コラム

連載|日本版MaaSを実装せよ。(最終回)~MaaSの実装へ向けて~

「連載|日本版MaaSを実装せよ。」最終回の今回は、「MaaSを日本に実装するための研究会」座長である   石田東生氏(筑波大学名誉教授・特命教授)のインタビューをお届けし、日本版MaaSの実装への道筋へ迫る。なお、本研究会では2020年3月中に報告書を取りまとめ、提言を出す予定だ。

―この度は、本研究会座長をおつとめいただきありがとうございました。1年近くで5回の開催となりましたが、振り返っていかがでしたでしょうか。

登壇する石田座長

石田座長 本研究会では、リアリティのある課題が出てきました。これらの課題をシャープにとらえ、今後も課題を打開していってほしいと思っています。特にMaaS のデータ連携に係るマネタイズ、またアプリの乱立は特に気になる課題です。海外ではアプリを「ローミング」するという考えがありますが、そういった発想を取り入れるなどをしていく必要があるでしょう。

―日本版MaaSの実装では、地域における課題解決を目指して事業者をまとめる調整力が必要とされることから、これまでこの連載では自治体に焦点を当て取材してきました。自治体の役割について、石田座長のお考えをお聞かせ下さい。

石田座長 自治体がカギを握るというのはその通りでしょう。国土交通省による日本版MaaSは5型に分類されますが、そのうちの都市型は需要が高い。高級住宅地等ならブランド維持などの観点から鉄道系が中心となって推進が期待できます。観光型も顧客需要が高いので同様です。しかしながら、会合でも課題とされたように、地方郊外型などのモデルは儲かるとは限らない。バスは1970年あたりが全盛期ですが、その時点から現在までに利用者は6割も減っています。制度やビジネスモデルが変わっていなければ、ひずみが起きるのは当然です。その観点では、観光型・大都市型ではないモデルにもチャレンジしている「いわき市」の実証実験(※前回記事参照)の結果には期待しています。

また今後、MaaSへの取組を契機として、モビリティ分野は制度含めた全体的な視野での見直しが必要です。例えば、現在の公共交通を維持するためのリソースを総合的に見直し経済最適化をすれば、新サービスを含めた新しいモビリティの創造が期待できる、そういったことも考えられるでしょう。

スウェーデンのチャルマース大学の研究チームによって提唱されたMaaSのレベル
出典:Jana Sochor他(2017)topological approach to Mobility as a Service

―座長からみて、現在の日本の取組状況をどう評価されていますか、また展望についてお聞かせください。

石田座長 スウェーデンの研究チームが提唱したMaaSの定義において、日本はまだレベル0~1程度だと言われていますが、このレベル概念には空間性が含まれていません。いきなり東京圏全体は無理ですが、小さな地域や地区を想定すると、私は日本版MaaSについて悲観的になる必要はないと思っています。先の日本版MaaSの5分類でいえば、都市型・観光型は成果が期待できますし、郊外型については今まさに公的セクターを中心とした実証段階にあります。ここが頑張りどころでしょう。

今の段階で悲観する必要はないのですね。では、日本が実証段階の域を出て、実装に至るための道筋とは?

石田座長 MaaS実装への課題は様々ありますが、要因の一つとしてはファンダメンタルな問題はあります。また、先ほどからお話ししている郊外型では、減少傾向にある地域のモビリティ資源をどうするかも課題です。そのような地域にある一番のリソースは自家用車ですから、例えば「シェアサービス」の存在もMaaS実装には必要になってくるかもしれません。そうなるとシステムが拡大するため、コストやリスクも増えるでしょう。MaaSのレベルを進めるにおいて、グランドデザインをどう描くのか、そこに至る手順をどうするか、そういった点が重要になってきます。

今、日本は「ストラテジー」を練ることを中心にしていますが、「タクティクス」・「マネジメント」・「ロジスティクス」といった知見・課題を関係者に共有していき、全体整合性をとりながら「街づくり」をしていく、そのステージに今後はシフトしていかなければなりません。

―では最後に、BBA会員をはじめとしたICT関係事業者へメッセージを是非お願いします。

石田座長 MaaSの実装には、交通事業者、公的セクター、ICT関係事業者といった異業種同士の相互理解が不可欠です。是非ICT関係事業者にも同じ目線で対話をお願いしたい。関係者皆が相互理解を深め、MaaSが推進されることを期待しています。

―石田座長、ありがとうございました。


「クリステンセン曰く『イノベーションは困っている者のところにおきる』のでしょう。」

これは取材中、石田座長からいただいたコメントだ。MaaS実装は「街づくり」であるから、自治体がキーになるのはもっともなこと。そして、課題を持つ自治体にこそ、日本版MaaSの実装というイノベーションが起きる可能性があるということだ。勿論研究会でも議論があったように課題は多く、実装への道のりは険しい。だが、「まだ悲観的になる必要はない」。現在、多くの実証実験が各地で実施されており、今後その知見が集約され、関係者に共有されていくだろう。筆者は自治体によるMaaSの破壊的イノベーションを期待したい。

「MaaSを日本に実装するための研究会」では、2020年3月中にこれまでの議論を報告書としてまとめ、政策提言を予定している。