと思います。自動運転時代が来るということは、運転手、運転士がいない時代を想定しないといけませんので、さまざまな実験を繰り返してきました。
沖縄県での実証実験では、当時、東京大学のベンチャーである先進モビリティ株式会社様とたくさんの実証実験をやってきました。また、ANA様と組んで羽田空港敷地内で走行させる実験も行いました。
こちらが羽田空港で実施した実証時の運転席です。運転士はいません。レベル2の運転です。運転責任はシステムではなくて運転手にあります。
では、運転手はどこにいるかというと、離れたところに画面を見る運転士がいます。
ちょうど手元に大型車両の免許証が置いてあります。これは、何かあったときに責任を取りますという証で、ボタンで停止をさせる機能のあるマウスをしっかり握りしめていて、これがハンドルの代わりです。何かあったら止めます。このような実験を繰り返しながら、無人運転になったときに何が必要かということを検証してまいりました。
先ほどご紹介したフリートマネジメントシステムがどのようなものかというと、これは最初につくった頃の運行管理システムなので今は見た目が若干異なっておりますが、頭上のGPSから見てどこにいるのかを見ています。カメラは、車によって数が違いますけれども、6つ、8つと付いています。
これは車内の様子ですが、赤丸、黄色丸など、いろいろなバスのシチュエーションで、お客さまが移動するところを検知しています。
運転士は今まで、決して運転する仕事だけをやってきたのではなく、バスのお客さまの様子を見て、異常がないか、転んでないか、けがをしていないか、そういったことも見守っていました。自動運転になったとしても同じようなサービスが提供されるべきなので、このシステムを使って同じレベルで提供していくという発想です。発生したヒヤリ・ハット等のデータも蓄積し、運行の改善や新たな経路の設定などにも生かしていきます。
また、弊社の実績としては、以下の3つがあげられます。
・弊社が接続した自動運転車両の数は20種類あります。こちらは世界でもトップクラスだと自負しています。
・2020年自動運転バスの実証実験で使われた運行管理システムのうち、弊社のDispatcherが46%(弊社調べ)ということで、約半分近いシェアを占めています。
・さまざまな場所で、100回超の実証実験を繰り返してきており、自動運転バスに特化した実証実験としては国内最多と自負しています。
新しいチャレンジということで、公道を走るために非常に苦労したのですが、2019年7月に初めて公道に出たときは、いろいろなメディアに取材していただきました。様々な規制緩和にも挑戦していて、警察庁および関係省庁、国土交通省も含めて全面的な協力をいただいています。
初めて公道を走行した2019年7月以降もいろいろ試行錯誤して道路使用許可などをいただきましたが、他の事業者も同様の仕組みの中で自動運転の実証実験が行えるように、2019年9月には全国的な通達という形で出していただきました。また、信号機との連携を実現したり、羽田イノベーションシティでの定常運行、境町での定常運行にもつなげてきました。
今年、2021年に入っても、新しいチャレンジはどんどん続けています。
歩行者専用道路での走行許可も取得しました。通常、歩行者専用道路に車は入っては駄目ですが、自動運転車の使い方は歩行に置き換わるものという意味で、これまでの概念ではないところで警察庁から認めていただきました。既存の路線バス停は、今までのルールだと路線バス以外は止まってはいけなかったのですが、共用ができるようになりました。道路使用許可のプロセスも簡素化できたり、自動運転バス車内で、運転手とは別に必要だった保安要員に関しても省略できました。本当の意味での事業性が出てくる段階に来ています。
自動運転の技術
次に、自動運転技術についてのご説明をいたします。今メインの車種になっているNAVYA ARMAを中心に、一部、他車種の説明もさせていただければと思います。
まず、この車の特徴ですが、特に重要なのは、この車が自動運転を実現させている2つの機能です。1つ目はGPSです。単純にGPSと言っていますけれども、正確に言うとRTK-GNSSという通常の情報をさらに補正して、誤差数センチまで抑えたGPSです。
次にセンサーは、3次元の3D LiDARおよび2次元の2D LiDARとなります。2次元のLiDARというのは真横方面しか見ないので、この高さから水平方向に、真横にセンサーを感知して、物があるかどうかを検知します。この2つの組み合わせで、車の周囲を360度カバレッジしています。
今、説明した内容のうち、特に見る位置、センサーがカバーする範囲です。
右側のLiDARの図を見ていただくと、2D LiDARというのは、この高さの真横方面に、例えば犬や人などがいるかどうか。3D LiDARはもう少し先を見ていて、そこに車があるか、走行する予定のところに建物があるか、こういったものを見て走行しています。
実際、車のレベルアップも図っています。羽田イノベーションシティでは、従来は合流のために一時停止した後、運転手が安全を確認してから発車と(ボタンを)押していたところを、今は完全に自動にしています。システムが、車が来るかどうかの判断をして、車が行ってから走り出すというオペレーションになっています。
また、運行管理システムからこの車を止めるという機能も実装しています。先ほどから出てきているDispatcherという運行管理システムですが、この機能を実装することで、離れたところから車を安全に停車させたり、発車させたりすることができます。
羽田イノベーションシティにおいて夜間に実証として、完全に車内を無人にした状態で走らせることにもチャレンジしました。一応、各ポイントに人を立てて、万が一のときには緊急停止ボタンを外から押せるようにして走行させたのですが、もちろん何の問題もなく、決められたとおりに走りました。
事前にダイヤを設定し、何時何分に出発して何時何分に到着しなさいという指示をした場合も、そのとおりに走りました。
次は、信号との連携です。今、ARMAは、どうしても手動運転を入れなければいけないシーンが2つあります。一つは信号機で、もう一つは路上駐車です。路上駐車に関しては人が意識して車をなくせばいいのですが、信号機に関しては、どうしてもシステムとの連携が必要です。最近岐阜市で信号連動の実証を行いました。画像認識はせずに、信号機から直接通信で情報をクラウドに上げてもらって、それを車が読み込みに行って、前方の信号が何秒後に変わるのか読み込んだ上で、リンクさせて走行するというものです。
左折は自動で可能ですが、右折だけは危険ですので、青信号ならば停止線は超えて、右折のための待機位置まで進みます。その先は手動で人間が判断して発進させています。この理由として、頭に付いているLiDARセンサーは、大体前方80メートルぐらいしか見えないので、80メートル以上先から時速80キロで検知外からいきなり入ってきた場合は絶対に止まれませんので、ここは人間が右折のレーンに入って、安全かどうかを判断して発車ボタンを押しています。そのような限界はありますが、いずれにしても信号と連携すれば、ある程度のことは自動でできるというところまで来ています。
また、障害物回避ですが、障害物を避けられないので運転手が対応して止まるしかありませんが、既にそういった機能を開発しているメーカーはあります。私どもも適材適所というか、各環境でそれに合った対応ができるメーカーを発掘しつつ、今あるものをブラッシュアップしながら取り組んでいます。
また、違う制御方式を取っている実証実験も行っています。
こちらは道路に磁石を埋めているケースです。GPSが入りにくいところで、しかも狭路を高速で走る場合です。これは60キロで走っています。私たちの実証実験は大体20キロで走っていますから、万が一見失ってもそれほど危険な状態にはなりませんが、高速の場合は一瞬でも見失うと壁に当たってしまうので、より確実なセンシングが求められます。この磁石というのは、一つの選択肢としてあるかと思います。
境町での実用化の取り組み
では、いよいよ境町での実用化の取り組みについてお話しいたします。
小学生に通学で使ってもらうというプロジェクトもやりましたし、例えば高齢者が病院へ行く、河岸の駅へ行く、道の駅へ行ってそこからバスに乗るなど、いろいろな使い方をしていただいています。停留所も地元の方に提供していただき、全面的な協力を得て運用されています。
初めて乗る皆さんは車が珍しいので最初は「うわ-」となるのですが、5分もすれば話に夢中になります。今までは、移動するときには、運転しなければいけませんでしたが、もう運転は任せておけるので他のことに使うことができます。コミュニティーの活性化にも使えるということです。土日の運行をやっていますので、そこから子どもたちが使える頻度も上がってきて、子どもたちに人気の乗り物になっています。
ルートをどのように決めたのかという点は、主要なところを結んだことに加え、人流のデータに基づく定量的な評価もしています。
ソフトバンクのグループ会社に株式会社Agoopがあるのですが、この会社の携帯電話の移動情報からの人流データを可視化したものに、設定する路線バスのルートを重ね合わせて、本当に必要とされる移動を提供しているのかも検証しながらバス停の設置をしています。また、GPSの位置補正については、「ichimill」というソフトバンクのサービスを活用しています。
乗客の顔認証は、今、取り組んでいる最中です。乗るときと降りるときに顔認証することによって、どこで乗ってどこで降りたかがわかります。これは個人情報ですので、どこまでBOLDLYで扱えるか課題もありますが、本当の意味での人流と属性を分析することで、より必要とされる路線の検討や必要なサービスの開発に努めていきたいと考えています。
また、将来的な発展としては、AoTスマートポールという街の中に建てられた賢いポールから得られる情報を基に、例えば、境町は結構土地が低いのですが、洪水が起きたときに自動運転車に対して安全にルートを走らせるような取り組みも可能になってくると思っています。
LINEについても、今は開発中ですけれども、LINEで自動運転バスが呼べる町にしていきたいということで開発を進めています。
技術の発展も非常に重要ですが、一方で、運行事業者の協力も非常に重要です。
境町のオペレーションにおいては、株式会社セネック様という運行事業者に全面的な協力をいただいています。本社は新宿で、事業拠点は名古屋なのですが、その会社に境町に非常に立派な遠隔管理センターを設置していただいています。自動運転バスだけではなく、全国の車両管理をする遠隔管理センターを設置したので、固定費も自動運転だけにかかるのではなく、まんべんなく他の事業にも吸収できるということになっています。
こういったパートナーと一緒に黎明期に自動運転車の成功モデルを構築することによって、他の地域でも真に横展開できるものがつくり上げられると確信を持っています。一つ例をご紹介します。緊急時駆けつけサービス「ホワイト・マックス」というものです。事故などで自動運転バスの中に人が閉じ込められてしまった場合、救出するために渋滞に巻き込まれずいかに早く到着するかということで、オートバイを使って現地に駆けつける取り組みも、先ほどご紹介したセネック様に検証を行っていただいています。
ARMAが町に愛されているというのは既に何度も出てきたとおりですが、SNSでもいろいろな方が投稿して、盛り上げていただいています。
シビックプライドという言葉がいいかと思うのですが、町の方の誇りというか、このARMAの運行を中心に町が一つになっていくというところもあると感じています。またBOLDLYという社名や境町の町名が入ったパンをいただいたり、ARMAのデザインを模したケーキを焼いてるお店があったり、町をあげて盛り上げていただいていて、本当にありがたく思っています。
そしてARMAなどの自動運転車というのは、究極的に言えば横に動くエレベーターとなるべきだと思っています。自分たちで行き先を指定してGoというボタンを押せばよいようになれば、運転手も必要ないし、車掌のような人も要らなくなるので、本当の意味でエレベーターに近づけます。
また、この実装においてはいろいろなプロセスがあります。今回の境町においてもいろいろなプロセスがあります。計画立案から、調整、現地での準備、実証実験、実導入、アフターサポート、これは画一的に同じものをどこかに押し付けるのではなく、地域に合ったものをカスタマイズして提供していく必要があります。
そういった中で、BOLDLYがどのような役割を果たしてきたか簡単にご紹介します。
車両選定では、まず、メーカーとの交渉です。私どもはメーカーではないので、その地域に合った一番いいプロダクトを選択して、先ほどご紹介した運行管理システムを提供します。また、その車を走らせるために3次元の地図を作って指示を出すなど、走れる状態まで持っていくところは弊社のノウハウです。また、今まで自動運転に関わる人材はいませんでしたので、先ほどのセネック様には運行事業者として車の運行や遠隔監視もしていただいていますが、そういう遠隔監視員やオペレーターの育成、そして現場オペレーションの構築などを二人三脚でつくっていくことも非常に重要なピースだと認識しています。
課題
では、課題はどこにあるのかですが、1つ目は路上駐車と信号機です。ただし、その方策はあります。
例えば路上駐車に関しては、皆さまの倫理観や、自動運転バスを実現させようという思いの部分もあります。境町では、自動運転バスが走行するようになって、地元の方々の協力で路上駐車が減りました。
信号機に関しては、技術は確立していて、あとはどのようにこれを浸透させるか、規格化して全国展開していくかという方法論になりますので、ここは警察庁もしくは各都道府県の県警が関わることになるのかもしれません。画一的な規格というものは私たちが想定する限りは無理だと思いますので、それぞれの地域に適した車やその車に合った連携方式を適材適所でやっていくことが必要です。境町に関しては、技術や枠組みなどが決まれば、速やかに導入ができると認識しています。
2つ目は、車両。ODDの要件というところで、レベル4に向けた保安基準です。レベル3に向けた保安基準は既に明確ですが、レベル4はまだ発表されていないこともあり、そういったところをしっかり確認して、車として対応できているか、また走れる環境についても明確にしていきます。例えば、路上駐車がない道路だったら走れるというようなことを、環境を整備してつくったり、ルールを制定してつくったり、もしくは車自体が優秀になることによって路上駐車でも避けられるようになるかもしれません。こういったところは、車の技術の進歩と、周りの方の理解を踏まえバランスを取りながら進めていくことで、最短でのレベル4時代に向けた準備ができていくと思っています。
3つ目は事業モデルです。これは我々としても非常に重要なところです。事業モデルには2種類あると思います。
左側は都心のモデルです。これは、お金がある企業や、もしくは敷地の中を走らせる場合です。先ほどご紹介した羽田イノベーションシティの場合は必要経費です。共益費として入っているテナントの皆さまで出し合います。出し合うといっても家賃に含まれていて何か知らずに支払っているところもあるかもしれません。それで回収された費用を基に、お客さまに提供するための車が走っています。その結果として、お客さまが羽田イノベーションシティに来るようになりますので、その集客によって回収していくという考え方です。
右側は地方都市モデルです。例えば、境町などに関しては、当初は国の補助や自治体の予算によって賄われていました。ただし、これはずっとこのままではなく、やはりこれによって行動変容、例えば、今まで家から出られなかった人たちが外に出てきて消費が活性化され、そういったところから回収することによって、より持続可能なものになっていきます。
例えば、ここで路線バスのように100円や200円の運賃を回収したら、緑ナンバーの営業車となり運転手も二種免許が必要になるなどのいろいろな法律にがんじがらめになってしまいます。路線バスの運行モデルではなく、逆にそこは無償にして生まれた経済活動から何らかをもらう新たな仕組みが考えられます。例えば広告費や、成果報酬です。お客さまを連れて行って自動運転バスで来られたお客さまが消費したときには何パーセントかのキックバックをいただくなど、結果に基づく収益の分配を受けることによって、より持続可能な事業モデルになっていくのではないかと思います。ここに関してはまだ答えが出ていないところではありますが、こういった取り組みも進めながら、持続可能なモデルを構築していきたいと考えています。
境町ではこの自動運転バスは町民の利用を優先としていまして、学術・ビジネス目的での視察につきましては、事前予約制・有償での対応としています。自動運転バスの視察・研修についてはこちらをご覧ください。
境町観光協会の公式ホームページ|自動運転バス【NAVYA ARMA】