開催報告 ODS第4回研究会 講演①
「SDGs未来都市・横浜の実現を通じた、SDGsの達成に向けて」(神奈川県横浜市)
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は2022年1月20日に、第4回研究会「持続可能なまちづくりを目指すSDGs未来都市に選定された自治体の取り組み」をオンライン開催しました。本稿では講演①、横浜市温暖化対策統括本部SDGs未来都市推進課長 黒田美夕起 様のご講演内容についてご紹介いたします。
「SDGs未来都市・横浜の実現を通じた、SDGsの達成に向けて」
横浜市 温暖化対策統括本部SDGs未来都市推進課長 黒田美夕起 様
横浜市の概要とSDGsへの基本姿勢
横浜市の人口は378万人と、日本の市町村の中では一番多いのですが、面積はかなり狭いです。ニュージーランドとモンゴルのちょうど間ぐらいの人口ですが、面積だと比較にならないということで、世界的にも稀な高密度居住都市であることが一つの特徴です。世帯数・事業者数ともに海外の小さな国に匹敵するほどの数ではありますが、事業所の99%が中小企業で、これは日本の平均とほぼ同じです。
高齢化率も市全体で見れば24.6%と、日本の平均からは低いですが、町単位で見るといわゆる限界集落という表現が用いられるような、65歳以上の高齢化率が50%を超えるところも市の南部・西部を中心に点在しています。高齢化だけでなく、横浜はかなり急峻な地形で、地域の中にかなり坂が多く、あるいは交通面でも非常に課題が多いなど、高密度の割には色々な課題が多い都市といえます。
また、おそらく横浜のパブリックイメージは左側の写真だと思いますが、実は市街化調整区域が都市の割には多く、2割を超えています。右側の写真は、市の北部にある田園地帯なのですが、こういった風景も普通にあるのが横浜の一面です。また、市街化地域も約6割がいわゆる郊外住宅地といわれるところで、パブリックイメージで考える横浜とは異なる実相というのがそこここにあるということをご理解いただければと思います。
横浜市は、高齢化も世界的にも比類ないスピードで進んでいるなど、非常に多様な課題がある「課題先進都市」だと、私どもはよく申し上げています。そういう意味では、横浜市の特性を生かした様々な課題解決から、都市部だけではなく地方部でもご参考いただけるようなモデルが生み出せるのではないかと考えて取り組んでいます。
横浜市としては、市全体の政策を示す中期4か年計画の中でも、あらゆる政策においてSDGsも意識して取り組んでいます。来年度以降の計画についても、おそらくSDGsをより意識していく、より進化していくことになると思います。また、2018年に内閣府が公募されたSDGs未来都市に選定いただき、さらに深く進めているところです。
横浜市におけるSDGsに対する志(こころざし)として、環境課題を解決する起爆剤にしたいという思いがあります。折しもSDGsの採択はちょうどパリ協定の採択とほぼ時を一にしていたわけですが、横浜市は、気候変動はSDGs達成を左右する重要な要素であると考えています。2050年のカーボンニュートラルは2020年10月に日本全体の方針になりましたが、横浜はこれに先駆けて実は2018年にすでに同様の方針を掲げています。そういう意味では、SDGs未来都市として、この“Zero Carbon YOKOHAMA”を旗印に、脱炭素とSDGs達成に向けた環境・経済・社会的課題の統合的解決を大方針として、取り組みを進めています。
ヨコハマSDGsデザインセンター
続きまして私どものSDGs未来都市の取り組みの核になる「ヨコハマSDGsデザインセンター」をご紹介します。こちらは建物ということではなく、組織として機能しています。SDGs未来都市・横浜の実現を目指して自らもステークホルダーとして課題解決に取り組む中間支援組織です。
図の左上にある私ども横浜市と、右上にロゴを出させていただいている4事業者様との共同事業です。市民・事業者・金融機関・教育機関・地域活動団体といった多様な皆様がお持ちの、SDGsにどう取り組んだらいいのかというニーズと、既にご自身の技術・サービス・アイデアなどがSDGsの実現に役立つといったシーズを、デザインセンターが掴み、互いにお取り組みいただける方々をマッチングする、プロジェクトを作る、そのプロジェクトの成果を伝えていく、そういった活動を行っている組織です。
デザインセンターでは、専門のコーディネーターを介したご相談対応やマッチング支援などを進めております。先ほど私の背景に映っていたところがデザインセンターの活動拠点ですが、こちらで相談・コンサルティングの窓口を設けたり、今回のセミナーのようなイベントなども開催して情報発信する、あるいは学習機会の提供などを進めるということを行っております。
また、先ほど民間企業様との連携と申し上げましたが、横浜市は条例で「市民協働」という考え方を掲げています。この条例に基づき、市と民間事業者の方が対等な関係で協働契約を行う事業として進めています。センター長を筆頭にお名前の出ている専門家の方々が共同運営者として参画され、それぞれご専門を生かしたご相談対応などを進めていただいています。
このデザインセンターは会員制としており、現在のところ約1,050の会員がご登録されています。昨年度比で見ても2倍超といったところで、年々関心を持たれています。そういった方々から様々なご相談をいただいますが、内容としては、実はかなり企業からの相談も多くなっています。大企業から中小企業に至るまで、市内に限らず市外の企業から相談いただくことも増えています。
その内容も、「SDGsをどうやって理解してもらえばいいのか?」というようなところから、さらに「事業レベルでどうやって自社の技術やサービスを社会につなげていけばいいのか?」というお話、また最近は経営レベルで「中期経営計画などにどうSDGsを取り込んだらいいのか?」など、幅広くご相談いただいています。
本日は、この事業レベルでの連携、それから経営レベルのご支援ということで、話を進めていきます。
先ほどデザインセンターは、ニーズとシーズを繋いでプロジェクトを興していくという話をしました。これをパイロットプロジェクトとしており、現在約20の取り組みを進めていますが、本日はその中から3つほどご紹介します。
ヨコハマ・ウッドストロープロジェクト
一つ目は「ヨコハマ・ウッドストロープロジェクト」です。脱プラスチックが叫ばれるようになって久しいですが、その普及啓発の一つの核として木製のストローを普及させていき、脱炭素化とかプラスチック問題、それから森林環境保全などの意識啓発を進めていくというプロジェクトです。こちらのプロジェクトでは、SDGsの環境・経済・社会、この三方良しを具現化させていくという工夫をしています。
まず使用する木材ですが、横浜は約160年前の開港後、水道を引く水源として山梨県道志村の森林を市として買わせていただいたという歴史があり、こちらの水源林の保全にあたって行う間伐材を素材として使っています。木のストローにするには間伐材をスライスするわけですが、スライスした木を丸める加工については、市内で障がい者の方を雇用されている企業様にお願いをしています。このことで障がい者の方の雇用機会の確保なども進みます。
そのストローをホテルに卸して、ホテルがカクテルをサーブされる際にお使いいただいています。あるいはご覧いただいてる間伐材のネームプレートなどを合わせてご使用いただきます。国際会議などの機会にSDGsあるいはエシカルなおもてなしとして、新しいサービスとしてビジネスを興すなど、様々な観点からSDGsを具現化するプロジェクトとして進めていきたいと考え、普及を進めています。
ショートタイムテレワーク
次の事例は「ショートタイムテレワーク」です。横浜は郊外部を中心に人が住んでいるわけですが、その街に住み続けたいと思っていただけるような取り組みとして進めているものです。コロナ禍にあってテレワーク自体は急速に普及していますが、これは単純にフルタイムのテレワークを行うということではありません。
例えば育児・介護などによって長時間の勤務が難しい、あるいは長い通勤は難しいといった方に、このテレワーク環境・ICTを活用することによって、職住近接で短時間ながら非常に高度な業務を進めていただく。それによってCO2も減るでしょうし、あるいはいままで活躍が充分でなかった方の人材発掘ができたり、または企業においては人手不足の解消などもできる、そういったことを目指して進めているもので、こちらはソフトバンクとご一緒させていただいている取り組みです。
これまで2回実験をしているのですが、第2回実験の概要をご説明します。2年前の3月から約半年の取組みでした。ご参加いただいた企業は、向陽電機土木株式会社という市の中心部に近いところにある建設業の事業者です。業務を請け負っていただいたワーカーは3名。横浜市北部の青葉区に住まわれている子育て世代の女性にご参加いただきました。こういった方達が週2日勤務、だいたい1日あたり4時間勤務されていたわけですが、広報・積算・工事といった業務のうち、普段であれば正社員がやっている一部の業務、例えば資料の作成・データの入力等をワーカーさんにご担当いただいたというものです。
ちょうどコロナ禍でテレワークが段々進んできた時期でしたが、できるだけオフィスにいる環境と同じようにということで、Webカメラを常時つないでいつでも社員の方とコミュニケーションが取れるように工夫をしていただきました。実際にもしこの会社にワーカーさんが通うとすると、恐らく通勤に片道1時間強の時間を使う距離感でした。テレワークでも極めてリアルな環境で仕事を進めていただくことができたと考えています。
実験の結果として、企業・ワーカーそれぞれにアンケートを取りましたが、企業の方でも仕事の質・スピードともに満足ということで、ほかの作業に時間を割くことができたり、日頃出来ない業務をやっていただいたり、あるいは遠隔でもコミュニケーションが取れたりというような評価をいただきました。
また、ワーカーの皆様も働ける有難さや仕事への満足感ということで満足度が伸びています。全体にほぼ100%に近い形で満足をいただきましたが、ブランクがあったけれどもスキルが活かせ、やっぱり自分が必要とされていることを実感できたと伺っています。
オンデマンドバス実証実験
3つ目は「オンデマンドバス実証実験」です。旭区若葉台にある14,000人ほどが住む集合団地で取り組んでいます。団地の中はかなり広大でかつ山坂もあり、団地の中を巡回するバスはあるもののバス停まで行くこと自体が大変だということで、乗り場をより多く設定して、ご自身が行きたいところにダイレクトアクセスできるような環境を作っていこうというものです。
こちらが実施している実証実験の乗り場ですが、真ん中の赤い点線がある若葉台団地というエリアとその南北にある地域を結ぶような形で、乗降地点をそれぞれエリアの中で計94カ所ほど設けています。
オンデマンドバスの運行ですが、例えばあるお客さまがご自宅のマンションからお友達の家に行きたいというような予約をスマートフォンで取ります。また、別の方はご自身のご自宅から病院に行きたいというような予約をそれぞれ入力していただきます。一定程度予約が集まった後、それらの予約で申し込まれている目的地をすべて一筆書きでつなぐように、その都度運行ルートを設定して走らせていく、これがオンデマンドバスの運行管理の考え方です。
こちらが実験の光景の様子ですが、スマートフォンで予約し、予約した時間にその方が乗りたい94カ所の内のどこかに、このワゴン車が来るというものです。お子様の送迎などにもご利用いただいている方もいらっしゃいます。
これまで4回ほど実験を重ねており、第2回の際には乗降ポイントを増やしています。第3回では、乗降エリアの中でも例えば医療機関や学校といった明確な目的地などニーズがわかってきたので、そういったものを加えたり、あるいは高齢者の方が多い街ですので、車イスが乗せられるような車を使ってみたり、そんなふうにニーズを深く掘り下げながら実験を重ねてきました。
オンデマンドバスの良いところは、行きたいところにダイレクトアクセスできるということで、高齢者の方ですと、自分では買い物にちょっと行けないんだけども、買ってきていただいてそれを自宅まで届けていただくという使い方が期待されました。あるいは親御さんがついて行く形ではなく、お子様だけでも迎えに来てもらえるというようなサービスにも使えるのではないかということで、第4回はそういったものも加えています。これについては引き続き実証を進める予定で、間もなく第5回の実験も行ないたいと考えています。
地域特性にあった取り組み
ご紹介したような3つの取り組みの他にも、横浜市のさまざまな課題を持つ住宅地特性にあった取り組みをしていきたいということで、住民、街の開発に携わった事業者、その街に根付いた企業、大学などと連携し、様々なプロジェクトを地域の特性に合わせて展開しています。
その一例をご紹介します。市の最南西部の栄区に「上郷ネオポリス」という、大和ハウス工業が40年ほど前に開発した住宅地があります。こちらの価値を維持・向上していきたいと考える大和ハウス工業と、自分たちの街は自分たちで盛り上げていきたいという自治会の方々が意気投合し、デザインセンターも応援に入る形で取り組みを行っています。写真の左側は、ネオポリスの中心部となるバスの終点です。かつてここはただのターミナルのみでしたが、人が必ず集うようにコンビニエンスストアと街のサロンを同居させた拠点を作りました。こうしたところで人々のコミュニティ形成を支援しています。また、バス路線はありますが地域の中を歩くには遠いということで、写真右側の、いま国土交通省が普及を進めているグリーンスローモビリティを使った域内交通サービスを住民の手で運用していくといった試みも行っています。
横浜市SDGs認証制度
これまでは、SDGsのそれぞれの課題を統合的に解決するということを具現化するためのプロジェクトベースの取り組みをご紹介させていただきました。その一方で、特に事業者に対しては制度誘導のような取り組みをしています。それが横浜市SDGs認証制度“Y-SDGs”です。
こちらの目的は、SDGsに取り組む市内事業者にこの制度を活用いただくことで、持続可能な経営への転換、新たな顧客の獲得、あるいは取引先の拡大につなげていただこうというものです。また、最近ESG投資の潮流が大きくなる中で、投資家の皆様、それから金融機関において、ご判断の際の情報としても活用いただけます。内容としては、環境・社会・企業統治、地域(横浜市)への貢献の4つの視点から、30の項目について申請者ご自身の取り組みを自己チェックしていただき、さらに中小企業診断士によるヒアリングや有識者による外部評価という客観性・透明性を高めたプロセスで評価しています。
評価結果として、取り組み内容と進捗に応じて3段階での認証を2年間差し上げる形で進めています。
お取り組みいただくことによるメリットとしては、①②のように事業者のPRにこのY-SDGsをお使いいただけるほか、③デザインセンターのイベントやセミナーの優先参加などを行っています。また④横浜市の公共入札でも少し有利になるようなしくみ、あるいは⑤中小企業融資制度における評価加点、⑥企業の取り組みをさらにブラッシュアップするためのサポートなどを行っています。
こういった認証を取得するとそれがゴールだと思われがちですが、むしろこれはスタートと考えています。というのは、申請いただいた方に対して認証決定をお伝えする際に、右側の図にあるような診断結果をお返ししているのです。こちらは上位クラスの認証を取られた事業者の例ですが、どれだけ優れた取り組みをしていても、例えばこの事業者様の場合、地域の取り組みは比類なく高いのですが、それに比べて環境の取り組みは若干弱いことが分かります。そういった、これからもっと磨いていくべきポイントが明確になります。これをフィードバックさせていただくことで、「じゃあ、もう少し取り組みを伸ばすとしたらここだ」というところに気づいていただいて、それをさらに磨き上げていただきます。制度を運用して1年を過ぎましたが、この期間の中でも取り組みがより磨かれてランクアップした事業者も増えています。
また認証事業者の取り組みをしっかり支えていくことも、私どもの使命です。例えば認証を取得された企業を紹介する「取組紹介シート」を市のホームページに掲載しています。小さな企業ではなかなか広報までは手が回っていないこともあるので、ご好評をいただいています。また、先ほどランクアップという話もしましたが、より取り組みを高めていただくために、三井住友海上火災保険にご協力いただき、お取り組みが弱い項目に対してセミナーのような形でノウハウをご提供いただくといったメニューも提供しています。
認証事業者にフォローアップアンケートをしたところ、認証取得して社内外で変化したことについて、70%が「ある」と回答していただきました。その具体的な反響が下にありますが、例えば2番目で「社外よりSDGsに積極的に取り組んでいる企業として認知された」というところから、例えば4番目「B to BでそういったSDGsを踏まえた事業提案をしてくださいというビジネスチャンスが与えられた」など、良い反響をいただきました。ぜひこのY-SDGsを横浜市の事業者支援の柱にできるよう、引き続き取り組んでいきます。
そういった中で、事業者にとってのチャンスをさらに広げるべく、支援の多層化をしていくため、昨年7月に「Y-SDGs金融タスクフォース」を設立しました。いわゆる3メガバンクといわれるところから地域に根ざした金融機関まで9事業者にお入りいただき、Y-SDGsをさらに普及浸透させるためのプロモーションや、Y-SDGsを活用したサービスの企画などを行っています。
こうしたコミュニケーションを取りながら、市内事業者の皆様に、特に地方創生SDGsが目指す自律的好循環がさらに進んでいく環境整備を行い、横浜市として“Zero Carbon YOKOHAMA”の実現に結び付けていきたいと考えています。