開催レポート

開催報告 ODS第10回研究会
「PPP/PFI推進アクションプランの考え方と公共施設再生・管理の実際 ~持続可能な地域づくりに資するPFI活用のあり方~」

一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(Organization of SDGs Digital Society、略称:ODS)は11月2日に、第10回研究会「PPP/PFI推進アクションプランの考え方と公共施設再生・管理の実際 ~持続可能な地域づくりに資するPFI活用のあり方~」を東京ポートシティ竹芝オフィスタワーで開催しました。「PPP」(パブリック・プライベート・パートナーシップ)とは、官民が連携して公共サービスの提供を行うスキームです。その代表的な手法の1つとして、民間の資金、経営能力、技術的能力を活用し、効率的・効果的に公共施設などの建設や維持管理、運営を行う「PFI」(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)があります。これらPPP/PFIの導入により、国や地方公共団体の事業コスト削減や、より質の高い公共サービスの提供が期待されています。

「公共の施設とサービスにおける『官民連携』の拡大」
内閣府 民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)
四反田 直之 様

 

本研究会では、まず内閣府の民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)から四反田直之氏が登壇し、「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年改定版)」の概要を、「公共の施設とサービスにおける『官民連携』の拡大」という観点から解説した。四反田氏は2014年4月に民間金融機関に入社後、2021年10月より内閣府民間資金等活用事業推進室に出向し、政府のPPP/PFIを推進する。

 

改定版のPPP/PFI推進アクションプランの基本方針と、目標に向けた施策とは?

PFIについては、平成11年に「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が制定され、その翌年にPFIの理念と実現方法を示す「基本方針」が内閣で策定され、PFI事業の枠組みが設けられた。

令和4年には、国と地方が一体となってPPP/PFIを推進すべく第18回民間資金等活用事業推進会議が開催され、次の10年に向けた新たな中期目標を盛り込んだ「PPP/PFI推進アクションプラン(令和4年改定版)」を決定した。このアクションプランでは事業規模目標30兆円を設定し、新たな分野・領域におけるコンセッション(PFI法に基づき、利用料金の徴収を行う公共施設について、所有権を公共主体が有したまま、民間事業者に公共施設等運営権を設定し、当該施設の運営を委ねる方式)等を拡大させる方針だ。

四反田氏は、「改定されたアクションプランの基本的な考え方は、岸田政権が掲げる「新しい資本主義」における「新たな官民連携」の柱としてPPP/PFIを推進し、地方創生やデジタル田園都市国家構想の実現にも大きく寄与するものとして位置付けられています。」と説明した【図1】。

【図1】厳しい財政状況の中で、PPP/PPIによって公共施設・サービス事業を最大限に活用し、またデジタル田園都市構想の推進力として地域課題を解決する。魅力的で活力ある地方を実現していくために、今後10年間で30兆円という目標を掲げた。

平成25年度から令和4年度までの事業規模目標21兆円を3年前倒しで達成したことから、新たに令和4年から10年間の事業規模目標を30兆円と設定している。

【図2】30兆円という目標のために「地域における活用拡大」「活用対策の拡大」「民間による創意工夫の最大化」「地域の主体の能力強化と人材確保」という方針を打ち出している。

しかし、地域における活用拡大という点では、都道府県・政令指定都市レベルでも12の県・都市がPFI事業を未実施で、人口10万人以上の都市では半分以上が取り組めていない状況だ。

「地域ごとにPFIの実施に偏りがあるため、幅広い自治体の取り組みが求められています。各自治体へのPPP/PFI専門家派遣数をこれまでの3倍増にするとともに、令和8年までにすべての都道府県に地域プラットフォームの設置を目指す方針です。また優先的検討規程の運用状況を把握し、実効性のある規程への見直しも図っていきます」と同氏。

活用対象の拡大に関しては、コンセッションなどで新たな領域を拡大していく。

「令和4年度からの当初の5年間を「重点実行期間」として、5年間の重点分野は、従来からの空港、水道、下水道、公営住宅等に加えて、今回新たに設定された分野として、スポーツ施設(スタジアム・アリーナ等)、文化・社会教育施設、国立大学、公園等があります」(同氏)【図3】。

【図3】今回のアクションプランで新たに設定された重点分野(右側)。重点分野以外での活用対象も拡大する。公民館や公園、地域交流の身近な施設、河川・港湾・国立公園、道路の維持管理といったキャッシュフローを生み出しにくいインフラにおいても官民連携を進めていく。

民間による創意工夫の最大化も重要だ。分野横断的な施策の展開を図り、行政だけでなく実効的な民間提案スキーム(加点インセンティブ)を導入し、民間企業が創意工夫を発揮できる制度・運用の改善を行っていくという。

同氏は「地域主体の能力強化と人材確保に関しては、PPP/PFIの情報発信はもとより、住民の福祉や地域経済・地域企業等への効果も見える化し、自治体や住民の皆様への理解を深めていきます。また、自治体への伴走型支援の強化、PPP/PFI手続きの簡易化等で、負担軽減にも着手していきます」と説明した。

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「PPP/PFIの活用による新たなまちづくり
~プラッツ習志野(習志野市生涯学習複合施設)~」
習志野市役所 総務部 情報政策課長
早川 誠貴 様

 

続いてPPP/PFIの代表的な2つの事例が示された。まず習志野市役所から「PPP/PFIの活用による新たなまちづくり ~プラッツ習志野(習志野市生涯学習複合施設)~」をテーマに、公共施設などの設計や建設、維持管理に取り組んだ早川誠貴氏が登壇した。早川氏は平成25年から2年間ほど内閣府の行政実務研修員として公共サービス改革推進室で働いた。その後、習志野市役所に戻り、資産管理課でプラッツ習志野の取り組みに携わり、現在は情報政策課に配属。また内閣府PPP/PFI行政実務専門家としても活躍している。

PPP/PFIの活用によって、新たなまちづくりを目指した習志野市の具体的な事例とは?

これまで千葉県の習志野市は「文教住宅都市」を標榜し、まちづくりに取り組んでいきた。そのような中で早川氏は、PPP/PFIを活用した新たなまちづくりの一環として、習志野生涯学習複合施設という公共施設の再生にチャレンジしたという。

早川氏は「PPP/PFIに取り組む自治体があまりなかったので、新しいことばかりで多くの課題が出ました。今回の公共施設の再生は、施設の廃館を含めた集約事業になったため、多くの意見が出て、一歩進んで二歩下がるという繰り返しで苦労しました。しかし再生プロジェクトを通じて、まちへの愛情も生まれました」と振り返った。

【図4】この再生プロジェクトは、京成大久保駅の半径1㎞以内のエリアにある建物の機能を保ちながら、近くの中央公園を中心にして他施設を集約するというもの。公民館、図書館、生涯学習センター、こども会館の4つの施設を廃館し、中央公園内の3つの施設にまとめて公園と一体再生を目指した。

同氏は「運が良かった点は、一斉に建てられた施設なので老朽化も同時に進み、タイミング的に古くなったものを一体化できたことです。自治体によっては新しい施設と古い施設が混在していることもあり、まとめるのが難しいこともあります」と語った。

本プロジェクトは。文教住宅都市の習志野市の基本理念を持続し、公共施設の再生計画モデル事業として開始。同市初めてのPFI事業で、基本設計から実施設計、建設、維持管理までを、平成29年から22年5ヵ月という長期間にわたり民間事業者に約72億円で契約した【図5】。

【図5】PFI事業と併せて、市有地を定期借地権によって貸し出すことで、民間に有効活用してもらう。つまりPFI事業と民間付帯事業を同時に一体化した、PPP事業との組み合わせになるものだ。

早川氏は「本事業を進めるにあたり、縦割りから横串へ、点から線・面への展開、ハードからソフトへ運営面を重視する方針にしました。人・施設・機能がつながることで相乗効果を発揮し、これを起爆剤に地域経済の活性化など、まちづくりに波及効果をもたらすことをイメージしました」と強調した。

本プロジェクトの特徴は以下の6つだ。かなり充実した事業内容になっていることが分かるだろう【図6】。

【図6】上記6つの事業内容を複合的に実施していくことがポイント。特に、このエリアは公共施設の老朽化が進んでおり、大震災クラスの地震が起きると50年以上の建物が倒壊する恐れもあり、早急な対応が求められた。

また同氏は、ほかにも複数の課題をあぶりだし、時代の変化に追従していくために、民間の活力を借りたという【図7】。

【図7】これまでは、施設の老朽化施設だけでなく、駐車場なども所管ごとにばらばらに管理され、連携が取れていなかった。図書館機能も学習スペースや蔵書が不足。バリアフリーへの対応も求められた。将来を考慮すると既存利用者だけでなく、新しい利用者を確保する必要もあった。商店街や大学がある北側とのつながりをつくることも重要だった。

同氏は、民間企業にアドバイザー業務を委託して良かった点について「彼らはPPP・PFIの知識や法務、建築などに専門性があり、事業も想定スケジュールどおりに概ね進められました。また事業者と市の間に立って、代弁者になってもらえたことなどもメリットでした」と評価した。

本プロジェクトのスキームとしては、「習志野大久保未来プロジェクト株式会社」という特別目的会社(SPC: (Special Purpose Company)を新たに設立し、千葉銀行と直接協定を結び、資金を融資してもらったという。このSPCの下に、事業マネジメント、設計・管理、建設・維持管理、運営といった業務を担う民間企業を配置した。

【図8】本プロジェクトの事業内容の一例。公園施設の駐車場を1ヵ所に集約することで、人と車の流れの動線を整理し、安全性を確保できたという。また駅前に近い土地を民間に貸して、カフェやスーパー、賃貸住宅などの施設を作り、若い世代の呼び水にした。

さらに箱物だけでなく、コンテンツとしてのサービスも充実させた。エレベータ・多目的トイレの設置、図書館の蔵書数の増加と閲覧スペースの拡大、子供のためのプレイパークや、市民で話し合えるフューチャーセンターなども設けた。施設ごとの所管については、直営か指定管理者か委託か、その運営手法を資産管理課が先導役となって決定し、最終的に教育委員会に引き継いだ。公園内の建築物の面積制限も条例改正でクリア。市民ニーズの把握は、ワークショップを実施しながらアイデアをまとめて、合意形成に向けたという。

早川氏は「世代別の人口動態が逆三角形に変化するなかで、規模が大きな公共施設を見直し、将来に向けて、ほどよい規模にしていくことが大切です。公共施設の再生は、過去・現在・未来をつなぐまちづくりであり、時代の変化に応じた長期的な適正化が求められます。それを実現するための熱い情熱も大切です」と公共施設再生の思いを語った。

そのためには仕込み・仕掛け・仕組みづくりも必要だ。さらに計画を実行し、課題、発見することも重要となる。プロジェクトを実行していく中では二律背反することも多く、それらのバランスをとることもポイントになったそうだ。

たとえば、目的と手段、見えるものと見えないもの、投資と負担といった両面を意識し、バランス良く実施する。官民連携とデジタルの基盤を当たり前のものとして推進する。そして何よりも、行政と民間事業者が対話とコミュニケーションを深め、パートナーシップを構築することが、その後の事業展開への実現につながるという。

最後に早川氏は「PPP/PFIの取り組みは時間がかかります。公共施設の再生は長期的であり、多くの意見がある中で、マネジメントに取り組んでいかねばなりません。冷めたものを再び熱くするには一層のパワーが必要です。将来の姿に熱い思いと危機感を持って、今この時間を共有する皆様がぜひ体現者となって下さい」と聴講者に訴えかけた。

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「公営住宅法の目的実現を推進する官民連携の推進について」
株式会社穴吹ハウジングサービス
HG経営戦略本部 PPP/PFI事業推進室 室長
岡 宏樹 様

 

PFIの事例について自治体から受託される側の立場から、香川県・高松市に本社を置く株式会社穴吹ハウジングサービス(以下、あなぶきハウジングサービス)、HG経営戦略本部 PPP/PFI推進室 室長 岡 宏樹氏が登壇した。岡氏は2020年より穴吹エンタープライズに出向し、指定管理業務のノウハウを学んで、その後あなぶきハウジングサービスでPPP/PFI推進室を立ち上げた。現在、公共施設の指定管理業者として活躍している。官民連携の取組みとして「公営住宅法の目的実現を推進する官民連携の指針について」というテーマでお話をいただいた。

 

県営・市営住宅のPPP/PFI事業を推進するあなぶきグループの取り組みと4つの課題解決案

あなぶきグループは、暮らしの総合サービサーとして、グループで47社・約11,000名が全国で展開している。北海道から沖縄まで、海外は台湾とベトナムで、独自のマンション管理サービスを提供中だ。日本の人口が減少していく中、いま空き家問題がクローズアップされている。2033年には空き家が995万戸になる。一方、マンションは現在700万戸ほどだが、中古マンション市場が伸長。築40年以上のマンションは20年後には425万戸まで伸びると予測されるため、同社も中古市場にターゲットを当てている。

岡氏は「特にマンション共用部の修繕工事が伸びるでしょう。2018年で年間7000億円ほどの規模が15年後には約7500億円になります。建替えの検討もありますが、できるだけ建物の延命を図り、100年の維持に向けて、こまめに修繕を行うことが、管理会社の腕の見せ所になります」と説明する。

少子高齢化社会では「量から質へ」「モノからコトへ」と成長の意味が変わっていく。本当にニーズに合った商品やサービスを提供することが、企業にとっても大事だ。住宅にも、自分たちの住みやすさや持続的な幸福(Well-being)が求められる時代だ。

同氏は「最近はマンション管理も量から質に変化しています。昔は近所づきあいが面倒という理由でマンションに住む方が大半でしたが、いまはコミュニティ形成を尊重している方が多いようです。マンション管理におけるWell-beingでは、孤立の回避や、近所や他者とのつながり、ボランティアなどの利他的活動が求められているのです」と指摘する。

そこで、あなぶきハウジングサービスは人材力を重視し、マンション管理力を学べる職業訓練学校を神奈川と香川県に設置。また24時間365日対応コールセンターも自社運営し、オペレータも現場経験者が的確な応対を行っている。また18ヵ国の多言語対応にも注力しているところだ。

同社は現在、PPP/PFI事業として香川の県営住宅30団地6336万戸と、松山の市営住宅36団地4110万戸の指定管理事業を各5年間にわたり展開中だ。岡氏は、事業立ち上げや事例から分かった4つの課題と解決策について紹介した【図9】~【図12】。

【課題1】自治体が持つ住宅管理システムを、指定管理者に貸与・使用できない

【図9】自治体が独自ネットワークのため、外部ネットワークとの接続が制限され、指定管理候補者を広く募ることができない。そこで、あなぶきハウジングサービスでは、独自の公営住宅管理システムを構築し、指定管理料の低減に寄与するサービスを提案しているところだ。

 

【課題2】公営住宅は立地が広域となり、業務検討所の検討が進まない

【図10】四国のように離島や山間部が多い立地では遠隔管理が求められる。あなぶきハウジングサービスではグループ企業などを通じ、既存のノウハウをベースに遠隔地の管理や緊急対応を効率化させている。また同社のコールセンターを活用することで業務効率を上げ、現場対応の頻度を削減している。

 

【課題3】運営する施設規模が、指定管理としての事業予算に合わない

【図11】全体の戸数が少なく、指定管理として事業規模に達していない案件は、民間に委託してもコストが合わない。また他施設と併せた横串の包括管理を目指しても、人が住みながらの管理では調整が難しい。そこで、いきなり統合管理業務を委託するのではなく、前段階で建物・設備の点検や修繕業務など、一部の業務を委託したり、コールセンターを外部委託することで、休日などの受付対応の負担を軽減するという提案を行っている。

 

【事例4】空き駐車場による使用料就任の低下

【図12】高齢化が進んで入居が停止される団地は、長時間の来客駐車や不法駐車が問題になる。一部の区画を月極やコインパーキングにする、花壇などを作って自治会コミュニティの場にすることを提案している。指定会社としては、こういったスペースを有効利用し、懇親会やイベントの運営などの支援を行うことも大事だという。

以上、これら2つの事例は、まだPPP/PFIの事例が少ない中で、公民連携による建設・維持管理・運営などにチャレンジしようとしている多くの自治体や民間事業者の参考になるだろう。

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(取材・文 井上猛雄)