開催報告 ODS第6回研究会 事例紹介②
「自立と循環で目指す、一流の田舎」(富山県南砺市)
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる5月13日に、第6回研究会「SDGsによる持続可能な地域の発展を考える~政府の考える地方創生SDGsとSDGs未来都市選定自治体の取組み事例~」を開催しました。この研究会では4名の方に講演をいただきました。
本稿では、事例紹介②としてご登壇いただきました富山県南砺市総合政策部エコビレッジ推進課 課長 亀田秀一様のご講演内容をご紹介します。
「自立と循環で目指す、一流の田舎」
富山県南砺市 総合政策部エコビレッジ推進課 課長 亀田 秀一 様
南砺市の説明に入る前に、今回のテーマ「自立と循環で目指す、一流の田舎」について説明させていただきます。
こちらは南砺市の目指す将来像を表したイラストですが、豊かな自然と子どもからお年寄りまでみんな笑顔で暮らしている様子が分かると思います。こういう地域資源を活かして、住民が助け合いの中でみんなが幸せに暮らせるということを将来像として描いて、まちづくりを進めています。
南砺市概要とSDGs未来都市
まず、南砺市の紹介をさせていただきます。
南砺市は富山県の南西部にある人口5万人足らずの市です。西側に石川県の金沢市と南側は岐阜県の高山市、東側は富山県の富山市という非常に優れたまちづくりを進めている自治体に囲まれていますが、本市は、山間部・里山あるいは水田が広がる平野部といった地勢でできている豊かな自然環境が市民の誇りになっています。
本市は、世界遺産である五箇山の合掌造り集落をはじめ、ユネスコ文化遺産、日本遺産、ユネスコ未来遺産、ユネスコエコパークといった豊かな風土の中で、多様な伝統文化や食文化が息づいており、大きな売りの一つとなっています。
また、五箇山和紙や井波彫刻といった伝統産業を、業者が支えながら持続していますが、こういった体験活動というのも最近興味を持っていただき、人気が出ています。
あとは、キャンプ需要がコロナになってから高まってきましたが、南砺市の自然に親しもうとお越しいただく方も徐々に増えてきており、南砺ファンが広がっているなと感じています。コロナの状況もありますが、ぜひ皆さんも南砺市にお越しいただきたいと思っています。
では次に、SDGsの取組みの対象となっている南砺市の地域コミュニティについてご紹介します。
南砺市は平成の大合併で誕生した都市です。旧4町4村が、現在は資料中央に四角で囲んである8地域で、その中に住民の日常生活の場となる353の自治会や町内会があり、住民のほぼ100%が所属しています。これらを中学校区の範囲でまとめた31の地区が、まちづくり・地域づくり・地域コミュニティの単位となっています。この31の地域は、深い山にあるところや水田に囲まれたところ、あるいは市街地と、それぞれがいろいろな地勢の中にあるため、抱えている課題や問題などは様々です。
次に直近の人口については、合併した16年前の人口と比較をしていますが、市全体では16年間で18%減となっています。特に資料中央の青色になっている旧利賀村は46%の減少で、半分になっています。この青色の3つは南砺市の平均以上に人口が減少した地域で、これらは川の最上流に位置する五箇山という山間地の地域です。川の最上流というのは資源の生まれる場所・源であり、こういう人口減少の中で今後も維持され続けるのかというのは私どもの大変大きな心配事になっています。
山や川は、飲み水のほかに、森の栄養が海に運ばれたり、エネルギーとして利用されたりするなど色々な機能がありますので、下流域に住む方々にも近々に迫った問題であると、関心を持っていただければと思っています。
南砺市は、2019年にSDGsの未来都市に選定していただきました。「エコビレッジ」構想のさらなる深化ということですが、エコビレッジについては後ほどご説明します。
本市では、先程の人口減少や少子高齢化など将来的な課題に対応する必要があることから、環境面では豊富な地域資源を最大限活用した循環型社会の形成、経済面では地域経済の「やりたいこと」が「できる」地域の実現、社会面では心豊かで安心して暮らす社会、人と出会い・深くつながるまちを実現しようという、これら3つを好循環につなげていきたいと考えています。
資料の一番上に赤い字で書いてありますが、この好循環によって南砺市らしい暮らしを楽しみ、目に見えない豊かさを実感できる「一流の田舎」を目指したいと考えています。
タイトルには「自立と循環」とありましたが、そういった視点でまちづくりを進めるなかで、大きな課題があります。
元々は市民と協働する、市民がしたいまちづくり進めようとしているのですが、地域コミュニティ自体が縦割りで自由度が乏しい体質である上に、やりたいけれど資金がない、人がいない、地域の将来に希望を持てないという住民の考えが、だんだん大きくなっているという状況があります。
そこで、そんな課題に対応するため、資料中央に3側面をつなぐ統合的取組みというものがあります。これが南砺市の特徴になっているのですが、特に小規模多機能や市民ファンドである南砺幸せ未来基金などが揃っていることが、南砺市の地域を自立可能にするための本丸と考え、私たちは取り組んでいます。
この資料は、本市SDGsの取組みを環境省が提唱されている地域循環共生圏の考え方で整理した図です。
上の赤い点線で囲んであるところが、基本的な考え方になっています。自立分散と相互連携、循環・共生に関して、様々な手段を用いて自立的好循環を実現して持続可能なまちにしたいというものです。この自立分散と相互連携、循環共生について、それぞれご説明させていただきます。
SDGs未来都市のベースとなった南砺市エコビレッジ構想
まず、循環共生を担うエコビレッジ構想についてご説明します。
本市のSDGsの取組みは、平成25年(2013年)3月に策定されたこの構想がベースになっています。現在これを深化させようと、セカンドステージとしてSDGsに取り組んでいるところです。このエコビレッジ構想は、「小さな循環による地域デザイン」を基本理念として、地域資源を活用した再生可能エネルギーの活用など、6つの基本方針によって、他に依存しすぎない自立した地域を作ろうと取り組んでいます。
なぜ、こういった構想を掲げているかについて簡単にご説明したいと思います。
先程申し上げた人口減少や少子高齢化のなかで、地域コミュニティや日常生活における将来の不安がだんだん大きくなっていると感じております。豪雨災害や土砂災害などに地域で対応できるのかといった不安、そして昨今のコロナの感染拡大など、私たちの暮らしははこれらの不安と隣り合わせとなっています。
こういう課題に対して南砺市としては、自然と共生し、人と人が支え合うことで、豊かさと幸せを実感できると考えました。ここでは「新しい暮らし方」としてまとめています。50代の私よりも年配の方にとっては、子どもの時からこんな生活が普通だと考えていらっしゃるのですが、私よりも若い世代にはこんな暮らしというのがよくわかりません。
したがって、南砺市では将来の世代へ「新しい暮らし方」という表現で伝えていくことが必要だと考えています。豊かな地域資源を地域内でしっかり活用し、経済とエネルギーを循環させ、他へ依存しすぎないことで充実した地域を作っていく、そんなエコビレッジ構想に取り組んでいるところです。
エコビレッジ構想のスタートとして、まずエネルギーを自分たちの資源で地産地消しましょうというところから始めて、その後は自然と共存する農業、あるいは地域課題をビジネス化するということに取り組んでいます。そして、自然や伝統文化と共にある南砺の暮らしを学び、共感を得るために学びの場を作ったり、小中学生と連携した将来世代の人材育成を行ったりしています。
ちなみにタイトルに「豊かな」と書いてありますが、実は南砺市の市民アンケートでは、南砺市が豊かでない・何もないと嘆く方が本当に多く、お子さんに域外への転居を勧める50代・60代の人がまだまだ多いのです。先ほど若い人向けに「新しい暮らし方」を伝えると言いましたが、エコビレッジ構想というのは、南砺市が豊かではないと考える年代の方々に考え方を改めてもらうことも目的になっています。
実は豊かな資源がある南砺市には無駄なものは何もない、可能性しかないんだという考え方に改めてもらおうと、これまでの8年間、市民向けの出前講座などで語りかけてきたところです。
エネルギー事業の取組み、具体的な例としては、木質バイオマスがあります。
本市の地域の8割を占める森林は急峻な斜面のため根曲がり材が多く、間伐材・主伐材の1割程度しか建築材になりません。2割はベニヤに使われ、残りの7割は現場で処理されます。現場で処理されるというのは、その場に倒されて腐っていくため、お金にはなりません。そのため、林業は縮小する一方で、ちょうど刈り頃を迎えた森林が、お金にならないとそのまま放置されています。森林の利活用や健全な森林の保全を進めなければならない必要性があったのです。
そこで南砺市では、適正な森林整備と、環境と経済の両立ということを考えて、バイオマスの利用促進事業を行っています。資料左側の緑色の丸が森林の循環、右側のオレンジ色が資産材の循環を示しています。
緑の循環については、上質材は建築材として、根曲がり材や建築材の端材はペレット燃料として活用するということで、まず資産材の市内での利用量を増やしながら、山林の主伐あるいは間伐を進めてもらいます。当然そうすれば新たに植林をしてバランスのとれた状態にしていき、健全な山の状態を保つことに繋がります。
オレンジ色の循環は、特に公共施設の熱利用を化石燃料からこうしたペレット燃料に変更することで、安定的な利用先となり、二酸化炭素の排出量を減らす、あるいは焼却灰は畑や田んぼに撒いて肥料として活用するという形で循環に取り組んでいます。
元々は、山林の健全な保全と資産材をエネルギーとして使う、ということだったのですが、二酸化炭素の排出抑制にも繋がる事業になっています。
次に相互連携という部分では、地域内の支えの仕組みである地域包括ケアに取り組んでいます。
地域包括ケアについては、全国的に普及しているため、説明は省略しますが、南砺市の特徴として、医療との連携が非常に強いということがあります。
統合された住民の方々との関わりに対し、医療側が積極的に関わることで、より専門的支援の厚みや幅ができるということです。平成20年度から地域住民に対し、医療マイスターの人材育成を続けたことで、人数が増えてきており、この医療マイスターが専門家の支援と地域をつなぐ役割を果たしていることも特徴の一つになっています。
この取組みが絵に描いた餅にならないよう、これを動かす仕組みとして、まず入り口に相談があります。資料内に赤い吹き出しで「断らない相談支援」とありますが、それがこの全世代型包括的支援の体制づくりのなかの断らない相談チーム、自称相談支援チームです。
住民の抱える心配ごとや不安をチームで対応することで、生まれた家や過ごしてきた地域を終の棲家にできるという体制が、公助や互助という仕組みのなかで整いつつあり、自立の事例となっています。
次は、自立分散のなかの「小規模多機能」自治と基金に関する取組みです。
本市のご紹介で申し上げたように住民のほぼ全員が市内の31の地域コミュニティに属していますので、そこの活動がそのまま住民の日常生活に直結しているという状態です。この地域コミュニティは昔から非常に行政依存度が高く、住民は行政の支援や補助を受けて行動することは当たり前という状況があります。
ただし、31の地区の事情はそれぞれバラバラですので、日常生活圏の課題も多種多様であり、対象が限定的だったり、迅速に対応する必要があったりということから、市民側も行政側も身近な地域コミュニティの課題解決力、地域の中で課題解決をする力を養うことが地域の幸せに繋がるという意見で一致しました。
従来、この地域コミュニティは行事やイベント中心の活動だったのですが、それを課題解決型で、自分たちが自分たちで地域のために活動するという、いわゆるまちづくりや地域づくりといった組織へ生まれ変わらせようというのが、この「小規模多機能」ということです。市民からの提言もあり、島根県の雲南市さんを参考に、「小規模多機能」自治の手法を取り入れた新たな住民自治へ舵を切ったということです。
これまでの地域コミュニティの組織は、縦割りになった組織で、新たな課題へ対応する柔軟性や人材が乏しい状態でした。そこで、縦割りの解消や男女の区別をなくす、幅広い世代に参加してもらうなど、自分たちが地域づくりの責任者であるという意識改革とともに、全31地区の自治組織の解体と「小規模多機能」の手法を使った新しい体制づくりに取り組みました。
行政は必要な人件費と使途が自由な交付金でこの動きを支え、住民は自分たちで課題を見つけて、対応方針を自分たちで決定して自分たちで実行する、いわゆる真の住民自治組織ということで、「地域づくり協議会」を令和2年に設立しました。2年がかりで全31地区に協議会が出来たということが南砺市の特徴でもあります。
これによって、先ほどの地域包括ケアシステムを地域で動かすという体制も整いましたし、地域で稼ぐという取組みもできる体制が整ったということで、自立に向けた良い事例になっていると思っています。
中間支援組織が支える自立循環
そして、ご紹介した新しい住民自治や地域の団体にとって、地域を自分たちの手で回していく、まちづくりを行っていくのに、「ノウハウも知識も資金もなければ、機能はうまく動かないのでは?」という心配が住民の方から提案されたため、行政と住民との共同で二つの中間支援組織を立ち上げています。
資料中央にオレンジ色で2つの丸がありますが、一般社団法人なんと未来支援センターという非資金的支援をする団体と、公益財団法人南砺幸せ未来基金という資金的支援をする団体があります。この2つが揃っている地域というのも稀だと感じていますが、それだけ課題も多いということだと思っています。
この2団体では、地域課題の洗い出し、解決策の検討やそのノウハウ、技術・資金調達の方法、コミュニティビジネスの起業やそのための学びや実践ということの支援、あるいは地域特有の課題解決に必要な資金提供とその成果を上げるための伴走支援ということまで行なっています。
特に公益財団法人南砺幸せ未来基金は、寄付金で運営してる団体です。ぜひこの地域を支える団体へ、皆様から温かい御志をいただけると助かります。
この南砺幸せ未来基金は、市内で課題解決に取り組む団体や事業者に対して、地域内外からの寄付金を元手に資金面で支援することで、住みよい社会の実現につなげていくことを目的に作られた市民ファンドです。滋賀県東近江の「三方よし基金」さんを先行事例として学びながら、支援を受けた市民や事業者の取組みがうまく成果に繋がるよう伴走支援を行うところが特徴になっています。
取組みの成果が上がると、その支援を受けた事業者が今度は支援をする側に回ることで、資金が循環し、人も循環する、人がつながり、自立循環に繋がるという取組みになっています。
もう1つの一般社団法人なんと未来支援センターでは、地域課題をビジネスとして解決する人材を育てようということで、富山大学さんや日本政策金融公庫さんと連携し、地域ビジネス創出に繋がる、なんと未来創造塾を開催しています。
これは和歌山県の田辺市さんを先行事例として、地域の課題を地域住民が学び、その解決策や解決に向けての事業計画を練って、実現するというものです。まだ始まったばかりで、実際に事業に繋がったのは数えるほどですが、非常に良い動きだと思っています。この事業化は、前の資料でご紹介した南砺幸せ未来基金の助成も使えるということで、資金調達の手段の一つとして使えることになっています。
ご紹介したエコビレッジ構想、地域包括ケア、小規模多機能、中間支援組織などが動き始めたことで、これらを活用して実際に地域課題の事業につなげる動きが出てきていますので、ここで3つご紹介させていただきます。
最初の「ジソウラボ」は、南砺市内の人口4,000人の地域で活動する若手グループです。このグループの特徴は「人が育つ地域が未来に残るまち」という考え方によって、地域にゆかりのあるメンバーが自分たちの資金とネットワーク、スキルを活用して地域の課題解決に取り組んでいます。例えば、地域になかったパン屋さんを募集して、それを起業に繋げるといった支援や、増え続けている空き家をうまく活用したり、売買したりといった支援を進めています。
次の「ガラパゴス」は、市民ファンドの資金援助を受けて活動しています。障害者が農業で収入を得る場を作ろうという活動に取り組んでおり、例えば耕作放棄地を活用した農業や、廃棄物となる選定枝、切った枝を活用するといった取組みをしています。
最後に、山間部の五箇山にある「平地域づくり協議会」は著しい人口減少のある地域ということで、子供や若手を中心に地域づくりを進めたいということを実践しています。これまではどうしても年長者、高齢者や世帯主が主体となってまちづくり・地域づくりを進めてきたわけですが、そこに高校生や女性が活躍できるような組織改編や誘い入れなどをして、住みたくなる地域づくりをやってもらうという取組みをしています。
次にご紹介させていただくのは、市内の若手事業者が中心となって昨年設立した地域エネルギー会社です。
小売電気事業の利益の一部を、先ほどの中間支援組織の活動資金に投資することを目的に立ち上げられました。本市は、ゼロカーボンシティを表明していますが、具体的な取り組みを進めるパートナーとなっていただけることも期待しています。
この取組みの特徴は、大手電力会社が出資あるいは連携しているところです。大手電力会社の他に市民、行政、ケーブルテレビ会社が共同出資をして立ち上げ、今年4月より小売電気事業者として営業を始めています。電気の市場が高騰しており、電気事業には非常に厳しい状況ですが、これを地域でしっかりと支えて、自前の電源の開発に早く繋がるようになればいいなと思います。
電気の小売事業からスタートして、その後地域産の電気を調達し、将来的には自前の電源を持って地域内のエネルギーマネジメントまでやるという、地域資源の地産地消、自立循環を体現するような事業だと考えています。
まとめとして、南砺市で令和2年度に策定した第2次総合計画では、地域循環共生圏あるいはSDGsの視点を中心に据えています。
資料右下の方に線を引いていますが、将来像には「自然や伝統文化といった世界に誇れる財産を活かし、市民一人ひとりが互いに認め、支え合いながら行動していく」ということを市民の皆さんと共有して書いています。そして「土地の豊かさや暮らしに感謝と誇りを持ち、互いに信頼する」という書き方をして、最後は「誰ひとり取り残さない地域社会である『一流の田舎』を目指す」ということをこの総合計画の中で書かせていただいています。
最後に、2030年までに目指す本市のまちの姿として、4つのまちの像を目指しています。
資料の左側にそれぞれ4つの目指すべき姿・目標があり、これらを実現するためにエコビレッジやSDGs、あるいは小規模多機能、地域包括ケアといった視点を入れながら、しっかりと取組みを進めていきたいと思います。
南砺市では総合計画の将来像の達成に向け、豊かな自然や伝統文化を継承しつつ、これまでの生業や新たなエネルギー産業などから資金や資源の循環といったことを進めていきます。そういったいろいろな分野を繋げながら、住民が幸せに感じるまちづくりを進めたいと思っています。
本日の研究会ご参加の皆様方とも、ご参画いただいたり、連携をさせていただいたりして、南砺市の暮らしを住民が誇れ、市外の方が憧れるようなまちになればいいなと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。