コラム

連載|日本版MaaSを実装せよ。(3)~いわき市グリスロ事例~

MaaSの実装に挑む自治体に迫る連載「日本版MaaSを実装せよ。」。第3回は、BBA主催「MaaSを日本に実装するための研究会」にも登壇いただいた、いわき市に訪問した。


いわき市といえば、「スパリゾートハワイアンズ」を最初に思い浮かべる方もいらっしゃるようだが、今回訪れた地域は「小名浜アクアマリンパーク」。2011年の東日本大震災で被害を受けた地域だが、今や復興のシンボルであり観光スポットにもなっている。取材時、小名浜エリアでは、次世代交通システムの実証事業として、グリーンスローモビリティ(以下、「グリスロ」)を活用したオンデマンド型バスが運行していた。今回はその試乗の様子や、いわき市役所 総合政策部 創生推進課 の鈴木主査にMaaSの導入に関しお話しを伺うことができたので、今回はそのレポートをお届けする。

臨海の遊歩道から見えるアクアマリンふくしま(水族館)

■ いわき市のニーズに合わせたスマートな交通の実現へ

今回乗車した小名浜地区の「グリスロ」は、「IoT技術等を活用したグリーンスローモビリティの効果的導入実証事業」という環境省の実証事業の採択を受け、2019年11月26日から運行を開始している。小名浜港を中心に、平日は生活地域と商業エリアをつなぐ足としてオンデマンド運行し、土日祝日は、観光客を主として港周辺を巡回運行する、ニーズに合わせたフレキシブルな運用をしている。筆者が訪れたのは、平日だったのでオンデマンド運行を体験することができた。(令和元年度は2020年3月8日までで運行終了。)

「グリーンスローモビリティを活用した次世代交通システム実証」はこちらを参照
(いわき市WEBページ)

■ かわいらしい黄色いグリーンスローモビリティにいざ乗車!

今回乗車するバスは「オンデマンド型」なので、早速バスを呼び出した。QRコードにスマートフォン(以下、「スマホ」)をかざしてWEB画面を呼び出し、行先や人数など必要事項を入力し待つ。ちなみに、今バスがどこにいるか、マップ上で見ることができる。このシステムはMONET Technologies社(以下、「MONET社」)の提供だ。この事業の立役者であるいわき市役所の鈴木主査によれば、高齢者も今はスマホを利用する方が増えており、最初こそわからなかった方も、現在は予約をスムーズに行えるそう。そして10分もしないうちにバスが到着。9人乗りの黄色い小さな車体がかわいらしい。

乗車ポイントに到着したグリスロ

運転手は、地元タクシー会社「いわきタクシーグループ」の方だそうだ。休日の家族利用で賑わうこともあり、子どもも楽しめるようにとなんと運転手の方が手作りで内装を施したという。このバスは最高速度20km/hという低速だけあって、近距離の移動を得意としており、特に景色を楽しみたい観光者にはぴったりだ。乗車人数も多くないので、運転手の方も気軽に街を紹介してくれる。まるでバスとタクシーの中間のような乗りごこちだ。

 

運転手の方(写真左)。社内はハワイ風の飾り付け。子供にも受けがいいという。

 

魚介市場「いわき・ら・ら・ミュウ」の前を通ると、店員の方々がいつも手を振ってくれるそう。つい応えてしまう我々。

■いわき市がMaaSに寄せる思いとは ~いわき市インタビュー~

かわいいグリスロに別れを告げ、いわき市役所の鈴木主査にMaaSの実際をお伺いした。

いわき市役所 鈴木主査

―いわき市は、その地域固有の社会課題の解決を求めてMaaSに注目しているということですが、詳しいところをお聞かせください。

鈴木主査 いわき市の交通課題の現状ですが、そもそも高齢化に加え、東日本大震災以降ドライバーの流出によって、バス路線の廃止や減便等が発生しています。人口減少で公共交通機関の利用者が減り、結果運行本数も減って利便性の低下を招く、という悪循環が懸念されています。さらに、いわき市は14市町村が合併してできた土地で、1,232km2と広域であり、いわゆる「多核分散型都市構造」のため、それぞれの地域で固有の社会課題を抱えています。下図地方都市は交通インフラが限られるため、いわき市ではその限られたインフラを有効活用し、様々なサービスや観光資源をモビリティで繋げる方策として、次世代交通システムの構築に力を入れています。MaaSの実装によって、自家用車の稼働を抑制し高齢ドライバーによる事故の減少や渋滞軽減を実現する、また地域の活性化や観光交流人口の拡大などの効果を期待できるなど、地域課題に沿った解決ができると考えています。

いわき市資料|いわき市の抱える課題

―先ほど乗車した小名浜地区はどういう特徴をもったエリアなのでしょう?

鈴木主査 小名浜地区は、観光地域でもありながら、約2Km圏内で生活が完結できるエリアです。この地域は高齢化率が約30%なのですが、今回乗降ポイントを設置した中には40%を超えている所もあります。

―なるほど、自家用車ではないが小回りの利く交通が求められている地域ですね。住民にも観光者にも対応できる今回の施策は、地域に適しているようにお見受けしますが、実際手ごたえはどうでしょうか。

鈴木主査 実証は2019年11月26日から開始していますが、開始から現時点で、延べ1,500人を超える利用になるなど当初の想定を上回っています。特に手ごたえがあると感じているのは平日のオンデマンド運行の利用です。開始から1か月程度経った12月末では1日あたりの平均利用者数が6.8人でしたが、2月には11人を上回るほど伸びており、地域の高齢者を中心に利用が定着してきました。利用者アンケートでは「自家用車を使わなくても買い物ができて便利」、「外出する機会が増えた」など好意的な声が寄せられています。また、この近距離交通はバスやタクシーの需要を奪うわけではなく、自家用車からの利用転換など、新たな公共交通利用者の掘り起こしにつながっていることがわかりました。(注:休日の利用者数は、約50人/日とのこと。)

―地域の高齢者の方にも受け入れられているのですね、周知は大変だったのではないですか?

鈴木主査 いわきタクシーグループでチラシの配布や個別訪問などにも対応いただきました。グリスロの運転手自身でも、空いている時間帯には広報活動していただいています。なお、利用者が増えた要因としては、もちろんPR活動だけではなく、「小名浜まちづくり市民会議」を中心に、地域住民や事業者の声をもとに、乗降ポイントの位置をどうするかなど利用者視点で運行計画を作成したことや、MONET社を中心に、かなり柔軟にシステム設計・開発を進めていただいたこと、また市としては事業全体の計画調整を、利用者目線に立ちスピード感をもって対応できました。官民共創で各々が役割を明確に分担し確実に推進できたことがよい結果を生んだといえます。

そこはMaaSを実装するためのキーといえますね。地域の代表を中心に、官民が同じ方向性をもって、それぞれの役割を分担し果たす、そこで手ごたえを感じられているということですね。その一方で、課題はあったのでしょうか。

鈴木主査  やはりスマホ利用者でない、電話で予約したいという高齢者の方がいるため、乗車予約の選択肢を増やす必要があると思いました。また、ビジネス化に向けては、運賃収入で賄えない点についてどうしていくかが課題です。将来的には、車内サイネージでの広告収入や、モビリティ×サービス、例えば自治体業務の派出や、医療・ヘルスケアの提供という形で価値提供するなどは考えられることかと思います。

―MaaSの実装に向けた今後の取組を教えてください。

いわき市のグリーンスローモビリティ実証概要

鈴木主査 今年度の小名浜地区の実証は、2ヶ年度の事業であり、来年は中心市街地(平地区)や住宅団地(いわきニュータウン)と異なる地域での実証を予定しています。平地区では、鉄道との発着タイミングとどう合わせるかなど、今回とはまた異なる課題を抱えるエリアで実証を進めていき、課題分析や移動需要の把握につなげていきたいと考えています。(右図)既存交通の利便性を高めるとともに、新たな交通インフラの導入なども進めながら、住民や来訪者の移動時の選択肢を増やし、そこにシステムを活用することで、地域特性や需要に応じたMaaSを構築していきたいと考えています。

■BBAの会合を通して、市を超えた視野へ

―いわき市役所にはBBAの研究会にご参加いただいたのですが、会合通じて何かご提供できたものはありましたでしょうか?

鈴木主査 研究会の参加を通じて、他自治体の方からお声がけいただく機会も増え、自治体同士の情報共有ができ、共通の課題などがわかってきました。MaaSは成功事例がまだ少なく、特にビジネスモデルについては共通の課題です。それぞれがよい事例を展開し、いいところは伝えていく、そういった意見交換できる機会は助かります。

―それでは最後に、BBAの会員や研究会に参加いただいた方々へメッセージをお願いします。

鈴木主査 MaaSをはじめとする次世代交通システムの構築に向けた取組を推進するためには、様々な企業や団体との連携が重要と考えていることから、MaaSを日本に実装するための研究会に参画されている皆様との意見交換の場を、今後も設けていただきたいと思います。本市のような地方都市は、共通する課題を多く抱えていることから、本市がモデルとなってMaaSの実装に向けた取組を進め、横展開することで地域の活性化や地方創生推進につなげていければと思っています。

―鈴木主査、ありがとうございました。


いわき市でのこの実証事業は、予想を上回る乗車数となったそうだが、このグリスロの特性をふまえ現地での生活モデルやニーズにあうよう平日や休日のオンデマンドバスの運行形態を変えたり、地域住民の声を反映し「乗降ポイント」を調整するなどの調整が功を奏した。今回の成果について鈴木主査は、官民共創で各々が役割を明確に分担し推進できたと言うが、その中で地域課題を解決するために自治体が担う役割は大きいだろう。来年度は、高齢化が進んだ郊外部エリアでの地域での実証も含まれており、成果が期待される。

――次回最終回では、本研究会座長をつとめていただいた石田東生氏のインタビューを通じ、日本版MaaS実装への道筋をお伺いする。