開催報告 ODS第9回研究会(後編)
「kintoneで、ここまでできる! 自治体DXへのローコードツールの成功事例と課題」
一般社団法人SDGsデジタル社会推進機構(Organization of SDGs Digital Society、略称:ODS)は10月21日、第9回研究会「公共事業向けデジタルソリューションを活用した 自治体業務改革 ~行政業務の課題を職員自らデジタルで解決~」をオンラインとリアルのハイブリッドで開催しました。後編では、自治体に広く採用されるようになったサイボウズkintoneの特徴や強み、さらに自治体DXを加速するkintoneのプラグインやテンプレートなどの事例を紹介します。
「ノーコードプラットフォーム「kintone」を軸とした行政DXの広がり」
サイボウズ株式会社 営業本部 公共グループ リーダー
蒲原 大輔 様
ノーコードプラットフォーム・kintoneを提供するサイボウズは「チームワークあふれる社会を創る」というビジョンを掲げている。単にツールを導入するのではなく、その先にあるDXの本質として、各自治体や企業の組織文化を改革・推進していく必要があるからだ。
サイボウズの営業本部で公共グループを担当する蒲原大輔氏は、もともと品川区役所で約5年間の行政経験もあり、ExcelのマクロやVBAなどで業務改善を行っていた。しかし限界を感じて2016年にサイボウズに入社。その後、また働き方改革フェローという役職で鎌倉市に勤務するなど、官民を行き来しながら自治体DXを推進してきた。
ドラッグ&ドロップで誰でも簡単に、自治体のニッチなアプリやシステムを開発できる!
同氏は、自治体の勤務経験から「自治体DXの壁は高いと感じています。そもそもアプリケーションを外注するにも、内製化するにも課題があります。たとえば自治体の場合は、ニッチな業務が多く、市販パッケージソフトが存在しません。そうなると外注するために仕様書をゼロから作り、スクラッチで開発しなければなりませんが、予算を取れないという悩みもあります」と打ち明ける。
仮に予算が取れても、年単位での動きなので、導入・改修に時間が掛かってしまう。苦労して作ったソフトも、条例改正などで項目を変更する場合は、またベンダーに依頼しなければならず、その改修サイクルも遅い。
同氏は「一方で、ソフトを内製化する場合、職員が手軽に利用できるものはExcelやAccessになります。しかし、システム的に使うとなれば、どうしても関数やマクロを組み込む必要があり、属人化するため、人事異動があると引継ぎが難しくなるのです。ならば職員全員が、これらをマスターすればよいのでしょうが、多様な職種の行政では難しい状況です」と課題を挙げる。
そういった中で、プラグラミング知識が不要で、ドラッグ&ドロップでオブジェクトを置きながらソフトが作れるノーコードツールが行政の現場で活躍する。kintoneならば「データベース機能」「プロセス管理機能(ワークフロー機能)」「コミュニケーション機能」という3つの要素を備えたシステムを簡単に作成できる【図1】。
【図1】ノーコード開発ツール・kintoneの3大基本機能は「データベース機能」「プロセス管理機能(ワークフロー機能)」「コミュニケーション機能」だ。
たとえば、ドラッグ&ドロップでデータベースを作成し、必要なデータを蓄積し、部署の壁を越えて職員同士で情報の共有が可能だ。行政組織においては、議会や予算の関係で点在するデータを集計・可視化する業務が多い。kintoneでデータを一元管理し、可視化して、グラフ化することもできる。またデータベース機能だけでなく、ワークフロー機能があり、担当者から上長に承認を回したり、チャットなどでコミュニケーションが簡単に取れたりする機能も用意。
このようにkintoneは、現場レベルで業務を改善する強力な武器になる。時間と費用が掛からず、業務ニーズが変わっても自由に修正が可能だ。従来のExcelやAccessでは機能不足だが、kintoneならば必要な機能をカバーしており、それなりに複雑なシステム開発にも対応できるだろう。もちろんノーコードツールなので、後任への引継ぎも容易だ。また、行政のネットワークである「LGWAN」との接続も、kintoneパートナー企業が提供する専用Proxyで対応する。
kintoneを軸とした行政DXの広がりと、業務改革のポイントとは?
自治体によるkintoneの採用は、コロナ禍の影響もあり、2019年末の39団体から183団体(2022年10月現在)に大きく伸びた。大阪府では初めてkintoneに触った職員が、1週間でコロナ対応アプリを構築した。これまで自治体と保健所との情報共有はFAXだったが、患者数が爆発的に増えて職員も紙での対応ができなくなった。そこでデジタルで情報共有できるようにしたのだ。
さらに大阪府は、このkintoneアプリをzipファイルにして、全国の自治体に提供。同様に業務がパンク寸前で困っていた自治体がそのアプリを採用し、さらにそれをカスタマイズした埼玉県が、別の自治体に配布するという横展開にも成功。その間わずか3週間だった。このようにコロナ禍で迅速に開発できるメリットが評価されて、ここにきて採用数が急増したようだ(参考:自治体にキントーン)【図2】。
【図2】大阪府のkintone導入事例。プログラミング初体験の職員が1週間でコロナ対応アプリを構築した。このkintoneアプリをzipファイルにして全国の自治体にも提供。
大阪市や埼玉県のように、お互いの知見をシェアする動きも出てきたため、サイボウズでは全国の自治体と中央省庁が限定で入れるコミュニティ「Govtech kintone community」(通称ガブキン)を創設した。全国各地の自治体職員をつなげる場として、自治体が作成したアプリのシェアや各種勉強会を実施している。現在300団体1100名が参加しているそうだ【図3】。
【図2】自治体と中央省庁の限定コミュニティ「Govtech kintone community」(ガブキン)。アプリのシェアや各種勉強会を実施。
このガブキンから派生した取り組みとして、デジタル人材になるための勉強会「ガブキン道場」や、アプリシェアの仕組みとして「自治体kintoneずかん」や事例紹介の「ガブキンyoutubeチャンネル」などもあるという。
蒲原氏は、「kintoneを活用した業務改革のポイントとして、内製だけでなく、外注というパターンもあります。自治体の職員が自らアプリを開発できる点がkintoneの強みですが、アプリを内製化する時間がなかったり、独自で作れる自信がない場合には、パートナー企業の支援を利用し、プロと伴走しながら開発するのも良いでしょう」とアドバイスする。
サイボウズには、kintoneのパートナーネットワークがあり、導入支援の企業を紹介している。こういった企業と戦略的に連携することで、全庁への着実な浸透が図れる可能性がある。完全な内製化だと、立ち上げ時に無駄な労力が発生したり、あとでガバナンスが問題になったりして、どうしても展開が遅くなることもある。そこで知見を持つ企業が入ることで、開発にスタートダッシュがかかり、ガバナンスの利いた全庁展開が可能になるだろう。
「kintoneを活用した「Smart at 自治体DX」による行政業務のデジタル化」
M-SOLUTIONS株式会社 プロダクト本部 シニアストラテジスト
一色 恭輔 様
研究会の講演でトリを務めたのは、M-SOLUTIONSの一色恭輔氏だ。同社はソフトバンクグループの一員で、kintoneをより有効に活用する行政業務デジタル化ソリューションの提供と、kintoneの開発支援を進めている企業だ。これまでのkintoneの開発実績も900件と多い。
kintoneを活用した「Smart at 自治体DX」による行政業務のデジタル化支援
いま自治体DXの推進に向けて国の動きが進む中で、電子申請サービスも広がりを見せている。Webフォームを利用して、住民が簡単に申請できるようになった一方で、申請受理後の庁内の運用が、まだデジタル化していないという点があらたに浮き彫りになってきた。
「そこで我々は、kintoneを活用し、多くの業務に適用できるプラグインやテンプレートをセットにしたソリューションを提供しています。たとえば住民申請のWebフォームから、申請受領・確認・修正・申請承認までを一気通貫で電子化できるのが、Smart at 自治体DXです。」と説明する。
実際に1,718もの地方自治体がある中で、同様の業務を電子化するために、わざわざ各自治体が独自に模索しながら進めていくのでは効率がよくない。あらかじめ行政に役立つさまざまなWebフォームや電子申請テンプレートを用意し、自治体業務の一貫した電子プラットフォームとして貢献できるようにしているわけだ。【図4】。
【図4】自治体DX向けにWebフォーム申請など、kintoneの追加機能プラグインをセットにしてパッケージとして提供する 「Smart at 自治体DX」 。
kintoneとSmart at 自治体DXを利用した名古屋市のPoC事例
この8月から2か月間、名古屋市ではkintoneを導入して業務改善のPoCを実施したという。これはkintoneによって、どんな業務をどう効率化できるのかを具体的に見える化して確認する実証実験だ。
一色氏は「まずPoCの取り纏め主管となる部署と共に、デジタル化したい対象業務の募集と選定を行い、その業務内容をヒアリングしました。そのうえでkintoneとSmart at 自治体DXで7部署9業務についてアプリを作り、対象業務の原課へのレビューを行いました。」と振り返る。
たとえば「常勤講師の任用業務」(臨時的任用職員・任期付職員)という業務がある。年間2000件を超える先生の採用を、学校長が紙で申請してくるのだが、これまではその紙のデータをExcelに入力して処理していた。大半は1月から3月の繁忙期に業務が集中する。そこで電子申請の仕組みを利用し、Webフォームから学校長にデータを入力してもらうようにすることで、作業効率が大幅に改善する可能性を検証した。
また「初任給算定用履歴整合性の確認業務」の改善にも着手した。これは新しく採用される先生の経歴をベースに給与を設定する業務だ。年間400件程度の申請があるが、同様に紙からExcelに転記し、データの間違いがないように目検での確認を複数の職員で実施していた。これも採用者からWebフォームにデータを入力してもらい、kintoneのレコードで整合性をチェックして自動計算を行うなど、効率化の実現可能性を検証した。【図5】。
【図5】kintone+Smart at 自治体DX を利用した名古屋市のPoC事例。「常勤講師の任用業務」「初任給算定用履歴整合性の確認業務」など、7部署9業務についてアプリを作った。
ほかにも、部署組織共通マスタの構築やWeb会議用端末の貸出管理、管理公用車予約運行管理、会見年度任用職員の採用事務管理といった業務アプリをkintoneで構築した。多くの業務で紙の申請書などからExcelに転記する手作業の手間を省け、転記ミスの回避や確認作業の工数も削減できることを検証できた。
このようにkintone+Smart at 自治体DXを組み合わせることで、自治体のヒト・モノ・カネの課題を解決できるようになるという【図6】。
【図6】kintone+Smart at 自治体DXを組み合わせることで、ヒト・モノ・カネの観点から自治体の業務課題を解決できるようになる。
一色氏は「DX人材不足の課題や入札関連業務の負荷軽減についても、業務理解のある職員がkintoneを使って自ら取り組むことで解決できます。また運用が異なるシステムであっても、 kintoneの共通プラットフォームの上で業務を1つずつデジタル化していけます。改修が難しかったり、異なるシステムを使いこなすという課題も同一プラットフォームの上で統一された作りのもとで対応できるようになるでしょう。さらに予算確保や高コスト体質という課題も、kintoneで開発すれば構築コストだでなく、その後の運用コストも抑えられるのです」と強調する。
このようにkintoneとSmart at 自治体DXを活用することで、自治体の業務を強力にサポートし、DXを推進できるだろう。
【図6】市職員の誰でも kintoneを利用できるわけではなく、ヒアリングを実施してパスしたうえで、
IDを付与する。また本番アプリの運用も申請が必要になる。
kintoneについては、脱ペーパー・FAX、脱Excel、情報分散において特に効果が出やすい。神戸市ではkintoneだけでなく、「e-KOBE」といった他サービスも利用しながら、それぞれのメリットを発揮できるように運用しているそうだ。
「我々の目指すところはあくまでDXであり、kintoneは業務デジタル化の便利なツールと考えています。DX実現で大事な点は、前段階で業務の見直しや棚卸をして共通の課題を認識すること。その課題解決のためにkintoneが使えるということです。業務をデジタル化したうえでデータを活用し、さらに業務効率につなげていくという視点が求められます」とまとめた。
(取材・文 井上猛雄)