コラム

連載|日本版MaaSを実装せよ。(2)~東京都インタビュー~

前回、日本版MaaSの実装のカギを握るのは自治体ではないかという提起から、今回は2019年度に3件のMaaS実証プロジェクトに取り組んだ東京都 戦略政策情報推進本部 戦略事業部 特区・戦略事業推進課 池田課長に、東京都の戦略とMaaS実装を推進するキーについてお話を伺った。

―BBA主催「日本にMaaSを実装する研究会」では、米津部長にご登壇いただきありがとうございました。東京都では、「Society5.0」実現の1つとして、MaaSを社会課題の解決策として位置付けているとのこと。まずは、東京都のMaaS戦略について、詳しいところを教えてください

池田課長 都では、東京版Society5.0の実現に向けた戦略分野の1つとしてMaaSを位置付けています。Society5.0分野横断のサービス実装を目指すものですが、確実に実行していくために、都の戦略では2つの視点からのアプローチをとっています。1つは、都心部・ベイエリア等の複数のエリアにおいて社会実装を進めていく「点」での戦略。そして、もう一つは、MaaS・ウエルネス・エネルギー等といった分野別で社会実装を進める戦略です。MaaSは他分野より先行して今年度から実証を始めています。MaaS分野の政策目標としては、2030年には「異分野・都市のリアルタイムデータとの連携を実現」、「無人自動運転や空飛ぶクルマ等といった最先端モビリティの活用」を設定しています。

また、MaaSには欠かせないデータ連携の観点では、2020年以降「官民連携データプラットフォーム」の構築を考えています。これはオープンデータや民間所有のデータを繋げて付加価値を出そうという構想です。事業運営組織を立ち上げ、民間のビジネス感覚を取り入れつつ、官の推進力を生かすようにバランスを取りながら進めていくつもりですが、現在は制度設計に向けて検討中という段階です。

 

『未来の東京』戦略ビジョン」より抜粋

※詳しくは東京都の「『未来の東京』戦略ビジョン」を参照(p179 ~)

―それでは次に現在の取り組みについてお伺いしたいのですが、今年度に対応された実証プロジェクトについて、手ごたえはいかがでしょう。

池田課長 今年度は3件、総予算額8,000万円規模にて、いずれも5社以上が参画したコンソーシアム型の実証プロジェクトが実現しました。例えば実証エリアの1つである竹芝は、来年度に街開きを控えており、一般社団法人の竹芝エリアマネジメントや東急不動産も参画し、まさしく社会実装に近い形で実行されたと思います。また、立川駅周辺エリアは、JR東日本と小田急グループの立川バスのリアルタイム運行データをやり取りするという実証を行っていまして、「データ連携」という観点では大きな一歩です。臨海副都心エリアでは、デマンド型シャトルやりんかい線、シェアサイクルなどを含めたマルチモーダルルート検索等を提供し、お台場等でのお客様の回遊性の向上に取り組みました。これまで課題だった回遊性向上のためのデータ分析に資する人流データが取得でき、今後の活用にも期待ができます。MaaS分野は、現在民間独自の実証も盛んに行われているところですが、今回のような公共が後押しする取り組みでは、複数企業の連携で広域のプロジェクトが行える強みがあるかと思います。

 

2019年度 竹芝エリアでの取り組み事例

―今回の実証で見えてきた課題は?

池田課長 やはりワンマイルモビリティのビジネス化が課題です。現時点では、地域特性に応じたMaaSの実証を推進していますが、最終的に社会実装には事業性も必要です。例えば、竹芝エリアの実証では、今回、モビリティサービスの料金を無料にしていました。これが有料になった時にはたして同じように利用してもらえるのかという点は、まだ検証していません。

区市町村や交通系事業者と、現地で抱える課題や問題点について意見交換をしていますが、やはりビジネス化できるかというと、そこには課題があります。これに対して我々は様々な打ち手を考えていかなければなりません。これは国交省でも同じ問題意識を持っています。今後、相乗りタクシーの解禁や自家用有償旅客運送の見直しなどが控えています。MaaSを後押しする国の制度を都が率先して活用することが大切です。将来的には無人自動運転導入なども想定できますし、そうなった時に、どんなマネタイズの在り方があるのか。料金収入のほか、再開発エリアの企業が拠出するのか、人口増を期待する観点から沿線の交通系事業者が拠出するのか、エリアマネジメントの団体・協議会か…など。

―来年度の東京都におけるMaaS実装の取り組みはどうなるのでしょうか?

池田課長 2020年度は、交通サービスと商業・観光等の周辺サービス等との連携を拡充したプロジェクト支援事業を考えています。データ連携の取り組みもまだ不足していますし、実装に向けてもっと内容を充実していかなければなりません。これから都議会の審議がありますが、現時点の予算案では1.5億円を予定しています。

 

東京都は、2020年度さらにMaaSの社会実装を推進

―なるほど、2020年度はより本格的に分野を超えたサービス連携の取組が進められていくわけですね。これまでのお話の中でも、MaaS実装における自治体のリーダーシップの必要性を感じますね。是非その立場としてお答えいただきたいのですが、自治体のMaaSを実装していくためのキーを教えてください。

池田課長 まずキーパーソンを抑えることです。具体的にいえば、MaaSに積極的に取り組むJR東日本や小田急などの交通事業者や、MONETやナビタイムなどのサービス提供事業者に、いかにして都内で実施してもらうか。そのためには、都としてもバックアップすることが大切です。また、MaaSは事業者間の連携が必須ですが、時には民間同士だけの取組では難しい局面もあると思います。今年度、国交省もMaaSのガイドラインを作成する予定ですが、そういった動きと連携し、我々が協調領域をどう切り出していくかがポイントとなるかと思います。

―最後に、BBAの会員は通信事業をはじめ、幅広いICT関連企業を中心としていますが、MaaSに関心が高い企業もいます。是非、そういった企業に向けてメッセージをお願いします。

池田課長 東京都では、MaaSの社会実装に取り組んでいるところであり、東京都にコミットしていただける民間企業と積極的に意見交換していきたいと思っています。MaaSやSociety5.0など新しい取り組みを進めるにあたり、意見交換から新しい着想を得ることで今後の事業に生かせることもありますので、是非幅広に意見交換をお願いしたいと思います。

―池田課長、ご協力いただきどうもありがとうございました。


異業種の事業者が多く参加するMaaS事業ではあるが、成功に導くためには同業者がお互いの競争領域を超え、協調しあいながら地域全体を盛り上げていく必要がある。その中で、地域のために自治体ができることは明白だ。今回のご協力いただいた、池田課長のお話から浮かび上がったのは、MaaSという未知の領域にも果敢に向き合う首都東京の姿だった。2020年は4年に1度のビッグイベントも控えているとはいえ、自治体のやるべきことが変わるわけではない。遠いその先を見据えた「スマート東京」の実現に期待したい。

――本連載では、「MaaSを日本に実装するための研究会」をふりかえり、日本版MaaSの実装に迫る。
――連載第3回では、引き続き自治体のMaaSの取組を紹介する。