開催報告 ODS第3回情報共有会 総務省「自治体DX推進計画」最新動向
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(ODS)は、さる6月10日に会員限定の第3回情報共有会「総務省『自治体DX推進計画』最新動向」 と題してオンライン講演会を開催しました。
本稿では、総務省「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」の座長を務め、また「自治体DX推進手順書」の取りまとめにも携わられてきた武蔵大学社会学部メディア社会学科教授 庄司昌彦 先生のご講演内容をご紹介します。
「総務省自治体DX推進計画」最新動向
武蔵大学社会学部メディア社会学科 教授
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構 理事 庄司 昌彦 様
皆さま、こんにちは。武蔵大学の庄司と申します。本日は自治体DX推進計画の議論の状況などについてお話をしていきたいと思います。
まず、簡単に自己紹介をさせていただきます。武蔵大学社会学部で教員をしており、研究テーマとしては情報社会学や情報通信政策といった、技術の人間というよりは、社会がどう変わっていくのかという視点から社会を観察する立場です。政策研究としては、情報通信関連をかれこれ20年以上みてまいりました。
それから、デジタル庁関連、自治体DXに深く関わるところで言うと、「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキング」という、安倍政権の最後の頃から当時の菅官房長官の下で発足し菅政権時代を経て現在も続いている非常に重要な会議に、メンバーとして参加しています。
また、「自治体システム等標準化検討会」の座長として住民記録、地方税、選挙人名簿などに関わっているのと、「生活保護システム等標準化検討会」の座長、そして本日のメインになります「地方自治体のデジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」の座長などを務めております。
その他、東京都や複数の地方自治体のお手伝いもしております。
自治体DX推進計画の背景
まず、自治体DX推進計画の背景からお話をしていきたいと思います。
まず、こちらは私がよく使う資料なのですが、一連のデジタル改革・自治体DXが始まったきっかけ、そして、デジタル庁発足のきっかけとしては、新型コロナウイルスへの対応がうまくいかなかったこと、特にデジタル系でうまくいかなかったことがあげられます。「デジタル敗戦」と言われていますが、これは2020年に偶然うまくいかなかったという話ではなく、もっと根が深いということをお話ししておきたいと思います。
資料左上は、OECD諸国の中で日本の学校でのコンピュータ利用が最下位であるというグラフです。この2018年の調査では、様々な項目で日本が最下位を取っていて、こういった状況からGIGAスクールの話などが出てきました。
資料上段の中央は、同じく2018年に、サイバーセキュリティ大臣が「コンピュータを使ったことがない」と言っているものです。当時は「おじいちゃんだからしょうがない」などと、私たちは何となく受け入れてしまっていたわけですが、今、戦争をやっているような状況になって改めて考えると、世界第3位の経済大国のサイバーセキュリティ大臣がこれでは駄目だと思うわけです。
それから資料右上は、コロナ対応をしているお医者さんのツイートです。発生届を最初は手書きのFAXで送っていたわけですが、これをやめようと言ったことで、「HER-SYS」(新型コロナウイルス患者情報等患者把握・管理支援システム)などができました。
それから、資料左下は世界の国別競争力ランキングですが、日本が順位を右肩下がりで落としています。特に足を引っ張っている2つの項目は、政府の効率性とビジネスの効率性です。
「日経コンピュータ」は、デジタル敗戦から復興しようという特集を組んだり、「なぜデジタル政府は失敗し続けるのか」というタイトルの本を出しています。この本の中で“20年間の無駄”と書かれていますが、IT革命と言い始めてから早20年以上経つわけですが、その間あまりうまくいってこなかった、ということを掘り下げています。
また、過去20年うまくいかなかったという話だけでなく、2040年問題という話もあります。2040年というのは、団塊ジュニア世代が高齢者となることで、人口ピラミッドが逆三角形となり、非常にバランスの悪い頭でっかちな形になる時代で、非常に労働力が不足します。
この2040年に向け、総務省の「自治体戦略2040構想研究会」では、これは既に3~4年ほど前に終了した研究会ですが、当時「各自治体においては、公的部門と民間部門で少ない労働力を分かち合う必要がある」と、つまり、労働力が少ないので奪い合いになるということを述べていました。
また、公的部門にばかり人を取っていくわけにもいかないということで「従来の半分の職員でも自治体として、機能が発揮できるようにしていかなければいけない」といったことも言っていて、当時少しセンセーショナルに報じられていたようです。さすがに、これは少し刺激が強いということで、その後はあまり言われていないようですが、2040年は、18年後とけっこう近未来です。そこに向けて、半分とまでは行かないまでも、2~3割の人が減ってしまうという、人手が不足する時代を迎えるということになります。
そういう時代背景があるなかで、「共同化できるものは共同化しましょう」、「人でなくてもできる仕事は機械にやらせましょう」という標準化の議論が出てきました。
DXとよく言われていますが、私は銀行の窓口がすごく分かりやすいと思っています。昔は、銀行のサービスは窓口に、印鑑と通帳を持って行ってやってもらうものでした。しかも、開いている時間が短いので、「行こうと思ったら閉店していた」、「今日も行けなかった」といったことがよくあり、とても不便でした。
しかし、今はATMやパソコン・スマホでいつでもどこでもサービスを受けることができるようになっています。銀行側も、窓口をゼロにはせず、本当にサポートが必要な方や、あるいは込み入った話には、窓口対応もしてくれるので、利用者としては、非常に選択肢・自由度が広がった、という状況だと思います。
DXは何かを切り捨て、切り詰めていくのではなく、こうやって人にとって便利にすることで、サービスの満足度が高まり、そして中の人の負担が減っていくわけです。これが1つの理想的なモデルではないかと思います。
次に、自治体DX推進計画について、具体的に話したいと思います。
自治体DX推進計画は、2020年12月、当時の菅政権時代にできました。2021年1月から2026年3月までを対象期間として、いろいろなことを進めていこうと謳いました。
この自治体DX推進計画に連動して、業務改革を含めた標準化などの進め方について、「自治体DX推進手順書」というものをまとめていて、昨年、2021年7月に出来上がっています。
自治体DX推進計画の重点取組事項というのは6つありました。システムの標準化・共通化(現在の「統一標準化」)と、マイナンバーカードの普及促進、行政手続のオンライン化、AI・RPAの利用推進、テレワーク推進、セキュリティ対策の徹底です。
詳しくは次のスライドでご説明します。
まず、①標準化は、法律を2021年通常国会に提出し、成立となりました。また、自治体の取組支援のための基金ということをやっています。②マイナンバーカードの普及促進については、マイナポイントや、窓口を臨時に設けるための支援を、総務省さんなどが進めています。③手続のオンライン化では、マイナンバーカードの普及とタイミングを合わせて、「マイナポータルからできることを増やしましょう」ということを進めています。その他、④AI・RPA導入ガイドブックの作成なども行いました。
他には、⑤テレワークの推進、⑥セキュリティ対策の三層の対策の見直しということで、これはベータとかベータダッシュのモデルというものが新たに出てきています。
こういったことを重点取組事項として進めてきたのが、自治体DX推進計画ということになります。
現在、今年の夏に向けて改定中で、2020年12月にできてから、もう少しで2年弱経過するため、その後の文脈を踏まえる必要が出てきています。
当初、仮称Gov-CloudとなっていたGovernment Cloudの取り組みや、標準化なども進んできました。加えて、デジタル田園都市やデジタル臨調といった、新しいものもいろいろ出てきていますので、それらを踏まえた内容にするという改定が始まっているところです。
また、昨年出された「自治体DX推進手順書」について、ご説明したいと思います。
手順書というものは、4つの冊子からできています。1つ目が「全体手順書」と呼ばれるもので、体制づくりや機運醸成など全体的なことについて書かれています。それから、もう1つ全体的なこと、という意味では「参考事例集」があります。
資料中央の「システム標準化・共通化に係る手順書」と「手続オンライン化に係る手順書」の2つですが、特に標準化については、政府が自治体の皆さまに「必ず進めていただきたい」ということで法律で義務付けられており、そのための詳細な手順書を作ろうということをしています。
このように上の手順書と中央の2つの手順書は、少し性格の違うものですが、この中央の2つを私の周辺では、法定DXと呼んでいます。
自治体DXというのは、これまで昭和のやり方を何となく続けてきてしまったこととか、2040年に向けていろいろ見直していかないといけないといった事情を踏まえると、中央の2つだけをやればよいということではなく、標準化のシステムやマイナポータル経由で進めている手続き以外もデジタル化を進め、新しい現代のやり方で、なるべく人の負担を減らすようにしていかなければいけないということです。これを自主的DXと呼んでいますが、国がお願いしてやってくださいというものと、それ以外の自治体それぞれが自主的に必要なところをどんどん見直していくというもの、この2つのカテゴリーに分かれると思います。
こちらの資料は、5月に開催された自治体DX推進計画の見直しに向けた議論の初回(会議としては第10回)に示された、自治体DX推進計画の改定事項案です。
いろいろ書いていますが、デジタル原則、田園都市、臨調、規制の一括見直しといったものを踏まえるとか、デジタル人材不足ということがよく言われるなかで、具体的にどういう人が必要なんだろうかというのを整理して、参考として示すといったことがあります。
重点取組事項では、
・議論が進んでいる標準化・共通化について政省令などの趣旨の解説
・令和7年度末(2025年度末)までというゴールに対して、市町村の取組みが順調に進んでいるかという進捗管理について
・セキュリティポリシーガイドラインについて、マイナンバー利用事務系から外部接続先へのデータのアップロードを認める、という新しいモデルについて
といった内容を追記していくということになっています。
また、総務省が令和3年12月に作った「地域社会のデジタル化に係る参考事例集」というのが、参考事例集として情報量が多く、私も非常にいい資料だと思っており、今後さらにバージョンアップして追記するといったことも、予定されています。
それから、スケジュールについてですが、6月3日まで終わっています。
第1回目は、この後ご紹介する計画策定後の動きについての話、それからの第2回目では、人材について話をしました。
この後、デジタル原則を踏まえた規制関係や、マイナンバーからのアップロードなど、セキュリティ関係等々について議論し、計画改定案をまとめ、それをブラッシュアップして今年の夏に改訂版のDX推進計画を公表という予定になっています。
資料の緑の吹き出しで示していますが、自治体システムの標準化の基本方針や、このDX推進計画、それから他の標準化の仕様書など、様々なものがこの夏に出揃う予定になっています。必ずしも、一斉にというわけではなく、DX推進計画などは恐らく早いほうかと思いますが、7月の中下旬あたりから8月下旬ぐらいに向けて、様々な文書が出てくるのではないかと思います。
先ほど自主的DXという話をしましたが、まさに各自治体それぞれの現場で今やっていることをもっと良くできないかという目で、業務を良くしていく、デジタルの力を使ってもっと良くしていくということを、ぜひ考えていただきたいと思います。
となると、どのようなIT人材が必要かというと、プログラミングができるとか、ビッグデータの分析ができるとか、最近のメタバースに強いとか、ブロックチェーンについて詳しいとか、そういった能力は、あまり必要ではないんですね。
それよりも、今やっている目の前の業務の課題を発見して指摘できる、ということがとても大事だと思います。資料では、「目の前の現実に向き合い」と書いてありますが、例えば今セミナーを視聴されている皆さんの環境はどうか、隣の席の人がやっている仕事はどうか、周辺の仕事の仕方に過去の古い経緯を引きずっていないか、何か分からないままやらされているものがないか、あるいは将来に向けてやめておいた方がいい要素はないかといった、目の前の現実、従来の仕事の仕方を批判的に考えてみるということ、それを指摘できるということが、とても大事だと思います。
ちょうど日経BPの「日経コンピュータ」に以前掲載された私のインタビューが、今日あたりからネット上に公開されており、その中で「自治体DXは事例を参照するな」といったことを言っています。他の自治体の事例収集を始めると、あちらの事例、こちらの事例、こういうのもいいと、段々とつまみ食いになったり、面白いものをやりたがったりしてしまいがちなんですが、求められているのはそういうことではありません。
今までのIT施策、IT関係のプロジェクトは、どちらかというと「新しい技術を取り入れて、何か実証実験をやってみよう」と始めるんですが、本格的に業務に取り入れるのは反対する部署もあるからということで、結局は「実証実験としては成功した」といったことで終わってしまいがちでした。ですが、これからはそんなことをしている場合ではなくて、例えばもっと地味な技術でも構わないので、今やっているアナログな古いやり方を、将来に向けて直したほうがいいといったことに、きちんと向き合うことがとても大事です。
つまり、デジタル改革に必要なのはアナログの改革であるということです。必ずしも最新技術でなくてもよく、ポイントは古いものをやめていくということだと思います。問題点が分かれば、デジタルの力を十分に引き出して、新しい仕事の仕方を見つけていきましょうということになりますし、そういう視点を持った人が必ず必要になってくると思います。
自治体DX関連の政府の動き
また政府の動きを見ていきたいと思います。
自治体DX推進計画策定後の動きについて、自治体DX検討会に出てきた資料を使って見ていきたいと思います。
まず、こちらで令和2年(2020年)12月25日に、自治体DX推進計画ができました。
そして、デジタル改革関連法案がその後成立し、重点計画ができました。
翌年7月に推進手順書ができました。手順書の内容も先ほどお話ししたとおりです。
その後、標準化の法律が施行されています。デジタル庁も発足しました。
岸田政権になって、最近“デジ田”と言いますが、デジタル田園都市国家構想、それからデジタル臨調、臨時行政調査会が発足し、先ほどご紹介した参考事例集ができました。その後に重点計画ができています。
いろいろなものが矢継ぎ早に出てきていますが、この重点計画は何かと言うと、毎年、政府がつくってきた、世界最先端デジタル国家創造宣言、官民データ活用推進基本計画といった、いわゆるIT戦略と言われてきたものです。
これが旧の重点計画になり、新の重点計画になり、さらに、2022年6月7日に重点計画2022、正式名称「デジタル社会の実現に向けた重点計画」という形で出てきました。これが、いわゆるIT戦略に相当するものということになります。
昨年、2021年12月に岸田内閣になってから数カ月で、新重点計画というものをつくっているわけですが、これを出したときに、実は「デジタル・ガバメント実行計画」というものを廃止しています。
したがって、以降はデジタル・ガバメント関係、電子行政関係の国としてこう進めていくというものが、この重点計画に書かれているということになります。
こちらが6月7日に出た重点計画2022です。
1枚にまとめているため、少し分かりにくいですが行政に関するところは緑色の網を掛けています。これまで進めてきていた国の情報システムの刷新、地方情報システムの刷新、標準化というのはここに書かれています。
また、アーキテクチャの将来像整理ということで、トータルデザインと呼ばれる議論が進んでいます。これは直近の2027年に向けて、現在進めている取組みとも連動はしますが、どちらが優先かといえば、標準化や手続オンライン化がより優先かと思います。
ただ、その先の全体像が一体どうなるのかということについて議論が既に進んできており、早ければ2025年度末を待たずに、一部実装できる自治体から始まるのではないかと思いますが、それはやらなければいけない義務というよりは「早い方からどうぞ」ということになると思います。
その他、緊急時の行政サービスのデジタル化、マイナンバー制度の利活用推進、各種免許等のデジタル化といったものも含まれます。それからマイナンバーカード普及、公共フロントサービスのワンストップ化等々にも触れています。
そして臨調(デジタル臨時行政調査会)で、先日見直しプランが発表されていますが、これは、目視、対面、書面、常駐といった、どちらかというとアナログなものを法令から探し出して、デジタルに置き換えられないかを確認していくものになります。
先日、4,000条項ほどは、一気に進めることができそう、と発表されていました。
デジタル田園都市の方では、都市の様々なデータ、上のいろいろな国・府省サービス、準公共サービス、民間サービスのデータ、そして、下の政府系など、いろいろなデータをこのエリア・データ連携基盤を通じて、自由に使えるようにしていこうというものです。そのためのいろいろな“部品”、と言ったりしますが、デジタル庁主導でつくっていくという話です。
データで見る自治体DXの現状
データで見る自治体DXの現状ということで、こちらも自治体DX検討会の5月11日の会議資料です。
元データは、毎年総務省が全ての自治体に回答いただいている調査の結果ですが、以前は、地方自治情報管理概要などと呼ばれたものが、「自治体DX・情報化推進概要」として、公表されています。
DX推進のための全体方針の策定、全庁的・横断的な推進体制の構築について、聞いています。
まず、全体方針の策定では、都道府県は策定済みが61.7%(29団体)、令和3年度中が29.8%(14団体)、4年度以降が4.3%(2団体)とあります。市区町村の方が、都道府県より遅れていますが、令和4年度以降を含め策定を予定している割合が約55%となっています。
それから全庁的・横断的な推進体制については、都道府県では87・2%、市区町村では27.6%が構築しているということになります。データはやや古くなってきているので、現在はもう少し進んでいるかと思います。
DX推進専任部署の設置状況ですが、市区町村だと25.2%、都道府県だと89.4%です。
専任部署の単位は、市区町村はそれぞれの規模が全く違うため、一概に言えませんが、課室か係が多いようです。
CIO・CIO補佐官についてですが、都道府県では、外部より内部人材が多く、CIOは知事か副知事か部局長級が多いです。補佐官については60%と比較的外部人材が使われているようです。
市区町村になると、やはり都道府県と大きく違いがあります。一目で分かるのはCIOに外部人材がほとんどいないということ。また補佐官についても同様に8.4%とまだまだ少ないということです。
こちらが回答の実数で、参考資料です。
自治体におけるCIO補佐官は増えてはいますが、市区町村でも団体数が1,740のうち、101なので、まだまだというところです。総務省は、「経費について措置を講じているがこのような状況だ」と言及しています。
こちらは、検討状況になりますが、市区町村の238の自治体が外部デジタル人材を探そうと思っているという結果です。課題として、「役割やスキルを整理・明確にすることができない」というのが一番多くあがっており、それで今回の手順書では、この役割やスキルについて、整理をしようということになっています。
自治体で活躍する外部デジタル人材の声としては、「担当課の方が原課への橋渡しになってくれている」、「自治体にやる気がない場合は、1人呼んできてもあまりうまく回らない」といった意見が出ています。
自治体側からは「外部人材が孤立しないようにするのが大事だ」、「自治体側の目的意識がないと逆に市町村側も負担になる」、あるいは、「その方1人に活躍いただくだけではなく、育成に関わっていただくことも大事なんじゃないか」といったことが言われています。
それから、職員の育成ということになると、何らかの取組みを実施している市区町村は、61.4%ということになります。
ただ、単に住民とのインターフェースにおけるやりとりだけではなく、職員の皆さんのお仕事の仕方について、もっと負荷を下げて、自由度を高め、本当に人でなければできない仕事や人の能力を必要とする仕事に集中していただくと考えると、DXは全ての部署に関わる事柄ですので、この比率はもう少し増えたほうがいいと思います。
次が、AIの導入状況ですが、増えているというのは報告されている通りです。
RPAの導入についても増えているという状況です。
ただ、もはやAI・RPAの導入状況については、単に「導入していますか」に対して「イエス」、「ノー」を聞くだけではいけないと思っています。前述のとおり、あらゆる部署でもっといいやり方がないかを検討して、試行錯誤をしていく中で、AI・RPAが必要に応じてあちこちで導入されていくという状態になっていくことが重要です。
そういう意味では、導入自治体がこれだけあるということだけでなく、もっと先に行かなければいけないということだと思います。
テレワークの推進についてですが、令和3年10月1日のデータによると、市区町村では849団体(49.3%)と、前年同時期の19.9%よりは大幅に増加したものの、半分の団体が未導入となっています。
テレワークは、全団体がやらないといけないと思っていて、「地方だから要らない」とか、そういうことではなく、全団体がやれるようにする必要があると考えます。
今回のコロナも含めて、災害が起きたとき、いざというときにテレワークができる状況にしておかないと、やはり行政が回らないということになります。
すぐに、全ての業務が庁舎から離れられるようになるというのは、かなり高い目標、難しい目標だと思いますが、なるべく多くの業務、例えば緊急時に庁舎にいなくてもできるようにしていく、というような体制づくりは、すごく大事なことだと思います。
そう考えると、まだ半分の自治体しかやっていないということですと、この数字で大丈夫かなと思います。
未導入の理由についても、一番多いのが「窓口業務や相談業務などがテレワークになじまない」ということで、これはよく理解はできますが、これについても先ほどの銀行の窓口の話と共通するのですが、自分で手続きができる窓口に行く必要のない人にまで、窓口に来させていないかという視点が必要かと思います。自分でできる人には、極力遠隔でやっていただくという取組みをした上で窓口が残っているなら分かりますが、はじめから窓口はテレワークになじまないと決めつけていませんかということです。
相談業務についても、テレワークでも相談ができるように、例えばオンラインでも相談をできるようにしておいたほうが、相談業務の本来の目的を達成できるのでないかと思います。
その他の未導入の理由として「セキュリティ確保に不安」、「現場業務はテレワークになじまない」、「個人情報やマイナンバーを取り扱う業務は実施できない」、「導入コストがかかる」といった理由があげられていますね。もちろん、マイナンバー系は、非常に理由として大きなものだと思いますが、そこを本当に突き詰めて、オンライン化を検討しているかというと、そうではないのではないかと思います。また、総務省のいろいろな支援策についても下の方に書かれています。
事例から考える自治体DX
次は、事例から考える自治体DXということで、先程「あまり事例を参照するな」といったこともお伝えしましたが、参照をする場合、ということでご紹介していきたいと思います。
「事例に踊らされてはいけない」とありますが、事例に学ぶこと自体は悪くないと思います。単に真似をして、「できませんでした」ではなく、事例から学んでいこうということは大事なことだと思います。例えばということで、個人的に私がよく見ている事例を、いくつかご紹介したいと思います。
事例の中で、最近話題のものが、この北見市の「書かない窓口・ワンストップ窓口」です。これは、いろいろな部署を回らなくても、市民の方が来る一つの窓口で全ての手続きがワンストップでできるというものです。
職員が本人確認を実施の上、来庁者から必要な証明書などを聞き取りながらシステムを利用して作成支援をするもので、来庁者は申請書に署名をするだけでよく、手続きが簡略化したということです。職員が一緒に書類をつくるので、間違いが生じにくく、窓口に不完全な書類を持って行って「ここは駄目です」、「もう1回やり直してください」といったことを言われることがなく、非常に手続きがスムーズになったという事例です。
これを実現するためには、窓口のところで一括していろいろな申請ができるような、裏側の連携が必要となります。
共通DBというところにデータが整理されていて、その上で、窓口新システムというのがあります。「漏れない」、「書かない」、「回されない」ということで、大臣が見に行くほどの先進事例として、非常に参照されている仕組みとなります。
それから個人的にあげるなら、東京都の保健所の業務デジタル化もよい事例だと思います。
進捗管理ツールやチャットボットを導入したり、ショートメッセージでプッシュ通知をしたり、音声テキストマイニングをしたりと、一つ一つはそれほどすごいものではありません。
ですが、プロセス全体を見て、それぞれに適切にツールを入れて、効率化や患者支援のてこ入れをしているという点がいいと思います。
こういった全体を見てプロセスを再設計していくというのが、まさに自治体DXで求められるところです。
これは個人的に好きな事例で、最近あちこちで紹介しているものですが、北海道音更町のオンライン手続き体験というものです。
資料の上段は、今年の2月に「広報おとふけ」というものに掲載されたものらしいのですが、「町では、自宅などからオンラインで各種の手続きができるよう取組みを進めています。一方で、スマートフォンやタブレットを所有していても、自分にはまだまだハードルが高いと感じている人も多いと思います。そこで、実際の手続きではない模擬受付画面を用意しました。何度でもチャレンジできますので、うまくできなくても問題ありません。皆さんがお持ちのスマートフォンのカメラで次の二次元バーコードを読み取り、フォームに項目を入力するなど、オンライン手続きを体験することができます。ぜひ気軽に体験してみてください」とあります。
「何度でもチャレンジできますので、うまくできなくても問題ありません」や「気軽に体験してみてください」など、すごく表現が優しいですよね。
資料の下段でも、「ここで入力した情報が、役場に届きます。全ての項目を入力しなくても送信できるようになっています。皆さんの体験用です。何度でも自由に送信してみてください」と記載されていて、とても人に優しいなと感じます。また、言葉の使い方も本当に利用者に配慮していると思います。
一般的なオンライン申請画面は、まだまだデジタル関係の言葉が難しいというのもありますし、そもそも行政の言葉が難しいというのもあると思うんです。そういう部分も含めて、本当に使う人が分かるように優しくしているかということが、すごく大事なことかなと思います。
自治体システム標準化とは
続いて、自治体システム標準化についてです。
こちらは総務省の資料ですが、総務省においては住民記録・印鑑登録・戸籍附票システム、税務システム、選挙システムといったものに取り組んでいます。
ここで注目したいのが、財政支援についてです。J-LISに基金を設けてやっていますという部分ですが、今、1,825億円になっているそうですが、1,700自治体が二重システムに移行する場合、もっと必要ではないかと個人的に思っています。
また、進捗把握や情報提供ですが、これが今後具体化していくと思います。先ほど申し上げたように、やはり、どこかで遅れが出ていたりすると、そこをサポートしていく必要があると思いますので、情報提供・進捗管理をして、問い合わせに答えて、というような機能をつくっていくとされています。
マイナンバーが始まるときもそういう動きがあったということで、それに近いのかなと思います。
標準化で目指す世界としては、標準仕様に基づくシステムを利用して、全国規模のクラウドサービスをX社やY社などに提供してもらい、A市さん、C市さんがX社、B市さん、D町さん、E村さんがY社と、それをカスタマイズせず使うということです。
そうなると、標準仕様、機能要件、帳票が同じといったことになりますので、データなどを持ってベンダーさんを乗り換えることがしやすくなる。いわゆる、ロックインされにくくなる、ということを目指しています。
標準化によって、期待される効果としては、特に大きいのが制度改正時のシステム改修の手間や費用を大幅削減できる、ということだと思います。
これまで、制度改正があると、使用しているシステムのどこを直すのかということでいろいろ大変だったかと思いますが、今後、SaaSのクラウド上の生活保護システムなどを提供しているベンダーさん側で改修・改正対応をしてくれるようになるので、自治体側ではほとんど気にしなくていい状態になります。その部分の手間や費用について、かなりの負担削減に繋がるのはでないかと期待しています。
こちらは、仕様書についてですが、実装すべき機能、実装しない機能、実装してもしなくて良い機能の3つに分けて整理をしています。
基本的に標準化対象の事務においては、「カスタマイズしないで使ってください」ということになっています。カスタマイズはしないのですが、標準と言われている中に、使っても使わなくてもいい標準オプション機能が入っています。
また、パラメータというものがあって、ここである程度調整ができて、自治体それぞれの違いが反映できたりします。また、標準化の対象外とされている事務については、もちろん標準システムはないので、外部システムを用意して、APIで連携する、といったことはあり得ます。
スケジュールについては、先ほどお話ししたとおり、この夏に全ての仕様書が出そろうという状況です。
基本方針については、もともとは令和3年度(2021年度)中に出てくるはずでしたが、「自治体の現場が非常に困っている、大変だ」といった声が届いたことから、デジタル庁、あるいはデジタル大臣、副大臣などから「丁寧に進めましょう」ということになったそうです。
本来であれば、2022年の2月、3月あたりに発表される予定でしたが、その時期に、デジタル庁は自治体やベンダーへ多くのヒアリングを丁寧に実施し、それを踏まえてこの基本方針の0.8版をつくり、さらに意見照会をして、策定はこの夏に延期したということです。
ただ、自治体の皆さまのところには、この0.8版が届いているかと思いますので、既にご覧になっているかと思います。
また、中核市市長会や、指定都市市長会、一部の自治体の協議会から、「情報が足りない」、「お金が足りない」、「期限がきつい」といった、いろいろな指摘が出ているということが、デジタル庁に届いているかなと感じています。
あとは、具体的に、デジタル庁がどう対応するか、という段階かと思います。
マイナンバーカード普及を考える
マイナンバーカードについて、最後に1つだけお話ししたいと思います。
マイナンバーカードの普及状況を見ると、けっこう差が付いています。一番多いのは、宮崎県で約56.4%ですが、沖縄では34.8%と、20ポイント以上の差が付いており、これについては、対策や原因を分析したほうがいいと思います。
それから、資料右側の性別・年齢別のデータが非常に興味深く、59歳までの普及率は、男性より女性のほうが高いです。こういったIT、デジタル関係の調査で、女性の方が普及率が高いというのは珍しいことではないかと思いますが、なぜかそうなっています。
もう一点は、10代のところと、30代から40代にかけてのあたりをみると、少しだけくぼんでいる部分があり、普及率が下がっているのがわかります。10代や40代は、リテラシーが高い層になりますが、ここがくぼんでいるのは、恐らくマイナンバーカードの受け取りに行きにくいということが原因ではないかと思います。これはわが家の実体験も踏まえてそうだろうと推測していますので、そういったことを踏まえた原因分析や対策というのが必要になってくるのではないでしょうか。
そうでないと、今年度末までにマイナンバーカードの交付率100%を達成するのは難しいですし、もうポイント付与などで反応する人はとりきってしまっているでしょうから、よりきめ細かい対策というのが今後必要になってくると思います。
私からのお話はここまでとなります。どうもありがとうございました。